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ボディタッチ

 朝の通学途中、俺は考えていた。

 何を考えていたかと言うと、前世の女の子の事だ。

 前世で男に人気のある女の子はいろんなタイプがいた。


 顔が良い女の子、愛嬌がある女の子、元気な女の子、色っぽい女の子、これらの様なタイプの子が人気があった。しかしこれらの女の子よりも、もてていた女の子達が居たのだ。そして、その子達が共通して持っていた技がある。


 ……それは、ボディタッチ


 彼女たちは、その技を持って男を落として行くのだ! ボディタッチをされた男は、触れてきた女性を意識させられ、その上触れられたことで警戒感を無くし、なおかつ好感度を上げるのだ。そして気を良くしてこう思ってしまう。


 彼女は僕に気があるんだ……、と。


 それは女性の恋愛テクニックであるのだ。

 しかし、悲しいことに女性はこのテクニックを、好きでも無い男性にも使う。そして使われた男性も、先の様に自分に気があるのだと思ってしまう、そして女性に告白をして言われるのだ。


 ごめんなさい、そんな気じゃなかったの……。


 いや、違う俺の経験じゃない!


 ……とまあ、このように恐るべきテクニックでは有るのだが、この世界で俺は使わなかった。

 実は今までも、実行しようと思ったことはあるのだが、そのたびに躊躇ってしまうのだ。

 その理由は、前世の記憶にある。このボディタッチは女性から男性にすると喜ばれる事が多いのだが、逆に男性から女性にすると途端にセクハラになるのである。


 ……恐ろしい!


 この世界ではセクハラ扱いされる事は無いと分かってはいるのだが、どうしても脳裏にセクハラと言う言葉が浮かんできて尻込みしてしまい今まで使わなかった、いや使えなかった! ……が、効果的なのはわかっているのに使わないのはもったいない!


 そんなことを考えながら歩いていると、ちょうどパン屋”小麦の里”の近くだった。

 お店の前には掃除をしている店員さんがいる。高校で電車通学の為、駅に向かう途中で、お店の前を通るのだが、いつも見かける。とりあえず知らない仲では無いので、いつも朝の挨拶をしているのだが、今日は少し試させて貰おう。


 そう思っていると、ちょうど店員さんがこちらに気がつく。


「あっ、おはようございます。今日も良い天気ですね!」


 良く通る声でこちらに挨拶をしてくる。


「おはようございます、朝からお掃除お疲れ様です」

「あはっ、これは秦野さんに会いたくてしているんですよ」


 うん、多分そうだと思っていました。しかし、今はその言葉を待っていた。


「あはは、お世辞が上手いんですから」


 俺はそう言って、店員さんの肩口辺りをぽんと優しく触れる。

 すると店員さんは、一瞬硬直すると俺が触れた辺りをジッと見ている。


「え~と、どうかしました?」


 もしかして、失敗したか……と思いながら店員さんに声を掛ける。


「これは……、つまり足を舐めろと言うことでしょうか?」

「何がどうなってその言葉が出た?」


 店員さんが真面目な顔であまりにもおかしな事を言い出したので、思わず敬語も忘れて素で反応してしまう。

 すると自分のおかしな発言に気がついたのか、ハッとした顔をする。


「す、すいません! 男の子に触られたの初めてだったんで、ちょっと動揺してしまいました」


 いや、動揺したからといって、あの発言はおかしい……。


「しかし、アレですね! 男性に触れられるのは、何かふわふわしますね」

「ふわふわ……、嫌な感じでは無いですか?」

「そんな! 滅相もない、お願いできるならじっくりとして欲しいですよ!」


 なんだか、ちょっとやらしい感じがする発言だな……、ともかくボディタッチは好意的に受け止められるという訳だな。

 やっぱり、この世界でもこの行為は、受け入れられると言うことか、喜ばれるなら少しずつ使っていこう。


「えと、じゃあ俺はこれで……」

「はい、いってらっしゃい!」


 店員さんは手を振って見送ってくれる。しかし、あの店員さんはどういう思考の結果、足を舐めると言う結論に達したのか? 謎である……。





 その後は、清明の生徒に侮蔑の目で見られる事以外、変わったことも無く教室に着いた。……いや、侮蔑の目も今や日常の一部だな。別にエムでは無いので嬉しくないが。しかし毎日この視線を浴びているなら、絢爛の男子がいつも機嫌悪そうなのもわかる気がするな。うっとうしい事この上ない。


 教室に着きドアを開け中に入ると、すぐに朝の挨拶が飛んできた。


「おはっ……」

「おはよう!」


 挨拶してきたのは詩乃さんだった、その前に誰かの声が聞こえたような気がしたけど気のせいかな?


「おはよう詩乃さん」

「え~とね琥珀君、実はお願いしたいことがあるの」


 挨拶を返すと、詩乃さんは言い辛そうな、しかし真面目な顔でそんな事を言ってきた。


「お願い? まぁ良いけど」

「ほんと! じゃあちょっと別の所で話そう」


 そう言い詩乃さんは教室の外へ出ていく。俺も彼女の後に続いて外に出て行く。出る時に見た教室の光景は、委員長、いや元委員長が三枝さんに慰められている姿だった。


 ……何があったんだろう?


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