メイド再臨
あの後、空きっ腹を抱えて掃除をした。そして晩ご飯は塩おむすびを食べた……、むなしい……。
酔っぱらいの片割れである江藤さんは、次の日の朝、いい顔をして帰って行った。
母親はまだ夢の中だ……。
何故だろうか……、負けた気がするのは?
退院してからこっち数日しか過ぎていないのに、濃い日常を送っている。
前は比べるまでもなく、平穏だったはずなのに。これが魔性を目指す代償か……。
休日なのに凄い疲れたよ。ゆっくりしたい……。
……それなのに
「お待たせいたしました。」
メイドが家に来た。
「会社は円満退職いたしました。ですので、お話した通り、本日よりお仕えさせて頂きます。改めまして自己紹介をさせて頂きます、鋼城 マリアンへレスです。どうか宜しくお願いいたします。」
メイドはそう言いスカートの端をスッと摘み、見とれてしまう程綺麗な挨拶をした。
ア・ン・タ! 昨日来たばっかだよな! それで円満退職とか手際良すぎじゃないですか?
「琥珀様、申し訳ありませんが、私は何処に荷物を置けば宜しいでしょうか?」
「えっ、ああ、取り敢えずそこら辺に置いておいていいけど」
「わかりました、ありがとうございます。ではお部屋が決まるまで、琥珀様のお部屋にて寝起きをさせて頂きます」
ここに住むの!? てっ、俺の部屋!
「おや? 奥様……、洋子様から聞かれておりませんか? 私は住み込みでお仕えさせて頂きます」
は・は・お・や!
「わかった、お母さんがそう言ってるなら、もう変える気はないだろう」
雇う時もかなり乗り気だったしな。
……よく考えたら、掃除とか料理とか色々お願いしないといけないしな。
「じゃあ、部屋に案内するから、来てくれるかな?」
「いえ、私は琥珀様と一緒で……」
「じゃあ、部屋に案内するから、来てくれるかな?」
「いえ、琥珀さ……」
「じゃあ、部屋に案内するから、来てくれるかな?」
「……わかりました」
顔はいつもの無表情だが、不服そうな感じが伝わってくる。
同じ部屋で良いわけないだろうが!
「同じ部屋でしたら、何があっても対処が可能なのですが……」
何か言っているが無視をする。
「じゃあ、取り敢えず此所の部屋を使ってくれるかな」
「はい、わかりました。」
鋼城さんの部屋は二階の奥の部屋で今まで使っていない部屋にした。一応客間として使っていたのでベッド等の家具は一通り既にある、ちょうど良かった。ちなみに二階には母親の部屋がある。
ちなみに江藤さんが使った部屋ではない。
しばらくは部屋で荷物の整理をしてるだろうし、必要な物があったら言って来るだろう。
「琥珀様」
「うわはっ!」
気配を消して後ろに立たないでくれませんか? 思わず変な声を出してしまった。
「何? 何か必要な物あった」
どきどきする胸を押さえながら聞いてみる。
「いえ、今のところは大丈夫です。そろそろお昼なので、昼食をお作りさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「えっ、ホントお願いするよ、ありがとう」
ありがたい申し出に、お礼を言う。
鋼城さんは、頬を少しピンク色に変えて、小声で言う。
「私、男性からお礼を言われたのは初めてです……」
俺はそれを聞いて、少し考え言ってみた。
「本当嬉しいな……、鋼城さんの初めてを一個もらっちゃった」
そして、にこりと微笑みかける。もちろん、ゼロジェニーのスマイルである。
「そ、そんないけません……、そんな事を言っては……」
段々と声が小さくなっていき、最後の方は聞こえない。
顔は伏せていてわからないが、耳まで赤くなっている。
……この人、あまり表情は変わらないけど、案外わかりやすいかもしれない。
取り敢えず、お昼を作ってもらう為に一緒に一階に降りる。
「鋼城さんは何料理が得意なの?」
「そうですね、基本的にどの料理も作れますが、強いて挙げるなら麻婆豆腐等が得意料理でしょうか」
「おー、食べてみたい……」
「それでは、お昼は麻婆豆腐に致しましょうか、腕によりを掛けてお作りさせて頂きます」
「期待してます」
二人で一階に下りる。
キッチンに行く。
冷蔵庫を空ける。
絶望する。
忘れていたよ!
「琥珀様?」
「いや、うん、言いたいことはわかる。言わないで……」
「ビールしかありません」
「言わないでって言ったのに……」
アンタSですか?
鋼城さんは、仕方がありませんと言い冷蔵庫を閉める。
「それでは、お買い物に行ってきます。
「あっそうですか、お願いします。……てっお金渡しておきます」
「ありがとうございます」
「次からは、母親から費用にかかるお金を渡されると思うけど、今日の所はコレでお願い」
財布から一万ジェニーを取り出し渡す。この間のパンの儲けである。
「了解いたしました。それではコレで当分の食料を購入しておきます」
「そうだね、お願い」
「それでは、行って参ります」
「うん、スーパーの場所とかわかるかな?」
「大丈夫です、周辺の地理は頭に入れております」
「そう、さすが……」
「逃走するときの経路もバッチリです」
「……何から逃げるつもりですか?」
「いえ、いざと言う時の為ですよ、いざと言う時の……」
無表情だがどことなく得意げに言う。
しかし、この人は何と戦っているんだろうか……
買い物に向かう、メイドの後ろ姿を見てしみじみとそう思ってしまう。




