進路について
オークションの後、落札者に写真を一緒に取って欲しいとお願いされた。もちろん断ったのだが、そこにセクハラ店員がパンイチパンの売り上げの半分を渡すので、どうにかお願いしますと懇願された。
おそらくパン一個の値段としては高すぎるので、何か特典を付けたいんだろう。
お客さんを見る。両手を組んでまるで祈るようにしてこちらを見ている。その姿を見て、さすがに六万を出してパン一個は哀れだと思い、一緒に写真を取るぐらいなら良いかと、セクハラ店員に了承の意志を伝える。
「売り上げの7割ならいいですよ」
セクハラ店員はその言葉を聞いても笑顔で了承した。
もうちょい取れたかなと思ったのは秘密である。
ともあれ、臨時収入が入ったので、懐が温かい。今度服を買いに行こう。
家に着くと、玄関に知らない靴が一足増えていた。お客さんか?
一瞬鋼城さんが戻ってきたのかとも思ったが、履いている靴が違う。おそらく母親の知り合いだろうから、取り敢えず挨拶だけでもしておくかと、リビングに向かう。
リビングのドアを開けると、テーブルで、母親と紫色の髪をした綺麗な女性がお茶を飲んでいた。
「あっ、おかえり」
母親の言葉に続くように、その女性も挨拶をしてくる。
「こんにちは、お邪魔してます」
以前の俺だったら、この挨拶も無視して自分の部屋に向かっていただろうが、今の俺は違う。
「いらっしゃいませ、息子の琥珀です。どうぞゆっくりしていって下さい」
との言葉に、ゼロジェニーのスマイルを付けて挨拶をする。
俺の挨拶を聞くと、女性は目を見開き驚き、母親の方へすごい勢いで顔を向ける。
母親はと言うと、フフン! と得意げな顔をしていた。
「琥珀君、こっちは江藤 文っていって、私の大学時代からの友達だから」
「江藤 文です。急に来ちゃってごめんなさいね」
「いえ、気にしないで下さい。じゃあ俺は自分の部屋に行ってるから」
「ええ、わかったわ」
そう言って部屋へ向かうと、リビングから声が聞こえてくる。
「何あの礼儀正しい美少年! あんな男の子現実に存在してたの! どっから持ってきた!」
「うわははは! 我が愛息子の凄さを思い知ったか!」
……母親が若干、中二病入ってる。
部屋に戻ると、学校で貰ってきた物を取り出す。
バサリと机の上に置いたそれは、高校の資料である。記憶を取り戻す前は、清明男子学校に行くつもりだったが、今となっては絶対に行きたくない学校である。だから、この前学校に行ったときに資料を貰ってきたのだ。
ぺらぺらと各高校の資料を捲っていく。う~んやっぱり、設備とかは私学の方が良いんだよな。特にこの高校。
いくつかの資料の中で一番気になった高校、私立絢爛高校
この学校は広大な敷地面積を誇り、設備は最新であり、学食が美味しく、そして名門大学への進学率も高いと評判の高校だ。
しかし、その代わり女子の学費は高く設定されており、その上男子からは嫌われている学校でもある。
何故男子から嫌われていると言うと、この学校は成績別にクラスを分け、良いクラスには顔の良い男子を在籍させ、成績が悪くなるほど男子のグレードも下がっていくシステムを使っているためだ。
要するにこの絢爛高校は男子を女子の成績アップの為の餌にしているのだ。そんな高校に男子は集まらない訳だが、そこは男子の待遇を良くしていて、なんとか最低限の人数を集めているみたいだ。
具体的には、男子の入学試験は無く、さらに学費は三年間無料に加え、一年ごとに額はわからないが現金の支給をしているらしい。ここまでやれば男子も大勢集まりそうだが、基本この世界の男は国からの手当でお金には困っていないので、お金で釣って入学してもらう事は割と難しいらしい。年々男子の質が悪くなっているとの事である。
俺がこの学校が気になったのは、決してお金が貰えるからではない。
……本当だよ。
気になった理由は名門大学への進学率が高いからだ。進学率が高いと言うことは、それだけ内部での進学に対するフォローもしっかりしていると思ったからである。名門大学へ進学という肩書きを持っている男はそれだけで価値が跳ね上がる。
その上設備面でもエアコン、床暖、温水プールに広大な敷地をふんだんに使用し、野球場、サッカー場、テニスコートにゴルフコースと運動系も揃っている。
はっきり言ってかなり凄い。
しかし問題もある、この学校は清明男子高校と割合近場にあり、そこの学生と電車などでいっしょになることがあるらしいのだが。その際、この学校に通っていると、お金で自分の身を売った男として、清明の生徒から蔑んだ目でみられるらしく、絢爛に通っている男はその事が大層堪えるらしい。
……俺は気にしないから良いか。まぁ今度、中学校に学校説明として絢爛の職員の人が来るらしいから、それを聞いて決めるかな。絢爛はテスト無しで入れるからな。
さて、結構時間が過ぎたな、そろそろお腹が減ってきたし……。下の二人は夕食どうするんだろ?
そう思いリビングに降りていくと……、
そこにはビールを何十本も空けて、ケラケラ笑っている酔っぱらい二人が居るだけだった……。




