テレビドラマ
生徒会での話し合いを終え、俺は帰宅する事にする。帰りの電車や駅からの道中では、部活には入らないか、生徒会に入るかのどちらにするかで悩んでいた。
入るべきか入らざるべきか……、悩みどころである、帰宅部も有りだがせっかく青春をもう一度過ごす事が出来るのだから、やってみたい気持ちもあるのだ。もし生徒会の手伝いをした時の事を考える。
……キラキラと気持ちの良い汗をかきながら、学園のために日々業務をこなす俺、そんな俺を見て感動に打ち震える絢爛の生徒達。
……悪くは無いのか? なにより俺の評判が上がることが良い。
しかしあれだな、ただ部活に入ろうとしただけで、なんでこんなに悩む必要が出てくるのか不思議である。俺がそんな事をつらつらと考えながら歩いていると、家が見えてくる。
……家が見えて来るのだが、その前に目に入ってくる人がいる。
その人は、俺の家の隣……、つまり人気小説家である菊水さんの家の前に立っており、その顔は無表情である。ただその手は激しく動いておりインターフォンを連続で鳴らしている……。無表情具合は家のメイドと言い勝負である。
普通なら不審人物として、声を掛けるなり、警察に連絡するなりするんだろうが、実は俺この人を何度か見たことがあり、菊水さんと一緒にいる所も見たことがあるのだ。詳しくは聞いた事は無いのだが、おそらく編集の人だろうと思っている。しかしあそこまで無心でインターフォンを押し続けているのを見ると編集者と言う仕事も大分と精神に来るのだろうと思ってしまう。
俺はその人を気にしないようにして家に入ろうとしたら、その人はインターフォンを押すのを止めこちらを見ると、ご迷惑をお掛けしております、と言い頭を下げてきた。
「あっ、はいお疲れ様です」
「先生が出てきてくれたら、話は早いのですが」
と言い、またインターフォンを押す作業に戻った。
俺はその様子を確認すると、作者と編集者のコミュニケーションとは大変な物なのだと思ったのである。
家に入ると、マリアが俺の帰りを知ったのか玄関に来て出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、隣で多分菊水さんの編集さんだと思う人と会ったよ」
「ああ、あの人ですか……」
「ん? 知ってるの」
「はい、最近よく来ていますので、顔見知りになりました」
無表情同士が顔見知りか……、気まずい空気にご近所の人達が引いてなければ良いが……。
俺はマリアと一緒に話しながらリビングに向かい、ソファーに座る。するとマリアはすぐにキッチンに向かい飲み物を用意してくれる。俺はそれを飲みながらマリアと話を続ける。
「……やっぱり人気作家だと忙しいのかな」
「そうですね、ドラマも始まりますし、色々と忙しい時期なのでしょう」
「えっ? ドラマ化するの?」
「ご存知ではありませんでしたか? 今日の九時が初回放送ですよ」
楽しみにしております、とマリアはどこか嬉しそうに言う。
「でも、十年も前から連載してる人気作なのに今までドラマ化されていなかったんだね」
「琥珀様、作品を考えて下さい」
「えっ?」
「あのお話は、何人もの男性が一人の女性に恋をして、迫ってくると言うお話です」
「ああ、うんそうだね」
「俳優はそんなドラマに好きこのんで出たいとは思いません」
「……ああ、そういうことか」
つまり役者が揃わなかったと……
「でも今回は良く揃ったね」
「はい、どうやら監督をした方が頼みに頼み込んだらしいです」
「へ~、ってよく知ってるね」
「はい、ドラマ化すると言う情報を手に入れてからこちら、すごく楽しみにしておりましたので」
「そっ、そうですか……」
「それに、洋子様も楽しみにしておられますよ」
「お母さんもか……」
「巷では既に、このドラマの初回を見るために有給を申請した人が多いとか……」
「なんだそれ……」
「今日はみなさん帰ってくるのが早いのでは無いでしょうか」
なんか前世でも同じような事があったと聞いた事があるような……
それから、時間が経ちドラマが始まる時間になった。
始まる二時間前には母親は帰ってきており、既に夕食もお風呂もすませて、万全の状態でマリアと共にテレビの前に陣取っている。
……そして、件のドラマが始まった。
結論から言うと、俺には微妙だった。確かに女優の演技は凄かったし、男性俳優も多く出ていたが、女優と比べ男性俳優の演技力が低いことが気に掛かった。そして何よりも男性俳優の顔が二枚目では無かったことが大きいと思う。しかしこの意見は、前世を思い出したからこその意見だ。実際に母親とマリアは実に楽しそうに見ていた。そして今は二人で感想の言い合いをしている。
「あ~、次の放送が楽しみだわ~」
「はい、初回二時間スペシャルでしたので、長く楽しめましたが、やはりこれから先の、男性達による主人公の取り合いが見たいですね」
「いや、まったくだね!」
「琥珀様も楽しかったですか?」
「えっ、お、俺はもう少し俳優の顔が良ければな~と……」
「…………」
「…………」
二人が黙って俺を見る。
「な、何?」
「琥珀君は自分を基準に考えたら駄目だよ、さっきの俳優さんも大人気なんだから」
「そうです、それに考えてみて下さい、あの中に琥珀様級の容姿の方がいたとしたら、一人だけすごく浮きます。その上考えるまでもなく、その人を選んで話が終わってしまいます」
そう言い二人はまたドラマの話で盛り上がっていく。
確かに、あの中にイケメン一人入れたら、迷う事無くイケメンを選んで終わるだろう、選ばなかったら視聴者から苦情が来そうだ……。
俺は母親とマリアが楽しそうにドラマの話をしているのを見ながらそう思った。




