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Seventh Øne  作者: 駿
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追憶 アラタのグリーフ ①

「アラタ!アラタ!アラタアラタアラタ!!」

「だぁぁ!う~る~せぇッ!!何だよ!?」

「………………」

「?」

「なんでもなぁい!」

「ッ…………あのなぁ!今日それ何回目だよ!?意味もなく呼ばれるこっちの身にもなれってんだ、ばぁか!!」

「ごめ~ん。だってぇ…………」

「ん…………?」

「私に振り向いてくれた瞬間のアラタがさ、何度見ても格好良いんだもん」

「ッ、はぁ!?」

「眼福、ってやつだね!」

「…………んだよ、それ」

「あっ、照れたぁ!照れ照れアラちゃんだぁ!!」

「っ、お前ぇ!」

「や~い。捕まえてみろ~!」

「待てゴラァッ!!」


 愛している人がいた。

 叶絵ミオ。

 淑やかさとは無縁で、天真爛漫。

 ちょっとドジな所はご愛嬌な、俺の幼馴染。

 きっとジジイになっても、俺の隣でにこやかにいてくれるんだろうと無意識に信じていた彼女の愛しい姿は、声は――。

「ミオ…………!ミオォォッ!!」

「ア、ラ…………タ……………………」

「あぁ、あぁぁぁぁぁ…………!!」

 もう、この世界のどこにもない。



「……………………」

「おはようございます。アラタ」

「あぁ、おはよう…………」

 ――まただ。

 また、アイツの夢を見てしまった。

 あれから4日間……ずっとだ。

「どうぞ」

「……すまん」

 アクトリアが差し出してくれたハンカチを受け取り、流していた涙を拭ってベッドから起き上がる。

「…………朝食のご用意ができていますが、後に致しますか?」

「いや、食べるよ」

 仮住居のコンテナハウスから出て、アクトリアの用意した朝食が並んだテーブルに腰掛ける。

「………………?」

 テーブルには、見慣れない料理があった。

「これは……ナチョス?」

「はい。チップスを敷いてカレーを掛け、チーズを乗せて温めて作りました」

「……態々、作ったのか?」

「温度の加減は、間違えていないと思います」

 珍しいことを。

「頂きます」

 俺は手を合わせた後、カレーが掛かったチップスを手に取り、口に運ぶ。

 ――旨い。



「あ~ん」

「…………ミオ、お前。いつも思うんだけど…………何でそんな一口が大きいわけ?」

「あわうぃうぇ。うぃおううぃえうぉうぉっうういおおあっあ…………」

「飲み込んでから喋れって…………」

「おえん。ふぉっふぉふぁっふぇふぇ…………んっ!私ね、一口で思いっきり頬張ったほうが、より食べ物の美味しさを感じられると思ってんだよね!」

「ふ~ん。まぁ別にお前の自由だけど、喉には詰まらせんなよ」

「分かってる…………んぐッ!?」

「フリじゃねぇんだぞ!ほら、水!!」

「ん………ん…………!ぷはぁ、ありがとう…………!!」

「その食事スタイル、絶対餅には持ち込むなよ」

「あっ、餅だけに!?いやぁ上手いねぇ!!」

「い~い~な?」

「はい…………」



「………………!」

 衝動的に手が、頭を掻きむしる。

 夢のせいで、思い出が無意識に頭の中で甦る。

 同じ食事中の場面だからって、無理矢理関連づけて中学の昼休みの思い出を引っ張り出しやがって。

「アラタ、どこかご不満な点がありましたか?」

「…………あぁ、いや。美味しいよ」

「そうですか。なら、いいのですが……」

 全く、ずっとこれだ。

 俺自身どうしたいのか分からないまま、前へ進めず――。

 ただアイツを思い出して苛まれる、無為な日々を送っている。

 俺は一体――。

 何をきっかけに、進めばいいんだ…………!

