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Seventh Øne  作者: 駿
65/76

Even if we're apart…… ⑩

「ッ!!」

 奴が行動を取る前に、2本の穂先から黒塊弾を撃ち出し、両の斧に命中させる。

 恐らくは、どちらかを遠隔で操作する腹積もりだったのだろう。

 先手を打たれ、酷く苦々しい顔つきとなった此岸リョウに、俺は間合いを詰めて槍を突き出す。

「ウゥッ……!」

 弾かれようが、躱されようが――。

 構わず俺は槍を振るい続けた、突き続けた。

 奴が反撃に出ようとしても、俺は自分の反射神経に命を任せて躱し、捌く。

 目の前の敵に対する怒り、別れを強いられる現実への悲痛が、俺を向こう見ずにさせた。

「オォォォォォォォォォォォォッ!!」

 刃の交わりが、金属音を幾重にも鳴り響かせた。

 俺の耳は、高音に支配される。

 それ以外に、何も聞こえない。

 だが、視覚は俺の優勢を確かに示していた。

 目の前に映る此岸リョウの表情は苦渋に満ち、斧を持つ両の手からは気勢が失われつつある。

 更に勢いを増せば――。

 もっと俺の中で渦巻く激情に駆られれば、奴を倒せる。

 そう考え、槍に情を込めて振るおうとした瞬間――。

「クッ……!」

「ッ!」

 此岸リョウが、後ろへ飛躍した。

 一足で裏門の柵に到達し、それを足蹴に再び跳んで学校の外へ。


 ――逃がすか!


 駆られて動くことを選んだ俺に、離れる奴を見逃す選択などありはしない。

 すぐに奴と同様、跳躍で以って追い掛けた。

 奴よりも直線的に、放物線を描かない最短距離で躍進し、空中で対峙する。

「オォォォッ!!」

 俺は右手の槍を突き出し、跳んだ勢いを殺すことなく一直線に攻め寄るが――。

「ッ……!」

 間近にまで迫った段階で――。

 此岸リョウが突如、斧に引っ張られて俺の背後へ回り込んだ。

 急ぎ、振り向いた俺の瞳には――。

 馬鹿めと言いたげな奴の笑みと、月光を遮る振り上げられた斧が。

 斧には、刻みつけていた俺の理気力がなかった。

 先程まで握っていた斧を捨てて、新しく生成したのか。

 距離を置いたのは、捨てる余裕が欲しかったから。

 ――舐めるな!

「何ッ⁉」

 俺は突き出していない左槍を逆手に持ち替え、穂を大刃に変えて払い上げた。

 突然、眼前に現れた刃を、此岸リョウは斧の振り下ろしを中断することで回避する。

「グァッ……!」

 俺はその隙に乗じて身体を捻り、突き出した右槍の柄を奴の脇腹にめり込ませた。

 左槍を捨て、両手で1本の槍を握り締め、そのまま奴を巻き込んで回転を続行。

 遠心力を今出せる最大にまで増幅させ、廃ビルへと飛ばした。

 此岸リョウの身体は砲丸の如く速度で解き放たれ、コンクリートの壁面に激突。

 粉塵を爆ぜさせながら貫通し、廃ビルの内部へ入り込んだ。

 俺は着地して間もなく、槍を新たに1本生成し、2本の槍の穂を地面に突き立てて理気力を放出。

 その反動で身体を飛翔させ、廃ビルの破穴に侵入する。

 一気に畳み掛けてやる!

 そう、意気込んで入ったものの――。

「…………!」

 部屋に、此岸リョウの姿はなかった。

 あるのは、埃に塗れたオフィス家具と散乱した書類だけ。

 どこへ――。

「ッ⁉」

 光が、迸る。

 壁や床、部屋全体が出し抜けに紫の光を発し、輝きで俺の視界を眩かせた。

「クッ……!」

 夜の暗闇に慣れていた俺の目は突然の煌々に堪えかね、咄嗟に腕で視界を覆ってしまう。

 束の間――。

 確かにあった床の感触が崩れ去り――。

 俺の身体が、落下を始めた。

 ……さっきの光は、崩落の命令か!

