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VIII.貴族学院へ

「アダ様、これから、制服の最終調整があります。客室に移動できそうですか?」

「あぁ、分かった」


 杖の取得から、約一年半。つまり、〈光明の英雄〉に拾われてから、約三年が経過した。

 二週間後の4月よりアダは貴族学院に編入する。


 この期間は、特に何もなく、アダは勉強、魔法、武術などに勤しんでいた。


「……いよいよ、編入ですね」

「そうだな」

「アダ様は寂しいですか?」

「……まぁ。貴族の奴らを信用できるかも分からないし」


 アダの言葉に、ルネティアは驚きつつも頷く。


「まぁでも、それなり楽しいと思いますよ。あ、でも高位貴族相手にその言葉遣いだと不敬罪になり得るので気をつけたほうがいいです」

「最悪」


 これでも、それなりに言葉遣いは直した方だ。平民らしい訛りは改善されたが、高圧的な態度はあまり変わっていない。




 そうして、客室で待っていると、ルネティアが女性ら三人を連れて来た。


 最年長の女性が、今回制服をつくってくれた商会の商会長夫人。そして、後ろに控える若い少女たちはお手伝いという感じだ。


 このトマス商会は、代々の〈英雄〉が懇意にしている商会の一つだ。



 挨拶もそこそこに、アダはお手伝いの少女たちに着替えさせられていく。

 成長することを見越して、少しだけ大きいサイズだ。だが、そこまで不便でもない。

 白を基調とした制服だ。そこに淡い紅色で刺繍がされている。


(……さっきからムズムズして仕方ねぇ)


 膝下に、スカートの裾が当たるのだ。アダは今までそのような服を着てきた経験がない。気持ち悪いのも当然ではある。

 だが、スカートの長さは膝下と決まっているし、そもそも成人に近い女性のスカートが短いのは破廉恥であるとされている。


 それを見かねたルネティアがため息をつく。


「アダ様、違和感があるのも分かりますが、慣れてください。規則です」

「わ、分かってるっけど」


 アダがムズムズしているせいで、たまに動いて、いろいろしているトマス夫人や少女たちの邪魔になっているのだ。


「アダ様がすみません、トマス夫人」

「まぁ、ふふふ。いえ、大丈夫ですわ。わたくしも、初めてロングスカートを穿いたときも違和感を覚えたものです。懐かしいこと」


 トマス夫人はクスクスと笑う。


「アダ様、スカート以外に気になるところはございませんか?着心地とか」

「え、あ、あぁ。大丈夫。着心地も問題ない」

「左様ですか。それは良かった」


 トマス夫人はニコリと微笑んだ。そして、ルネティアに目を向ける。

 ルネティアはチャリと金の音がする袋をトマス夫人に渡した。


「えぇ、今回もありがとう。報酬はこれで」

「まぁ、弾んでくださいますのね。では、今後ともご贔屓に」



 トマス夫人たちは美しく礼をして、去って行った。




 十日後。


「ついに、だな」

「そうですね」


 ルネティアは頷く。〈光明の英雄〉も〈孤影の英雄〉も忙しいので、見送りにはいない。


 

 緊張しているのか、アダは耳の下辺りまで伸びた髪を耳にかける。髪を伸ばす気はなかったのだが、結べる方が楽だということに気付いて、このくらいの長さをキープしている。


「高位貴族でも……ルシアン殿下に不敬を働くと、殺されると思っていてください」

「……」


 なお、全く冗談ではない。


 この約一年半の間に、皇帝は代替わりをした。皇太子が皇帝に、皇太子妃が皇后に。

 そして、元より生まれていたお子は三人。第一皇子、第二皇女、第三皇子――ルシアン・レクメリア。

 かなり遅めの代替わりだったようで、ルシアンに関しては、アダと同い年である。ちなみに、二つ上で最終学年の第一皇子と第二皇女は双子なのだそうだ。


「分かってるって。でも、クラスは違うんだろ?」

「まぁ、そうですけど。でも、隣のクラスですし、殿下が興味を示さないとは言えませんよ」


 ルネティアの言葉に、うぐっとアダは口を閉じる。

 クラスは一年に二回ある試験の成績順だ。上から順にS、A、B、C、D、E、Fまである。アダはその中のAで、ルシアンはSだ。成績を表すようにバッジの色が異なっているそうだ。アダのAクラスは銀のバッジである。これは、順番上、爵位も同じようになっているらしい。

 ちなみに、羽織っている黒のローブは六つに分かれている寮の位置を示しているそうだ。


 尤も、ルネティアに「そこまで本気でしなくても大丈夫ですよ」と言われたため、アダはクラス分け試験でかなり手を抜いているのだが。ついでに、ルネティアは(アダ様は本気の試験だと緊張しすぎるからなぁ)という思いがあってのことなので、アダが手を抜いているとは微塵も想っていない。


