酔っぱらい達
「なんだこれ……」
リビングに降りると、酔っぱらい二人がそこにいた。ケラケラ笑っていたと思うと、急に泣き出したりしている。
「うぅ、何で私結婚できないのよ~」
「うはっ、出来るわけ無いでしょ~、だってアンタ家事壊滅的じゃない」
それは、アンタもだ母よ……。
「何よ、アンタも別に結婚してないじゃない、お金で一回して貰っただけじゃないの~、うぅ~」
「フフン、でも今はその選択が正解だったと思ってるもんね~」
「琥珀君……」
「そう、そうよ~、あんな良い子が自分の子供だなんて、まるで夢見たい……」
「うぅ……、うらやましい……、私なんて男子に触ったこと無いのに……」
そう言いながら、酒の肴として出したのであろう、カレーのルーをパクリと口に入れる。
江藤さん、触れた事もないのか……、不遇だ。そう言えばこの今世は前世と違って、風俗なんかも無いからな……。
需要が無いんじゃなくて、働き手の男性が居ないのだ。
いや、そんな事より、俺ってお金の関係で出来た子供だったのかよ! 今世では良くあることだが、前世だったら思春期の性格形成に多大な影響を及ぼす事案だぞ! コレ!
「それに、一応今でも、父親とは連絡はとってるし……」
えっ、そうなの? 母親の言葉に驚く、全く連絡とってないと思ってたけど……。
「連絡って言っても、お金振り込むだけの関係じゃない」
「………………」
「お金渡していれば、いつか振り向いてくれるかも、とか言って」
「………………………………」
お金でしか繋がりが持てない関係……、思わず涙流しそうになったよ!
ていうか、父親のクズっぷりにショックを受ける所な筈なのに、そんなにショックを受けて無い自分が居る。いや、まぁなんとなく予想していたからだが……、しかし予想以上にヒドイな、この世界の男性事情……。
だがその分、俺の性格がマシだったら相対的に、俺の評価は跳ね上がるので、是非とも他の男性は今のままでいて欲しい。
しかし、今の二人を見てると、涙が溢れそうになるな……。
「あれ~、何か琥珀君が見える~」
江藤さんがようやく俺に気づくと、ふらふら近寄ってくる。
そして、目の前に来ると、
「だっこ」
そう言い腕を広げる。
「はっ?」
「だっこして、頭なでて」
「はっ?」
「うぅ~、はやく~」
どうやらかなり酔っぱらっているらしい。幾ら若く見えるかと言っても年を考えろと言いたい……、何歳だよアンタ……。
江藤さんの顔を確認すると、妖艶な顔をしていた先ほどと違い、今にも泣きそうな表情をしている。
「はやく~、はやく~」
と、だだを捏ねる酔っぱらいな美女に、思わず水をぶっかけたくなるが、先ほどの不遇っぷりを聞くと、優しくしてあげたい気持ちがわき起こる。
「え~と、こうですか」
そう言い、やさしく抱きしめ、頭を撫でてあげる。とガッチリホールドされる。
「うぅ~、しあわせ~」
涙声でそんなことを言う。
母親はそんな俺たちを、胡乱な瞳で見つめていると思ったら、ふらりと立ち上がり、こちらに来ようとして……
盛大にこける。
それも、テーブルの上のビールやおつまみを巻き込んでだ。そして、再度立ち上がるとこちらに向かってダイビングしてきた!
「わたしも~!」
わたしも~じゃねえよ! ははおやー!!
当然なことで、江藤さんにガッチリ抱きつかれている俺は避けることが出来ず、そのダイビングをまともに受けて、江藤さん諸共押し倒される。そして……
「うはぁ! 琥珀君やわっこい~」
「スリスリ~、スリスリ~」
抱きつかれた二人から頬ずりをかまされている。
見た目が若くなおかつ、美人な女性に抱きつかれた状況は、前世だったら羨ましがられるかもしれないが、……いや、前でも嬉しくないかも知れない。はっきり言って、厄介な酔っぱらいに絡まれているだけだからな。色っぽい雰囲気が欠片もない。はやく離れて欲しい、かなり酒臭い。
「わかった、わかったから、取り敢えず離れようか……」
「や~」
「もっと撫でて……」
はなれろ酔っぱらい!
「よし、わかった! 離れたらもっと撫でるから」
俺は二人の酔っぱらいに向かってそう言ったが、当の二人から反応がない。
「二人とも?」
再度、問いかけ二人を見ると。目を瞑っている……、そして耳には、スゥスゥと寝息が聞こえてくる。
「えっ、ちょっとアンタ等この体勢で寝たの? おかしくない?」
その後、いくら問いかけても起きないので、がっちりとホールドされた状態から何とか抜け出し、江藤さんを客間のベッドに、母親を寝室のベッドにそれぞれ叩き込み、リビングに戻る。
「絶対もてないな、あの二人……」
あの酒癖の悪さはかなり駄目だろう……、
……いや違うのか? もてないから酒に溺れるのか? たまごが先かニワトリが先かそれに似た様な事を考えながら、リビングに到着する。
そしてリビングの惨状を目の当たりにする。
散乱するビール缶、零れたビール、散らばるおつまみ……
一度目を閉じ、しばらくして目を開く。
当たり前のことだがリビングは変わっていない……。
「……えっ、これ俺が片付けるんですか? 本当に?」