「アラタ」

「ッ!」

 気づけば食べる手を止めて俯いていた俺に、アクトリアが声を掛けた。

「どうした?」

「……聞くべきでは、ないのかもしれませんが…………」

「………………」

「どうか、教えて頂けませんか?貴方と、貴方の想い人である叶絵ミオさんのことを。私と出会う前……お2人に一体、何が……起きたのか」

「…………知って、どうするんだ?」

「どうもしません。私を相手に打ち明けて、少しでも貴方の心を楽になって貰えればと……」

「……………………」

「勿論、話したくないのであれば構いません。聞かなかったことに――」

「分かった。話すよ」

「……よろしいのですか?」

「あぁ。朝飯を食べ終わった後に」

「ありがとうございます」

「礼を言うのは、俺の方だと思うけどな」

 これが、俺を前に進めるきっかけとなるのかもしれない――。


「…………」

 風が吹き、草木と俺の髪を揺らす。

 朝食を食べ終わり、片付けた後。

 ――俺は椅子に腰掛け、くつろいだ格好を取った。

 だが、これから過去を喋ると思うと、どうにも緊張する。

 アクトリアは俺の隣で同じように椅子に座り、真剣になって話を聞こうとしていた。

「そう身構えるなよ。話し辛いだろ」

「しかし、軽々しい態度で聞くわけにも……」

「別にいいって。それで、どこから話そうか?」

「そうですね、では……先ず、ミオさんとはどのように知り合ったのですか?」

「出会いか…………」

 確か、あれは4歳の時――。

 公園で1人遊んでいた俺に、アイツが話し掛けてきてんだ――。


「ねぇねぇ。なにつくってるの~?」

「どろだんご。ここのすなをぜんぶくっつけて、でっかいだんごつくるんだ」

「おもしろそ~!わたしもつくるぅ!!」


 子供の頃から俺は、自分から誰かに接するような人間じゃなかった。

 どう話し掛けて誘ったり、混ぜて貰えるか分からなかったし、1人でも関係無く遊ぶ奴だった。

 だから、そんな俺に気兼ねなく近づいてくれたミオが――。


「アラタくん。そろそろ帰りましょう」

「ミオ!帰るわよ~!!」

「は~~い!ねぇねぇ。なまえ、なんていうの?」

「あらた」

「わたしね、みおっていうの。よろしく」

「うん」

「じゃあ、あしたもあそぼうね!わたしたち……もう、おともだちだから!!」

「おともだち……!うん、おともだち!!」


 俺の最初にして――。

 掛け替えのない、友達になった。



「気さくな方だったのですね」

「あぁ」

 その点は……ずっと変わらなかった。

「ちなみに、泥団子は上手く完成したのですか」

「いや、途中で飽きて別の遊びをしてたと思う」



 それから、ミオとは毎日のように遊んで、親友の間柄になった。

 公園で色んな遊びをしたし、彼女の家に招かれてゲームをやったりした。

 小学校は違っていたけど、中学生になると学校でも同じになり、もっと一緒になる時間が増えた。

 あんまり2人でいるものだから、周りによく茶化されたっけか。

 ――そうだ。

 その茶化しが原因で、大泣きさせたことがあったんだった。

 確か、放課後の帰り道で…………。


「ミオ」

「なに?」

「あの、次からさ。一緒に帰ったりするのやめない?」

「え?」

「周りに言われるの……恥ずかしいじゃん」

「……絶交、なの?」

「いや、絶交って訳じゃないけど…………いつもみたいにするのはもう――」

「やだぁッ!!」

「ッ!?」

「アラタと一緒がいい!!一緒がいいのぉ!!」

「でも、クラスの皆が――」

「関係ないもんッ!!アラタと一緒がいい……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「ちょっ、抱きつくなよ!鼻水が――あぁ、汚ぇ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

「分かった、一緒にいる!いるから離せって!!」

「ぐす……ほんと?」

「ほんとにほんと」

「えへへ、よかったぁ!」

「…………………………」


 ――懐かしい。

 こんなこともあって、俺とミオは疎遠になることなく仲良しな友達付き合いは続いた。

 ……俺自身、嫌ではなかったしな。

 でも、高校に上がって、仲を進めたいと思っていた俺は――。

 夏祭りの日に――。

 ミオに、俺の中に積み重なって出来た、友愛を超えた想いを伝えた。


「いやぁぁ凄かったね!最後の花火!!」

「え?あぁ、沢山……出てたな」

「……アラタ、大丈夫?顔、赤くない?」

「ッ⁉へ、平気だ平気!!」

「そう?じゃあ、帰りますか!」

「ミオ」

「ん?」

「その……少し遠回りしながら、帰らないか?」

「…………うん、いいよ」

 後で聞いたが――。

 あの時ミオは、俺が告白するということを察していたようだ。

 そして俺が終始言い出せなかったら、自分から告白しようと思っていたらしい。

「ねぇねぇ、あそこのベンチでちょっと休まない?」

「ん、あぁ」

「よいしょっと。ちょっと、歩き疲れちゃったね」

「そうだな……屋台を色々回ったし」

「全部美味しかったなぁ」

「食い過ぎだっつうの、太るぞ」

「えぇ?そんなことないよ」

「へっ、どうかな?」

「もう……………………」

「…………………………」

「来年も行こうね。2人で」

「あぁ。あっ、でも……」

「?」

「来年は、その……ぃ……として、行かないか?」

「えっ、何て?」

「こ、恋人として……行かないか?」

「ッ……そ、それって、つまり?」

「お、俺の……彼女になって、ください…………!!」

「…………はい!」



「それで、お2人の絆はさらに深まったのですね」

「…………あぁ」

「アラタ?」

「……………………」

 零れる涙を、顔を覆った手で塞き止める。

 あの頃は――。

 何もかもが平和だった。

 確かな未来があると信じていた。

 彼女と共に遊び、学び、苦楽を共にする何十年もの日々が待っているのだと、不確かに想像していた。

 そんな希望が、今となっては……!

「ここまでにしましょうか」

「いや、続けさせてくれ…………!」

 俺は今一度、過去と向き合わないといけないんだ。

「分かりました。では後の話を、聞かせて頂けますか?」



 …………高校を卒業した後、プログラマーとして就職した俺は、育っていた施設を離れて上京した。

 ミオと共に。

 慣れないことの連続で残業が多く、忙しない日々だったけど、ミオは家事とパートに従事して俺を支えてくれた。

 どれだけ疲れていても、ミスをしてへこんでいても…………。

 アイツの元気なおかえりの声と、作ってくれた食事、交わす会話さえあれば、また明日も頑張ろうって思えた。

 いつかフリーランスとして独立し、ミオと、いずれ作る子供との時間を作る。

 そんな、ささやかな野望を抱き、暮らしていたが――。

 社会人としての生活は…………。

 イレイノムが出てきたことによって、終わりを迎えた。


 正体不明の怪物達に襲われる人々。

 ニュースでそれを見た時の衝撃は、今でも覚えてる。

 ミオと2人で唖然とし、恐怖したものだ。

 当然、会社でコードを入力している場合ではなくなり、家の中で閉じ籠る生活を送ったが――。

 やがて避難民として、イレイノムから集団で逃げる日々を送る羽目になり――。

 そうして――。

 あの瞬間は、やって来た。

 あの日の衝撃、悲しみは――。

 今でも、鮮明に思い出す…………。

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