家では
琥珀様が旅行に行ってから数日経った。琥珀様が旅行に行ったばかりの時は、洋子様はさみしい、さみしいと呟いていたが、やはり慣れるものなのか、今では写真を見てため息をつくだけになっている。
しかし、そんな洋子様だが今日は元気だ。なんせ今日は休日だ。
朝早く起きる必要もないし、朝早くからお酒を飲んでも誰も文句は言わない。
そんな休日の日、洋子様は突然こう言ってきた。
「女子会をしましょう」
「……女子会、ですか?」
「うん。たまにはマリアもゆっくりとしましょうよ。琥珀君もいないし少しぐらい、だらけた所を見せても罰はあたらないわ。夏休みというものがない我々社会人にとって、たまの休日くらい羽目を外しす必要があるのよ!」
洋子様はグッと拳を握り、力強くそう言った。確かにたまにはストレスの発散をするのは必要だ。私はなるほど、と頷いた。
「わかりました。それではなにか料理をつくっておきます」
「ありがとうー! じゃあお願いするわね。私はお酒を買ってくるわ」
「えっ……?」
お酒ならまだ家に一杯有りますが。そう言う前に洋子様は家を飛び出して言った。
まぁ、洋子様からしたら足りないのかも知れない。……あの人の肝臓は一体どれほど強靱なのだろうか? 私もお酒には強いほうだが洋子様には負けると思う。
「さて、それでは作りますか……」
まぁお酒のあてになるものを種類多めに作りましょう。
今日は中華系で行きましょう。唐揚げ、麻婆豆腐、春巻き、餃子……、とお酒に合いそうな料理を思い浮かべて材料の準備をしていく。
その途中、私のスマートフォンに洋子様からの連絡が入る。
『お隣の菊水さんと会ったから、誘いました。一人分追加でお願い!』
かしこまりました。……と。
では作っていきましょうか。私はエプロンを装着し調理に取りかかった。
◆◆◆◆◆
「ただいまー!」
「……ほ、ほ、本日はお招く下さり……、あ、ありがとうございます」
「おかえりなさいませ。菊水様もようこそお出でくださいました」
「いやー、ちょうど酒屋さんに行く途中でバッタリと会っちゃって。聞けば、原稿の締め切りが迫ってるけど殆ど進んでないから、編集の人に連れて行かれそうになったから逃げて来たらしくて」
「ち、違います……。に、逃げてきたのではなく……書き上げる、た、ために外へと羽ばたいたのです」
「まぁこんな風に大分、参ってたみたいだから連れてきました」
「はぁ……」
それは大丈夫なのでしょうか? しかし彼女は売れっ子の作家である。その辺りはなんとか帳尻を合わせてくるのだろう。そして、相変わらず私と目を合わせてくれないお隣の小説家、菊水さんを迎えて女子会は始まった。
「かんぱーい!」
「乾杯」
「かかか、かんぱい……」
チンとグラスが合わさる音をさせて、お酒を口に運ぶ。……口に中にしっかりと旨味と豊かな風味が広がる。とても美味しいお酒だ。
「これ美味しいでしょ! 大吟醸 金牛って言うお酒でたまたま入荷したらしくって衝動買いしちゃったわ!」
「はい、とても美味しいです」
でしょうでしょうと満足気に頷く洋子様。さすがお酒が好きなだけあって選ぶのも上手い。ビールも一杯あるよー、とドンと机の上に置く洋子様はとても楽しそうだ。
「き、今日は、こ、こ、琥珀君は、い……いないんですね……」
私たちだけでご飯を食べているのが気になったのか菊水様はキョロキョロと部屋を見ながらそう言った。
「そうなのー。なんでもお友達と旅行に行くっていうのよ! お母さんをおいて!」
「えと……」
「いや、もうビックリよ! 会社に東華院豊成から電話が掛かってきたときは、私殺されるんじゃないかと思ったわよ!」
圧迫面接かよ! って思った。と洋子様は嘆いている。
「そしたら、絶対に身の安全を保証するから、孫達との旅行を許可して欲しい。ってお願いされて……。私も男の子を狼な女の子の集団に放り込むのはどうだと思ったんで、断ったんだけど……。高校時代の思い出は大事とか、絶対に琥珀君に嫌な思いはさせないって強く言われて。最終的には琥珀君は既に了承しているからってことで許したけど……」
東華院豊成も無茶なことを言っているのが分かっていたのだろう。年頃の男子を、これまた年頃の娘と何日も同じ屋根の下で過ごさせるなんてことは。……しかしその言い方だと。
「そ、それだったら、琥珀君がい、嫌じゃなかったら……な、なにか起きる?」
同じことを考えたのが菊水さんがポツリとそんなことを言った。
「あははー。まさかうちの琥珀君に限ってそんなこと……」
「でででも、そういう子に限って一夏の開放感から……」
「……でもそんな? まさか……」
ブツブツと小さな声で洋子様が呟く、そしてバッと顔あげ高らかに言った。
「飲もう! 大丈夫、琥珀君はとても良く将来のことを考えている子です! それに今私たちができるのは飲むことだけです!」
そう言ってグラスをあげる洋子様に私と菊水様は、再度グラスを合わせた。
この日、消費したお酒の量は、およそ淑女が嗜む量をはるかに凌駕していたとだけ言っておこう。
そして菊水さんは小説のエピソードに一夏の経験をした純情な少年を書いたらしい。