 下の階で尻餅をつかない様に急いで着地の体勢を取り、光が収まっていることを腕と瞼越しから理解して目を見開く。

「ッ!!」

 部屋を崩壊させたという、先の俺の考えは甘かった。

 最下層にまで続く降下の道、共に落ちる無数の瓦礫。

 奴は一室ではなく廃ビルそのものに理気力を掛け、崩壊の命令を送っていた。

 奴はもう、ここにはいなかったのだ。

 生き埋めにされる訳にはいかない、地面と降り掛かる瓦礫で挟まれる前に手を打つ。

 俺は左右の槍の石突を合わせ、1つの双刃刀へと武器を変形。

 頭上に前端の刃先を向け、光のない闇黒の理気力による光線を放つ。

 光線は天高く一直線に昇り、触れた瓦礫を次々と呑み込んで消し去った。

 着地した俺は、積み上がっていく瓦礫の山からコンクリ片が雪崩落ちる前に、双刃刀を2本の槍に戻して再び穂を地面に突き立て、理気力の発射の反動で身体を上昇。

 廃ビルから、脱出し――。


「思った通りに来やがったなぁ!この馬鹿がぁッ!!」


「ッ!?」

 吹き抜ける冷たい夜風と共に、此岸リョウの罵声が到来。

 下にある瓦礫の山を両断出来る程、巨大化した斧が月を覆い隠し、俺の身体に影を落とす。

 此岸リョウが、隣の廃ビルの屋上から手をかざしてアレを操っていた。

「死にやがれッ!いかれポンチィィィィィィッ!!」

 奴の手が振り下ろされ、連動して俺に倒れ掛かる大斧。

 俺は直ちに槍を双刃刀へと再変形し、刃を斧と競り合える規模にまで拡張させ、迎え撃った。

 爆発にも似た衝突音が、街中に響き渡る。

「ッ…………!!」

 衝撃だけじゃない、生じた空気の圧力までもが俺を襲って来る。

 空中、そして緊急の防御で対抗せざるを得なかった今の俺では、上からの攻撃を受け切ることは叶わず――。

 地面に叩きつけられてしまった。

「ゥ……ッ…………!」

 衝撃で跳ね、道路を転がり続ける身体を、左手をアスファルトに立てて抑える。

 身体中に鈍痛が染み渡るが、痛がって行動を止めている場合じゃない。

 次が、来る。

 俺を叩き落した斧、此岸リョウの殺意の大塊が――。

 炸裂。

 人体を刺し貫く豪雨となって、一斉に破片が俺へと降り注ぐ!

 俺は双刃刀で、俺自身を囲うように円を描き、半円状の結界を作成。

 打ちつける鋭鋭利な雫を全て、通過させることなく喰い止め、黒く塗り潰して消し去った。

「ッ――!」

 背後から着地の音。

 振り向くと此岸リョウが、通常サイズに戻した斧で地面を殴り、抉り出した多量のアスファルト片を俺に飛ばした。

 命令を掛けられたか、速度を上げて迫る破片。

 現実にあるものを利用したこの攻撃は……結界では防げない!

 俺は左横の脇道へと飛び込み、掠りながらも破片を躱す。

「………………」

 直接追い掛けに来る気配はない。

 奴は――。

「ッ!」

 再び巨大化させた2本の斧を宙に浮かせて操り、手当たり次第の寸断を始めた。

 並みいる建物を不揃いに断ち、周囲の道に乱雑な亀裂を刻んでいく。

 破砕と倒壊の轟き、立ち込める粉塵が一帯に充満する。

 俺は既に、斧の操作範囲から此岸リョウに気づかれないよう逃走し、廃屋の屋根から此岸リョウの動向を注視していた。

 奴自身がそれを理解しているのかどうか分からないが、斧は奴の半径約90m以上を離れずに破壊を続けている。

 手応えなどないだろうに、何故攻撃を止めない?

 近づかせない為の牽制か?

 ……だとしたら大袈裟だ、近づくなと口に出しているようなもの。

 思えば、俺が奴を投げ飛ばしてから奴は一切、俺に近づいては来なかった。

 ついさっきまで、俺を甚振る為にあれ程接近していた奴が、極端な変化だ。

 勢いを取り戻した俺を警戒していると見て、間違いない。


 警戒は、すなわち怖れ。


 俺が攻撃を掻い潜りながら奴の元へ迫り、その怖れの感情に付け入れば――。

 勝てる。

「……………………」

 だが、例え勝ったとしても、戦いが終わればラスタは――。

「ッ……!」

 今は、ここにいるみんなの為に、此岸リョウを倒す。

 ……それだけを、考えるしかないんだ!!

