みのり頑張ります!3(試合後)
試合が終わり、医務室で治療を終えたみのりは控え室に戻って来た。本来この控え室には入れ替え戦に出る下のランクの者達での共同使用で、試合前の選手達が控えているのだが。現在はみのりしかいない。
おそらく試合に向けて一人で集中力を高めているのか、もしくは他の人の試合を見に行ってるのかのどちらかだろう。しかし今は誰もいないことがありがたい。みのりはそう考えながら備え付けの長椅子に腰掛け、ゆっくりしながら先程の試合を思い出す。
ギリギリの試合だった。単純な強さで比べたらおそらく負けていただろう。
「……でも勝った」
みのりは大きく息を吐く。身体は尋常ではない程に疲れているが、心の中は安堵で満たされている。
これで琥珀の側から去らなくても良い……。
この事は自分で決めていただけで、例え今回負けていても琥珀はきっと優しい言葉を掛けて慰めてくれたはずだ。そして、おそらく自分はその優しさに甘えていただろう。
しかしそんな女に価値は無い……。そう思ってしまうのだ。
実際の話、男に甘え続ける女性の話など聞いたことが無い。
そんな女は早々に見切りをつけられフラれてしまうのだ。
改めて思う。勝てて良かったと。琥珀は今、別の人の試合を見ているだろうし。祝福の言葉は明日掛けてくれるはずだ、明日は一杯甘えようとみのりは考える。
そうして明日の事に想いを馳せていると。控え室の扉が"コンコンコン"とノックされた。
部員の人が戻って来た……、そんな訳無い。もし部員だったら礼儀正しくノックなんかしないで、いきなりドアを開けるはずだ
「はい、どうぞ」
みのりの返答を聞いたのかドアがゆっくりと開いていく。空いたドアから入ってくるのは先程まで頭の中を占拠していた少年だった。もしかして祝福しに来てくれたと思い、みのりは長椅子から立ち上がり少年を迎え入れる。その少年、秦野 琥珀は何故だかきょろきょろと辺りを見回しながら控え室に入ってきた。
「琥珀さん?」
少し挙動不審な琥珀に小首を傾げながらみのりは声を掛ける。
声を掛けられた琥珀はきょろきょろとするのを止めて声の方……、みのりの方へと顔を向ける。
そして、スススッと素早く近づいてくる。その近づいてきた琥珀にみのりは自分の心が高鳴るのを明確に感じる。
理由は簡単で、いつもの琥珀と話をする距離と違うからである。そう今の距離は近いのである! 相手の息づかいや鼓動まで聞こえてきそうな距離なのだ。それに、いつもと違うのは距離だけでは無い。琥珀の顔も違うのだ。
もちろん顔の造形では無く、雰囲気とでも言おうか……、いつもの琥珀よりも少し赤い顔をしており、トロンとした眼でこちらを見てくる。そのどことなく色っぽい雰囲気にみのりは胸が高鳴る。
そ、そんな眼で見つめられると胸がきゅんきゅんします!
とみのりが心中で叫んでいると。琥珀はさらに近づいてきてピトリと身体をくっつけてきた。
「こここっ、琥珀さん!」
みのりは何時にない琥珀の行動に驚く。
「ん~、何かな~」
「い、いや何かなではなく、そんなぴったりと……」
「え~、嬉しくない?」
琥珀は身体をピトッとくっつけ、トロンとした眼でみのりを見つめながら指先で胸元をツンツンと突いてくる。嬉しい嬉しくないかで言われたら、間違いなく嬉しい。しかし、いつもの琥珀からは考えられない行動である。……考えられないが、みのりはこの降って沸いた状況を試合に勝ったご褒美だと自分に言い聞かせ、甘受することに決めた。そして一分一秒も無駄にしない為、全神経を集中させ今の状況を楽しむことにする。
「い、いえとても嬉しいです」
「良かった~」
そう言い琥珀はホニャリと顔に笑みを浮かべる。しかし直ぐにその顔が不満そうになる。
「ん~」
「えっと、どうしましたか?」
「顔にも細かい傷が出来てる……」
「あっ、そうですね。でも大丈夫ですよ。薬を塗って貰っていますので、後には残りませんから」
「痛そう……」
琥珀は指で優しく顔を撫でていく、みのりはその指にくすぐったさを覚えながら、試合に勝って本当に良かったと心の中で拍手喝采していた。
琥珀はしばらく指で撫でていたがその行為を止めると、少し思案する様な顔をしていた。
みのりは指の感触が無くなった事に寂しさを覚えるが、琥珀の思案顔も良いな、等とうっとりと見ていた。そして琥珀は考えが纏まったのか、みのりの顔に自分の顔を寄せる。
まさかキス! 近づいてきた琥珀の顔に、みのりは自分の顔を真っ赤にしながらこれからの展開に期待する。みのりの眼は琥珀の形の良い瑞々しい唇に釘付けになってしまう。しかしその唇はみのりの顔に触れはしなかった。
琥珀は形の良い唇を少し開けると、その間から赤い舌を出しみのりの顔をペロリと舐めた!
「こ、琥珀さん!」
「大丈夫、大丈夫。舐めると良いらしい……」
そう言いながら、琥珀は舌を使い丹念にみのりの傷を舐めあげていく。
みのりは舐められる度、身体に痺れるような刺激が走りピクリピクリと身体を震わせる。
「んっ! うんっ! ふぁ……」
「あとちょっと……」
……しばらくして琥珀が顔を離すと、みのりはぐったりと長椅子に腰を下ろした。
そんなみのりに琥珀は声を掛ける。
「じゃあ帰るね、今日はおめでとう」
「は、はい……おう……えん、ありがとう、ございました……」
みのりは息も絶え絶えに琥珀に返答した。




