LXXXI.今日この日のために生きてきた
「なぁ、ルネ。ホントにこれじゃなきゃ駄目か?」
「我慢してください、アダ様。パレードとはいえ、フォーマルな格好でいなくては」
「うぅ、めんどい……」
アダはうげぇ、と顔を歪ませるが、ルネティアは気にもしない。
今日はパレードだ。アダはゆったりしたキュロットに軽くコルセットを締められている。
とは言っても平民の前に出るだけなので、あまり堅苦しい衣装でなくていいと思うのだが、そうはいかないらしい。ルネティアによると、お忍びでやって来る貴族が大勢いるそうだ。
「フェルト、そっちは準備できたか?」
「あぁ」
トイフェルはいつもの衣装より少し飾りが多めだ。光に反射して、たまに眩しそうに目を細めている。
ちなみに、まだルネティアとトイフェルの確執はまだ消えていない。
(一旦落ち着いてから、また話し合う場設けた方がいいな)
〈魔王〉を倒してから、まだ一週間も経っていない。
ここから、まだ書類や〈魔王〉信教関係者の処罰など、やることはまだまだたくさんある。
(でも、今日はできるだけみんなと楽しみたいな)
「よっ、ベアトリス、フェリシアン」
「……随分と元気ね、アダ」
「ん? 何か疲れてるか? 後遺症か?」
本気で心配するアダに、ベアトリスは小さくため息をつく。
「違うわよ。眠れなかったの、こんな機会、普通の貴族ならとても得られる経験じゃないもの」
「フェリシアンは?」
「僕もあんまり寝れなかったかな。シモン兄上は昨日のうちに、元気いっぱいはしゃいで寝てたけど」
シモンのその様子が目に浮かび、アダは笑う。
「フェリシアン、アダ、ベアトリス。そろそろ」
「行くぞーっ!」
スチュアートとシモンに声をかけられ、アダたちは馬車に乗り込んだ。
「〈英雄〉様ー!」
「アダ様ー! ベアトリス様ー!」
「あっ、いつもの武官様だっ! シモン様ー!」
たくさんの歓声の中、アダたちは馬車に乗っていた。
晴れ渡る青空の下で、色とりどりの綺麗な花びらが舞う。
「ねぇ、アダ、ベアトリス……これ、結構変な感じ……」
「えぇ……とても」
「そうか? 嬉しいじゃねぇか」
アダの言葉に、同じ馬車に乗っている二人は「そうだけど……」と複雑そうな顔を見せる。
「あっ、あのときの〈英雄〉様だ! えっと、こ、こえー……〈孤影の英雄〉様っ!」
アダはふと、前にいるトイフェルとルネティアの方を見た。
数か月前に街で遭遇した親子がトイフェルに手を振っている。特に、助けた少女の方は満面の笑みでぶんぶんと手を振っていた。
「あ……」
二人に対して、おずおずと手を振っているトイフェルが、何とも微笑ましいことである。
「あっ、アダ~っ! ベアトリス~! レーヴ公爵令息!」
平民に混じって大きく手を振っているのは、エルネスタだった。
「エルネスタっ?」
「どうしてここに……」
アダはそう呟くものの、エルネスタなら「友達のいるパレードなんて、参加するに決まってるじゃないですか!」とでも言っていそうだなと小さく笑う。
後ろにはオティーリエも控えている。オティーリエ公認のお忍びのようだ。
「あ、リアン! アダにホルツヴァード嬢~!」
「みな、お疲れ様」
「何でいるんだよ……ルアン」
優雅に手を振る第三皇子、ルシアン。そして、横には片手を挙げるデュークもいる。
平民たちはそこに、皇子様と侯爵令息がいるなんて想像もしていないだろう。
そうやって、軽く手を振りつつアダは周りを見渡す。時折、手を振ったりして。
この国に、平和が訪れたのだ。この日のために、ここまで生きてきたと言っても過言ではないだろう。
パレードも終盤に差し掛かった頃。
「……あ」
「……? どうかしたの、アダ?」
「いや……なん、でもない」
路地裏の手前に見えた二人の男女。
その顔を見て、理解してしまう。もう十年は見ていなかった顔なのに、アダはそれが誰なのか、分かってしまった。
(くそ……思い出したくなんて、なかったのに)
アダはこのパレードの後にやらなければならないことを考え、小さく舌打ちした。




