校門前の一悶着
笑顔で俺たちを迎える秦野琥珀。
なんていうか、キラキラの笑顔でこちらを迎えてくれている。
もうニッコニッコである。まるで親しい友人に久しぶりに会ったような歓迎振りである。
その顔にはこちらに対する負の思いなどは一切感じることができない。
それに引き替えこちらのメンバーは、日比谷は疲れたような顔で、神田は怒りを露わし、田町はキョドっている。
「皆さんこの暑い中、良くいらしてくれました。生徒会室に冷たい飲み物を準備してますのでこちらへどうぞ」
「ああ、ありがとう。秦野君もこの暑い中、俺たちを待って外にいるなんて大変だっただろう」
「白銀生徒会長、ご心配ありがとうございます。でも皆さんをスムーズにご案内するのが僕の仕事ですので気にしないでください」
……普通に良い子なのでは?
俺はにこやかにそう答える秦野琥珀を見てそう感じた。
思い返して見れば、俺は秦野君とあまり関わったことがないんだよな……。人づてに、なんかすごい悪いやつと聞くことはあったが、やはり実際に関わって見ないと、その人となりなんかはわからないものだなぁ。
まだ少ししか話してはいないので評価を下すことはできないが、ここまでは悪い印象は受けない。
「秦野! 俺は騙されないぞ!」
「えっ……と……?」
そう思っていると、神田が秦野君に何か絡んでしまった。今の話に何か騙すような話が有っただろうか?
秦野君も何のことかわからずに困っているじゃないか。一体神田はどうしたのだろう? 以前の冷静な神田に戻って欲しい。
「神田、失礼なことを言うな。一体彼が何を騙していると言うんだ?」
「会長! コイツの話を信じては駄目です。コイツの話は十あれば十が嘘です!」
そんな訳あるか! そんなに嘘があったら流石にわかるわ! ていうか全部嘘じゃねぇか! せめて一割は真実は混ぜろよ!
「秦野」
「何かな?」
神田はそのままの勢いで秦野君に食ってかかる。当の秦野君は困ったなぁという表情だ。ゴメンねうちの子が。
俺も早く冷房の効いた部屋で休みたいんだけど。
「墓穴を掘ったな」
「えっ?」
「飲み物を準備している、だと……?」
「えっ、あ、うん……してるけど……」
なんだろう? それのどこに引っかかったんだ神田は? しかしその表情は自信に満ちており、薄らと笑みまで浮かんでいる。これはほとんど確信しているのだろう。これは清明の生徒会長としても聞き逃せない! そう思い俺は一言一句逃すまいと耳をすます。
「君がそんな親切なことをするはずが無いだろう! 確かに今日は暑い。冷たい飲み物が欲しくなるだろう。君はそんな僕たちの思考を先回りし、その飲み物に細工をしかけているはずだ!」
「……?」
「おそらく下剤かなにかのね……。そして苦しむ僕たちの姿を見てあざ笑い、写真を撮り、そして脅すのだろう?」
「いや……そんなこと……」
「甘かったな。僕には通じない」
言いがかりー! すごい言いがかりー!! 真剣に聞いてしまったことをこれほど後悔したこともなかったぞ! どうしてくれるんだ神田! そんなことあるはず無いだろう! これは学校行事の一環だぞ。そこで在籍している生徒がそんな問題起こしたら、大問題だ。それも俺たち男に対してやったらそれこそ一大事だ。
少し考えればわかるだろう、ちょっと冷静になって欲しい。
それにしてもあざ笑いからの写真撮影、脅しのコンボとか陰険すぎじゃないですかねぇ!
神田はドヤ顔してるが、言いがかりをつけられた秦野君はどうして良いかわからず困ってるし、日比谷も呆れた顔を隠そうともしていない。他のメンバーだって……。
いや中にはマサカッ! って顔してるヤツもいるわ。なんでだよ!
「神田……」
「生徒会長! 彼の策略は既に見抜きました。ご安心を!」
「秦野君に謝罪をしろ」
「えっ……」
なんか神田が裏切られたような顔をしているが、コイツは俺の胃にダメージを与えたことを謝って欲しい。
「彼ら絢爛生徒会のメンバーは俺たちのことを考えて、案内の彼を置いてくれたり、飲み物を用意してくれたりしてくれているんだ。その好意を無碍にするような発言をしたことに対して謝罪をしろ」
「だって……!」
「仮に彼が俺たちに対して、良い感情を持っていなかったとしても、このような多くの人間が集まる場でお前が言うようなことをするような短慮な人間ではないはずだろう」
「……そうだな秦野は腐ったどぶ水のような性格の人間だが、それ故に隙がない」
日比谷ー! 突然入ってきて秦野君への熱いディスはどうかと思うけどー!
ホラー、秦野君も顔が引き攣ってるじゃないか。
しかしその日比谷のディスが神田に響いたのか、神田は心底嫌そうに謝罪を口にする。
「す、すまなかった……」
「すまない秦野君。失礼なことを言った。神田の許した俺の責任でもある俺からも謝罪させてもらおう。すまなかった」
そう言って俺は頭をさげた。
「はい、謝罪を受け入れます。もう気にしないでください」
そんな俺に秦野君はニッコリと笑って許してくれた。怒鳴られても仕方がないと思っていたが……。
「白銀会長も大変ですね。胃の調子は大丈夫ですか?」
そのうえ俺の体の心配までしてくれるとは、やはり優しいのでは?




