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XV.騒ぎの全貌

「何、してたんだよ」


二人は木陰のベンチに座る。

アダはトイフェルのオパールの瞳を見つめて問うた。


「あぁ。……本当に、何をしているんだろうな、俺は」


そう前置いて、トイフェルは話し出した。



◇◆◇



それは、トイフェルが城に向かう途中に起きた。先帝から呼び出されたのだ。


「キャーッ!! 泥棒よ! 誰か捕まえてっ!」


そんな声が、上空を飛んでいたトイフェルの耳に聞こえてきた。


少し上空で辺りを見回すと、二人の男が走っているのが見えたそうだ。だが、兵士が働いている門から微妙に遠く、兵士たちが見回っている時間でもない。


そのため、誰も追いかけなかった。そうして、男たちは進行方向にいた親子に向かっていた。

娘の方が母に手を振っていたのだ。


遅かった、娘が気付いた時には。


「邪魔だッ!!」


トイフェルは急降下し、ローブで娘を隠して、防御魔法を張りナイフから守った。


「……ダーカニール」


男が持っていたナイフで刺そうと腕を振り上げたので、トイフェルは闇魔法を加減して使い、男たちを気絶させた。



――だが、周囲の反応は違った。


当たり前だ。急に空から現れた男。髪が長くて、顔も見えない。


しかも、ローブに隠した娘が出てこず、不信感を抱いたはずだ。

トイフェルを不審者だと思う者もいただろう。


母の方は混乱していたのか、まともにトイフェルに話しかけることができず、その場は硬直してしまった。

そこで、アダがやってきた――というわけだ。



◇◆◇



「……其方が来てくれて助かった。それと、買い物の邪魔をして悪かったな」

「いや、別にいい」


そうして、二人の間に沈黙が流れる。

何となく、アダは花畑を見つめた。ポツリと、トイフェルは呟く。


「……平和とは、いいものだな」

「まぁ、そうだろうな」


トイフェルは一般論を口にしているようで、どこか、実感のこもった声だった。


「……アダ様? トイフェル様?」


懐かしいと感じる声。

そこにいたのは、〈ヴェヒターの結界〉ルネティア・ロード・ロデスだった。


「珍しいですね、お二人が一緒にいるだなんて」

「たまたま街で会ったんだよ。ルネティアはなんでここに?」

「……もうすぐ、ですから。花を摘みに」


ルネティアは悲しむように、ほんの少しだけ眉を下げた。トイフェルはポツリと「そういえば、そうだったな」と呟く。


「短期休みの最終日は、アダ様も帰って来てください。アンジェリーネ様はきっとお仕事でしょうが、トイフェル様は?」

「……その日は空いている」

「そうですか。では、食事の準備が必要になりますね」


なんだか、アダの知らないところで話が進んでいるような気がする。

帰るのは構わないのだが、何故帰らなければならないのだろうか。


(何の話だよ)


ルネティアはアダの心を読み取ったかのように口を開く。


「アダ様、その日にはお教えしますから。……十三年前の悲劇について」

「え?」

「もうそろそろ、頃合いでしょう。一年半以上は待たせてしまいましたが」


ルネティアは眉を下げた。


「では、私は失礼します」


礼儀正しくアダとトイフェルに礼をして、ルネティアは花畑の奥に去っていった。

そして、トイフェルはルネティアを見送ってから立ち上がった。


「そろそろ行く。先帝陛下から呼び出しだからな」

「……それ、遅れてよかったのか?」


アダが怪訝そうな顔で問うと、トイフェルは若干面倒くさそうに答える。


「……どうだろうな、先帝陛下は俺のことをあまり好んでいないらしいから。まぁ、アンジェリーネにでも説得してもらう」

「あー、仲良いよな。先帝陛下と〈光明の英雄〉様」

「まぁ、そんなものだ。いろいろあるんだ、俺たちにも」


トイフェルはいつも、遠くを見ていることが多い。よくわからない、何か。それはアダが知るものなのだろうか。もしかしたら、アダが知ることはできないのかもしれない。


「じゃあな」


短くそう言って、トイフェルは城の方へ飛んで行った。


「……エルネスタとレミリア、まだいるかな……」



◇◆◇



アダはトイフェルと別れた後、こうして装飾を売る店に入っていた。

日頃の感謝と今日のお詫びを、と思ったのだ。だが――


(わっかんねぇ)


装飾品なんてつけたことのないアダに、女性の好みの装飾品が分かるわけがなかった。


「おや、兄ちゃん。彼女への贈り物かい?」


茶目っ気のある店主にそう声をかけられた。


(またか)


よくあることだ。髪が短く、しかも一つに結んでいるので、男によく間違えられる。

まぁ、どちらでもいいし、面倒くさいので、否定する気もない。


「いえ、友達二人へ」

「……そうかい。背後には気を付けなよ」


何のことだろうか。

店主が警告するようにそういうので、アダは首を傾げる。


「ほら、一週間前にも浮気した糞男が婚約者に刺されそうになってたしね」

「……それは浮気した方が悪いのでは?」

「そりゃそうさ! ま、アンタなら大丈夫そうだね。……で、何を贈りたいんだい?」




「アダっ!」


そうして、貴族学院に戻ろうと、広間に向かっていると。

満面の笑みで大きく手を振るエルネスタと小さく手を振るレミリア。


「……待ってたのか?」

「当り前じゃないですか」

「ま、もう少し暗くなったら帰ろうと思ってたけれどね」


レミリアが少し照れくさそうに言った。そんなことで恥ずかしがっているらしい。


「あー、その、これ」


アダはポケットから二つの包みを取り出す。

それをエルネスタとレミリアに差し出した。


「……今日はごめん。今度、三人で出かけたい、というか」


そう言って、アダが顔を上げると、エルネスタもレミリアもとても驚いた様子だった。


「ありがとう存じます、アダ」

「えぇ、ありがとう」


エルネスタとレミリアは微笑んでそう言った。


(思ったより反応が薄いな……)


もう少し喜んでもらえるかと思ったのだが、自惚れていたらしい。


「……ほら、エリー。あたしたちも」

「う、うん……」


謎の会話が繰り広げられる。何の話だろうか?


「えっと、アダ、お勤めご苦労様です」


そう言って、エルネスタから手渡されたのは同じく手のひらサイズの包みだった。


「ふふ、考えることは同じだったってことですね」

「開けてもいいか?」

「えぇ、もちろん。わたくしたちも開けていいですか?」

「あぁ」


アダは包みをできるだけ丁寧に開けた。


「ブレスレット……ですか?」

「こっちもだ」


中に入っていたのは、アダがあげたものと同じ種類のブレスレットだった。

色はエルネスタがピンク、レミリアが黄色だ。アダがもらったのは緑である。


「ふっふふ、こんな偶然があるのね」

「すごいですね。お揃いです……!」

「……ありがとう、二人共。すごく、嬉しい」


アダは、少しだけ微笑んだ。

アダには友達がいなかったので、こういった贈り物など、初めてだったのだ。

暖かい気持ちで溢れている。


「こちらこそ、ありがとう存じます、アダ!」

「あ、あたしだって、嬉しいからねっ」


そう言って、三人で笑い合った。

トイフェルとアダの関係が結構進展してますが、その辺は番外編とかで、かきたいと思ってます。すみません。汗

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