お誘い
「パーティー?」
「うん……、お願いできないかな?」
あの後、詩乃さんについていき中庭に着いた。そこに設置されたベンチに座り詩乃さんが話し出した内容はパーティへのお誘いだった。話を聞くとパートナーとして男性を連れてこいと言われたらしい。
詩乃さんは手を胸の辺りで組み祈るようにしてこちらを見ている。
「お願いします。私に出来ることなら何でもするから!」
……何でも? 魅力的な言葉だ……。いや違う、反応してしまったが、今はこう返すべきだろう。
「詩乃さん、何でもするなんて言わないで」
そう言い、俺は両手を詩乃さんの肩に乗せジッと見つめる。
「詩乃さんが困っていたら助けるよ」
俺はそこで一旦言葉を切り、真面目な表情を笑顔に変え、詩乃さんに微笑みかける。
「だって詩乃さんは、俺の大事な友達だからね」
その言葉を聞いた詩乃さんは、赤くなりポーっとする。
そして、呆けた表情でお礼を言ってきた。
「あっ、ありがとー」
まるで起きながら夢を見ていると言った風である。目の焦点が合っていない。
大丈夫だろうか……。
「詩乃さん? 詩乃さ~ん?」
「ハッ!」
俺の呼びかけに、ようやく意識を取り戻したのか、詩乃さんがまともな顔になった。
「ごっ、ごめんなさい! そんなにあっさり良い返事を貰えるなんて思っていなくて」
「いや、さっきも言ったように、詩乃さんは大事な友達だから、困っていたら助けたいと思うのは普通だよ」
「う~、ありがと~」
大きな目に涙を浮かべながら、お礼を言ってくる。
「でも、パーティに着ていく服なんて持ってないけど……」
「あっ、その辺は心配しないで良いよ。全部こっちで用意するから」
「えっ」
「当然だよ、お願いして来て貰うんだから。服から装飾品まで全部見繕っておくから」
詩乃さんはニコニコしながら俺に言う。
「え~と、あんまり派手な物は選ばないで欲しいんだけど……」
「大丈夫! 琥珀君に似合う物を厳選しておくから」
「ほんとスーツとかで良いから」
「大丈夫! 大丈夫!」
太陽の様な笑顔で大丈夫を連呼してくる。
その言葉を聞くと、むしろ大丈夫じゃ無い気がしてくるから不思議である。
……いや、詩乃さんもわかってくれているはずだ! と思っておこう。その方が精神衛生上良い。
それに行くと決めたのだから、どんな服であれ精一杯パートナー役を務めようではないか!
「じゃあ、当日は迎えに行くから、家にいてね!」
「迎えに来るの?」
「うん、パーティはホテルで開かれるから、少し早めに行って、服を渡すからホテルで着替えてね」
えっ、何! 当日まで何着るかわかんないの! すごい不安だ……。
「あ~、本当に良かった~、琥珀君に断られたら、もう当てがなかったよ」
「他のクラスの男子は?」
「うっ!」
詩乃さんは気まずそうな顔をする。
「……なんて言うか、まだ打ち解けてない」
まぁ、まだ学校に入学してそれほど経ってないしな。
少し落ち込んでいる詩乃さんに慰めの言葉を掛ける。
「もう少し、時間が経ったらみんな慣れてきて、仲良くなれるよ」
「そうかな~、他の男の子、気難しそうだけど……」
それに、と詩乃さんが小声で何かを言う。
「琥珀君がいてくれるなら、それで……」
なんだろう声が小さくて聞こえない……。
「ごめん、詩乃さん聞こえなかった」
「あっ! ごめんなさい! なんでもないの」
「あっ、そう……?」
まぁ良いか。
でも、なんでもないと行った詩乃さんの顔は、赤くなっていた。
何か恥ずかしい事でも言ったのかもしれない。……もう少し、しっかりと聞き取っていれば何か反応を返せたのに! 若干の後悔をしてしまうが仕方がない。
少し落ち着いたのか、詩乃さんの顔から赤みが取れてきたので、気になってきた事を聞いておく。
「パーティってどんなの? マナーとかあまり知らないんだけど……」
俺の質問に詩乃さんは少し考えてから、答えを返してきた。
「立食パーティだから、あまりマナーは気にしなくてもいいよ。でも年上の人が多いから口の利き方には注意した方が良いかも」
まぁと詩乃さんは続ける。
「琥珀君はあまり喋ることが無いと思うから大丈夫だよ。でも誰かに誘われて、ホイホイついて行っちゃ駄目だからね!」
俺は子供か! さらに詩乃さんは続ける。
「琥珀君、優しいから騙されて、何処かのお姉さんに食べられないか心配だよ」
自分で言っておいて、その光景を思い浮かべたのか、表情を暗くする。
「そうだ! 護身用にナイフを渡しておくから、いざというときには、刺して逃げてきてね!」
なんでそう言う結論になるのか!
「いえ、ナイフは遠慮しておきます……」
「? 大丈夫だよ。男性は護衛のために所持を認められているから」
知ってるよ! 家のメイドから教えられてるよ! でもそんなこっちゃ無いんだよ!
時計を見ると、もう少しで授業が始まる時間になっていた。
「そろそろ、時間だし教室に戻ろうか?」
「そ、うだね」
俺の言葉に少し躊躇った様に言葉を返してくる。
どうしたのかと聞くと、詩乃さんは何でもないと首をふり、
ただ……、と言葉を繋げる。
「もうすこし、二人っきりで居たかったなって……」
……かわいらしい事をいう人である。