「そろそろ時間です」

「わかった」


 アダは荷物を持った。普通の令嬢ならば、娯楽品や化粧品など、たくさん荷物があるのだが、アダにはないため、荷物はそれほど多くない。



「行ってきます」

「えぇ、どうぞお気をつけて」




 アダは馬車に揺られて、一刻ほどが過ぎ、貴族学院についた。


「着きました、アダ様」

「……ん。ありがと」


 アダは荷物を持って、馬車を降りる。

 門くぐって中に入ると、玄関前には人が立っていた。


「……貴女がアダ様でしょうか?」

「……はい」


 物静かな女性がアダを迎える。黒髪の真面目そうな女性だ。


「案内を任されました。算術、神術、歴史、地理を担当しております教師のクレータ・アシュヴィーと申します。簡略な挨拶で申し訳ありません」

「えっ、あ、いえ。私はアダ・ドティフ・ヴェヒターです。よろしくお願いします」


 アシュヴィーはニコリと微笑む。


 そうして、貴族学院の中に入り、知らない部屋に案内された。隣は以前入った学院長室だ。


「失礼します」


 アシュヴィーはそう言って、その部屋に入る。


「おぉっ、来ましたか!〈英雄〉様」


 下っ腹のでた男性だ。アダがしばらく驚いて固まっていると、アシュヴィーが耳打ちをする。


「彼は〈光明の英雄〉様に救われた者の一人なのです。貴女にはとても興味があるようで」

「そ、そうなんですね」


 アダは頷き、少し深呼吸をして笑顔をつくる。実際には、口角がちょっと上がっているだけなのだが。もっと笑おうと思うと気持ち悪い変な笑みになるので仕方がない。


「初めまして。アダ・ドティフ・ヴェヒターと申します。よろしくお願いいたします」


「えぇ、えぇ!学院長よりお話は伺っておりますよ。私は教員長です。まぁ、学院長の次くらいに偉いですが、別に凡人です。よろしくお願いいたします」

「は、はい」


 妙に親近感の湧く男性だ。柔和な笑みを浮かべているからだろうか。


「あぁ、アダ様の部屋にご案内いたしますね。寮は基本二人か三人部屋となるのです。アダ様に一人部屋をご用意できないのは心苦しいのですが……」

「いえ。お気になさらず」

「あぁ、すみませんねぇ。それで、お部屋なんですが、アシュヴィー先生、案内お願いできますかな」

「かしこまりました」


 アシュヴィーは頷き、アダたちはその部屋を出て行った。


(なんでここに案内されたんだよ)


 なお、教員長が挨拶をしたかっただけ、というのをアダは知らない。

 そうして、別館への廊下を歩き、三階に昇った。別館は六つあるらしく、東、西、南、北、中央部、皇族という感じで分かれているらしい。


 今の時間帯は皆自室にいるそうだ。


「失礼」


 アシュヴィーがノックするのを見て、アダは少しだけ背筋を伸ばす。


「はい」


 身綺麗な少女が扉を開けた。素直そうな少女に見える。


「まぁ、アシュヴィー先生。こちらが?」

「えぇ、よろしくお願いできますか、セルベル男爵令嬢」


 セルベルは「はい」と頷き、アシュヴィーはアダとセルベルに礼をして去って行った。


「さぁ、ヴェヒター様。中にお入りくださいまし」


 セルベルは扉を大きく開けて、アダを部屋に通す。


(ヴェヒター様、か。なんか新鮮だな)


 中は小さい。二つの扉があり、真ん中には椅子が二つとテーブルがあるだけ。とくに装飾はなかった。アダにとっては、これくらい質素な方がちょうどいいのだが。


「ヴェヒター様。改めまして、わたくしはセルベル男爵の娘、エルネスタ・セルベルと申しますわ。よろしくお願いいたします」


 セルベルはニコリと微笑む。アダにはちょっと新鮮な子だった。アダの周りには、あまり可愛らしい女の子はいなかったからだ。ルネティアは綺麗な顔立ちだが、可愛らしいというわけでもないし、〈光明の英雄〉は魔法で戦っているところが強く印象に残っており、かっこいい、という印象が大きい。


「あ、えっと、アダ・ドティフ・ヴェヒターです。よろしくお願いいたします」

「はいっ、これからルームメイトとしてよろしくお願いいたします!」


 セルベルの笑みに、アダも少しだけ笑みが浮かんだ。

やっと貴族学院に入学です!アダ様は成長しました☆

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