絢爛高校への道
「ううぅ……」
俺は無意識にお腹をさする。
一応、胃潰瘍は治り、こうして生徒会の仕事に戻った俺、清明男子高校の生徒会長である白銀昴だが、やはり、これから行う絢爛との打ち合わせで、またストレスが掛かるのかと思うと、再発しそうで気が滅入ってくる。
久しぶりに生徒会の業務に戻ったわけだが、俺がいない間は日比谷が副会長として、絢爛高校の生徒会と滞りなく打ち合わせを進めて言ってくれていたらしい。
思う所はあるのだろうが、既に話は進んでいるので、自分の意見を押さえて催事の成功のためにその力を使ってくれている。むしろ自分が余計なことを言うと絢爛との共同作業において悪い影響を与えると考えているのだろう。日比谷は優秀な人間なのでその能力を十全に使ってくれれば、どんな問題にも対処してくれると思う。
以前は俺と言う生徒会長が上にいたので、不満などを憚らずいうことがあったが、俺がいなくなったことで、リーダーが既に決まったことに不平をいうわけにも行かなかったという理由もあったのだろう。
「どうした白銀? まだ体調が良くないのならば欠席しても大丈夫だぞ」
「……いや、大丈夫だ」
日比谷は他人を気づかえるほど視野が広くなった、以前は家が上流家庭だったのも影響していたのだろうが、優秀な反面、周囲を気を配るほどの配慮を見せることはなかった。それどころか周囲の人間が自分に気をつかうのが当然だと言わんばかりの態度だったのだ。
こうした日比谷の成長を実感すると、胸にジーンとくるものがある。これを考えると絢爛の秦野とのやり取りも悪くは無かったのではと思えてくる。
しかし、成長した人間もいれば、退行したと思ってしまう人間もいる。
「早く行きましょう会長。今日はあのくされ唐変木の野郎もくるんですよね? 成長した俺の姿を見せてやりますよ!」
そう言って声を張り上げたのは、俺の補佐をしてくれていた一年生の神田である。彼は一年生ながらその優秀さで生徒会に引っ張ってきた人間だ。以前のコイツは冷静に物事を進め、一年生全体の中でもリーダーシップを取るカリスマ性があった。しかし今の神田は件の秦野と争ってから、その面影はなくなり、秦野に一泡吹かせると息巻いている始末だ。
そのせいだろうか、現在の一年生は群雄割拠。誰が一年のトップを取るか熾烈な争いが起きているらしい。
……正直、まとめ上げてくれてスムーズに学校運営に携わってくれるなら誰でも良いのだが。現在の一年はクラス間で非常に仲が悪くなっており、少しの火種で大火事になる可能性もあるとのことだ。
……胃が痛い。
「神田君……今日は秦野君がメインじゃないからね。キチンと文化祭の話をしないと……」
「ハッ……! そんな事はわかってるよ。いちいち僕に意見をしないでくれ」
「ご、ごめん……」
副会長の補佐をしている田町の正論を、切って捨てる神田。
以前は仲が良かった二人も今ではこの有様である。神田がこの状態になる前は二人で将来の生徒会を担って思うつもりだったのだが、これでは安心して任せる事が難しい。
……胃が痛い。
「神田、田町は間違ったことを言ってはいない。そんな言い方をするのはおかしいと思うが?」
「副会長……」
可愛がっている後輩に対してのフォローだろう。日比谷が神田を注意するが、今の神田は誰にでも噛みつく狂犬のようなものだ。
この注意も意に介さないだろう。
「僕は副会長と違って秦野に兜を脱いだつもりはないんですよ……!」
「……確かに、俺はあの一戦では負けたが、秦野に対して降伏したつもりはない」
「どうだか……」
「そして、今から行われるのは文化祭の話だ。お前の態度では絢爛の生徒会のメンバーに不愉快な思いをさせてしまう。自重しろ」
「チッ……。わかりました」
日比谷の言葉に視線をフイッと逸らす神田。
「田町、お前も間違ったことは言っていないのだから、軽々しく謝るな」
「は、はい」
「フッ、まぁその優しさがお前の良いところでもあるのだがな」
そう言って後輩のフォローも忘れない。
こうして見ると、日比谷の成長が著しい。俺は少し嬉しく思ってしまう。よくぞそこまで成長してくれた。
こんな感じで現在の清明の生徒会は問題が山積みではあるが、それはそれとして何回も打ち合わせを重ねているからか、彼らの女子に対しての態度は幾分和らいでいる。
これは文化祭の運営に関しても、これから先の人生に取っても良いことだろう。
学校側もこういった側面を成長させたかったのだろう。そう考えるとこの共同文化祭は今のところ順調と言えるだろう。
「さて、そろそろ絢爛につく。無駄話はそこまでにしておこう」
「そうだな。いつもなら校門に絢爛の生徒会メンバーが出迎えてくれているが……」
絢爛高校は広いからな。案内がなかったら迷う可能性もあるからの配慮だろう。ありがたいことだ。
校門が見えてくる。確かに門の前に誰かが立っているのが見え……、えっ? お前が待ってるの? 大丈夫? ケンカしない?
「あっ、清明の皆さん。おはよーございまーす!」
「えーと、おはよう」
「……お前か」
「秦野!」
先ほどまで話にでていた秦野琥珀が元気よく挨拶してきた。
それに対して、嘆息するように日比谷が声を出し、神田はギりっと歯を食いしばる。
取り敢えず、朝の挨拶はするように注意しよう。




