お風呂へ
「さんじゅー……」
腹筋を終え、三島さんは荒い息を吐く。……腕立て、腹筋、スクワットやったから、次は背筋かな? そんな三島さんを見ながら、俺が次の命令を考える。別に三島さんを狙ってる訳じゃないのだが、せっかくなのでこの路線で行くべきだろう。
「みなさん、そろそろお風呂に入られてはどうでしょうか?」
三島さんが腹筋を終わらせたのを確認して、さあ次のゲームだ! とみんなが気合いを入れた時に、そんな声がかけられた。
そちらを見ると、ここまで連れて来てくれた、詩乃さん付きのメイドさんが立っていた。
時計をみると、既に九時を回っており、彼女が言うようにそろそろお風呂に入って寝る準備をしても良い時間である。
しかし詩乃さんはそんな進言に反論する。
「結、悪いんだけど今は真剣勝負をしているの口を出さないで……」
「結さん、詩乃の言うとおりです」
「そう、だね……ここで引いては女の沽券に関わる」
続いて柚香さんと南方院さんも、詩乃さんの言葉に同意するようにメイドさんの言葉に反論する。
しかしメイドさんはそんなお嬢様方の言葉に呆れた顔をした。
「はぁ……お嬢様達が心の底から秦野様にエロい事をしたいと言うゲスい想いを抱えているかはわかりましたが、明日は朝から遊び通すのでしょう? 今日は移動でお疲れになったのですから、お早めにお休みください」
「フッ……結は何を言っているのかな? 私達は純粋に勝負をしているのであって、そこにいやらしい考えなんて微塵も無いわ」
ニヒルな顔してそう言う詩乃さんだが、その目は泳いでいる。
「では勝負は秦野様の勝ちではないですか? 三回もチャンスが有って、負けたのですから諦めてください」
「次は勝つし……」
「パチンコで負けた人が言いそうなセリフですね」
無慈悲な言葉を掛けるメイドさんに、詩乃さんだけでなく、他の娘もショックを受けていた。
……どこにショックを受ける要素があるのか? まさにメイドさんの言葉通りだろう。
「それに、ホラ……」
メイドさんの視線が三島さんへ向く。
「三島様は汗だくです。いくら夏とは言え屋敷は空調が効いています。そのままでは風邪をひいてしまうかもしれません」
確かに三島さんは先ほどのからの筋トレで汗をかいている。その肌にTシャツが貼り付き、体の線を明確に形づくる。大きく形の良い胸に括れた腰、それが荒い息と共に動く様子は扇情的に映る。……まぁ当の本人はただ疲れているだけだろうけど。
「と言うわけで、ゲームはこれで終了です。早くお風呂に入ってきてください」
「ああっ!」
「そんなっ!」
メイドさんはそう言うと容器と棒を回収し去って行った。
「ううっ……しょうがない。みんなお風呂に入ろうか」
「仕方がないですね。百合も汗を流したいでしょうし」
「……流したい」
確かお風呂は温泉を引いてるって言ってたよな。楽しみである。まぁそれはそれとして、勝者として敗者を煽っておかなければならないだろう。
俺は席を立とうとしている詩乃さん達に聞こえる様に、独り言を言った。
「王様が命令してくれたら、お風呂で背中を流したり、マッサージとかすることもやぶさかでは無かったんだけどなー」
!!!!
その声が聞こえたのか全員の動作がピタリと止まる。
「いやー、負けるかもって思うと、凄くドキドキしたなー。なんだろう、少し大胆になっても良いかなって感じだよね?」
愕然とした視線で俺を見てくる少女達にニッコリとした顔を向けて言う。
「本当に残念だったなー」
俺はそう言い残し部屋を出て行った。そして残された部屋からは大きな声で『ガッデーム!!!』と聞こえてきた。
なかなかの嘆きっぷりだ。しかしとてもでは無いが淑女が出すような声ではない。それで良いのか少女達よ。
部屋に戻り、お風呂の用意をして向かう。途中で会ったメイドさんに温泉の効能を聞く。
「温泉の効能ですか? 美肌、疲労回復、肩こり腰痛、冷え性等々ですね。傷とか火傷とかにも良いですよ。この辺では美肌の湯として名高いので、秦野様が入られるとより一層美しくなられますね」
なるほど、実に俺向けの温泉ではないだろうか? しかし俺がこれ以上美しくなることなどあるのだろうか? おそろしいことだな。
とは言え、ピッカピッカに磨いておけば明日の海でもビーチの視線を独り占めできるだろう。……まぁプライベートビーチだから人はいないだろうけどな!
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