7.残された名前
約束の期日、ユンはしっかりとした足取りで屋敷に戻った。もう涙は枯れていた。
(ピーコの分まで生きよう)
そう思っていた。
あまりにも辛かったが、もう引き篭もろうとは考えなかった。そうするとピーコに悪い気がして、何故かそう素直に思えたのだ。
それに、屋敷に戻ったユンはしばらくすると、何かの記憶を思い出す時だけは、他人の思考が流れてこないことにも気付いた。
(ピーコの記憶だけを思い出そう)
だからユンは、あの山小屋での生活を何回も何回も思い出したのである。
そうすることで、他人の思考を頭から出来るだけ追い出して、ユンは領地経営や父や兄の仕事の補佐に邁進した。それでもやはり、一度手に入れてしまった人の心の声を聞く力が消えてなくなることはなかった。
だが、その後ユンが妻を娶る日は訪れなかった。彼は社交がかなり苦手だったからかもしれない。
しかし、その後彼は、孤児院から成績優秀な見所のある者を何人か見つけ、その子たちを養子として屋敷や領地の働き手に育てた。
その手腕が確かだったこと、また、彼が孤児院への寄付や学力向上に様々な貢献をしたこと、それを元にいくつかの書籍を出版したことから、その後、彼は知る人ぞ知る孤児院改善方針の第一人者として名を馳せることになる。
彼の功績は今でも、その地の孤児院名や歴史書に、確かに残されているのだった。
そういえば、ピーコが死んだ日に暗い森の中で、1人の老婆が木の実を採りながら写し鏡の魔法陣を展開していた。
「本当に鳥にはバカが多くて困るねえ。人間になったところで、生き物の行き先などみんな決まっているというのに。子孫を残すか残さないか、生き物の差なんて、大概ただそれだけの違いなのさ」
老婆は自身のシワシワになった手を眺めた。
「蘇生魔法だって、生殖機能を新たに拵えてやる魔法だって、若さを取り戻す魔法だって、どんなに探してもそんなもの全然見つかりゃしない。魔法使いは万能じゃないって知ったら、あの子はきっと幻滅してしまうだろうねえ……」
彼女がいつまで旅を続けるのか、それは誰にも分からないのであった。




