待ち時間
とうとう肝試しが始まってしまった。俺たちはこの場に来てくれた、霊能者さん達の数に合わせ、三組に分かれて山へと進む。ちなみに俺は最後のグループで、一緒に行くのは詩乃さんと三島さんだ。既に二組のグループは先に行っており、最後のグループである俺たちは少し時間を開けての出発となる。
「うう……」
三島さんが山道の入り口を不安そうに見つめている。恐らくお化けや妖怪などという、オカルトが苦手なのだろう。普通は怖がっている姿を男に見られれば、幻滅されるので必死に耐えているのだろうが、いかんせん、態度に表れすぎだ。しかし、俺という男は、この世界の男性と若干、女性に対しての認識が違うため、今の三島さんの姿は、庇護欲をそそるものがある。
それに引き換え詩乃さんは、少し怖いなどと先程言っていたが、その待ち姿には、まったく怖いという雰囲気が感じられない。実際、今だって時計を見ながら、『そろそろいいかな?』などと呟いている。お化けがでると言っていた張本人のくせにまったく意識していないのはどうなのだろう?
そして出るかわからないお化けより、脅威を感じる霊能者。それが俺と一緒に行くメンバーだ。このグループについて来てくれる霊能者は、西洋人形を持った、およそカタギの仕事には就けそうにない人だ。
ぶっちゃけ、あの三人の中でも一番不気味な人である。……しかしどの人を選んでも良いよと言われたとしても、恐らく俺は選ぶことが出来ないだろう。
現に、キョンシーを連れた人のグループは人数が多くても、その大半が死体という地獄絵図だ。ピョンピョンと規則正しく飛び跳ねながら、動くキョンシーは、ともすればコミカルに見えるのかも知れないが、五体もの大人の大きさの物が出す音と振動は、肝試しで辺りの雰囲気を楽しむ要素をブチ消して、後ろしか気にならないようになっていた。
「フヒ……フヒヒ……。ど、どうしましょうフランソワーズ、男の子と一緒にハイキングだなんて……まるでデートみたい」
『そうねジョゼフィーヌ。男女が一緒に歩くんだから、デートみたいでは無くて、もうデートしてると言っても過言ではないのではなくて?』
「そ、そう? そうよね。ウフフ……これが私のは、初デートなのね」
『静かな山道を二人で歩くだなんて、とてもとてもロマンチックだわ』
……いつの間にか、霊能者さんが近くに来ていた。何やらお話をされているようだが、怖くて振り向けない。聞こえて来た会話から察するに、人間の方がジョゼフィーヌ、人形がフランソワーズみたいだ。……大変恐縮だが、一刻も早く記憶から消してしまいたい。しかしそんなことを考えている俺を余所に、会話は続いていく。
「で、でもフランソワーズ……。私、男性を喜ばせる軽快なトーク術持っていないわ。困ったわ。とても困ったわ」
……安心してください。その格好で軽快なトークをされたら違和感が半端ないですよ。
『ジョゼフィーヌ安心するのよ。軽快なトーク術なんて必要ないわ』
ないのかよ。
「そうなの……? 何故かしら何故かしら? 教えてフランソワーズ」
『フフ、まったくジョゼフィーヌは手が掛かるわね。でもよろしくてよ。この社交界の薔薇と呼ばれた私が教えてあげるわ』
……もしかしてその人形、魂的な物が入ってるんですかね? ……いや、怖くて聞けませんけど。
『そもそも、こんな静かで雰囲気のある場所なのに、軽快なトークなんてしてみなさい。せっかくのロマンチックな雰囲気がぶち壊しよ。こんな場所では、静かに一言二言、語りかけるだけで良いの』
「そ、それだけ……?」
ジョゼフィーヌさんから発せられた言葉には不安な気持ちが乗っている。
『ええ、それだけよ。後は言葉ではなく、行動で示しなさい。静かに手を握るなり、そっと肩を抱き寄せるなり。そうね雰囲気次第ではキスもOKよ』
「キ、キス……」
ん? 静かになった……?
「ギャアアアアアアアアアアー!!!」
!!!!! 何!? 何が背後で起こってんの!?
「恥ずかしい! 恥ずかしいわ。フランソワーズ!」
『フフ、まったく。ウブなんだから、ジョゼフィーヌは……』
……もしかして恥ずかしくて声を上げただけ? いや、マジいい加減にしてくれませんかね? どう考えても今のは死ぬ間際にあげる声だろう! 言っとくが今の叫び声で俺のSAN値はガリガリ削られたからな!
それに声に驚いた詩乃さん達がこっちに来てるじゃないか!
「どうかしました!?」
メイドさんと話していた詩乃さんが叫び声に反応して様子を聞いてくる。
「もしかして……お化け、出ました?」
「……」
「あの……」
「いいえ。お化けと呼べる物は来ていないわ……。ただ木端な雑霊が集まっていたから追い払っただけ」
こ、こいつ……なんの抵抗も無く、嘘つきやがった。
しかし、その嘘に安心したのか、詩乃さんはホッと息を吐いていた。
「じゃあ、そろそろ時間だから私達も行こうか」
「お、お〜」
「フヒ!」
詩乃さんの言葉に三島さんが可愛い気勢をあげ、霊能者さんが怪しく笑った。そんな中、俺はお腹が痛くなってきた。