 俺は双刃刀を2本の槍に戻し、1本に理気力を込めて屋根に石突を突き立て、奴に穂先が向くように固定。

 俺は新しく槍を生成し、両手に槍を握り締めて接近を試みる。

 前方の屋根へ跳び移って疾走し、再び跳んで次の足場へ。

「ッ⁉」

 見境なしだった此岸リョウが近づいて来る俺を捉え、笑みを浮かべた表情をこちらへ向けた。

「ビクビク小便漏らして隠れてりゃよかったのによ……だからテメェは馬鹿だってんだよォッ!!」

 瓦礫を蹴り、更に間合いを詰めていく俺を嘲りながら、此岸リョウは2つの巨大斧で左右から俺を挟むように動かした。


 ――ジャストタイムだ。


「ィガッ!?ゥアァァァァッ……!!」

 屋根に固定しておいた俺の槍から、速度と鋭さの増した黒塊弾が静かに発射され、此岸リョウの右腕を貫いた。

 右腕で操作していた片方の斧は、動きを止めて地面に落下する。

「ふざっ、けんなぁ……!!」

 右腕を撃ち抜かれて垂れ下がり、苦しみで顔を歪める此岸リョウだが、もう片方の斧は止まらずに俺を裂きに掛かる。

 俺は右の槍に、双刃刀状態でないと決壊してしまう程の理気力を込めて、迫る斧へと放り投げた。

 槍は当然の如く崩壊。

 膨大な理気力が槍から溢れて流れ落ち、斧全体に降り掛かる。

 理気力を浴びて黒に塗り潰れた斧は、形を維持出来ずに粒子化して消失。

 これで、奴を倒すのに邪魔なものはなくなった。

 俺は奴の元へ落下しながら、左槍の穂先に理気力を集約し、大玉の黒塊弾を形成する。

 この一撃が当たれば――!

「ッ!」

 此岸リョウが、理気力を纏った右足で地面を強く踏みつけ――。

 地中から、褐色の巨大な岩盤をアスファルトと黒土を押し上げて突き出させ、自身の身を隠した。

「チィッ!」

 このままでは激突するだけ。

 俺は大玉黒塊弾を放ち、岩盤を破壊。

 崩れ落ちる砂礫群を通り抜け、地面に着地する。

「……………………!」

 そんな俺に、此岸リョウは後方へ距離を取り、斧の弾幕を張って待ち構えてた。

 斧の生成と射出を、幾度も繰り返して作り上げたのか!

 月光を反射し、冷たい煌めきを見せる夥しい数の凶器が、刺先を向けて押し寄せる。

 道路を埋め尽くす逃げ場のない攻撃に、俺は槍を横薙ぎに振るって理気力を放出。

 襲い掛かる全ての斧に理気力を引っ被らせ、推力を失った所を槍で掻き分け、押し通った。

 次いで放たれたアスファルト片も、跳んで躱し――。


 奴の元へと辿り着く。

「オォォォッ!」

「クッ……!!」

 俺は槍の穂を大刃へと変え、着地と共に振り下ろす。

「ッ!」

 だが、奴は切羽詰まった表情を出しながらも、咄嗟に刃を回避した。

 そして透かさず右へ回り込み、地面を裂いた俺に、斧による反撃の一撃を振るう。

 俺は――。

「ッ⁉」

 斬り掛かる斧の柄に右足を繰り出し、足底を衝突させて勢いを殺した。

 今、片手しか使えない奴の攻撃なら……これでも止められる!

「ブグッ……!!」

 斧を押し退け、間髪入れずに此岸リョウの左頬へ、槍の後部の柄を撃ち込み――。

 そのまま、怯む奴の身体に一部の隙も許さず、石突を連続的に叩き込む。

 この状況で下手に大技を出そうとすれば、奴に脱せられる危険がある。

 最短で出せるこの攻撃で、奴を追い込んでいくしかない!

 俺は石突を止めずに打ち続け、此岸リョウに鈍い痛みを刻み込んでいく。

 石突を即座に引いて腹部に打ち、即座に引いて脚に打ち――。

 胸に打ち、顔面に打ち、喉へ打つ。

「オォォォォォッ!!」

 憎い相手を一方的に痛めつけるこの瞬間にいても、俺の気持ちは晴れなかった。


 むしろ、より激しくなって、槍を握る手が強まるばかりだ……!




 痛ぇ。

 一発一発の打撃が、身体に深々とめり込んで、容赦なく俺の意識を断絶させようとしてきやがる。

 これが、正義の怒りだって奴かよ。

 テメェの突き出す槍と凄んだ顔から、はっきり伝わって来るぜ。

 お前はやり方は間違ってる、俺の力で何としてでも裁いてやるってな。

 そう言いてぇんだろ?神尾クロム。


 ――舐めんじゃねぇよ、カスが。


 俺にだってなぁ、そういう資格があるんだよ……!



「此岸リョウ様、貴方はアンサラーに選ばれました」


「リョウ、あなたは偉い子なの。だから……あなたのやることは全部、間違ってなんかないのよ」


「お前は、人の上に立て」



 俺とお前は同じだ。

 同じように選ばれて、同じようにここまで来た。

 それなのに、なんでテメェだけが正しい側に立ってると思い込んでやがるんだ。

 俺は間違っちゃいねぇ、罪なんざありはしねぇ。

 勝った奴が正義だ。

 勝った奴が、この世界を物に出来るルールだ。

 テメェを殺して生き残れば――!

 俺が――!

 

 正義なんだよッ!!


「ッ!」

 俺は足から理気力を放出し、再び地中深くの地盤へ命令を送り、奴の攻撃を遮るようにして一部を突き出させた。

 これだけで逃げられるとは思っちゃいねぇ。

「逃がすか……!」

 そら、すぐにデカくした刃で斬って壊しやがった。

 だがそれでいい。

 俺の姿を一瞬でも、奴に見えなくさせればそれでいい。

 そうすれば――。

「ッ⁉」

 不意討ちのドグマ・バーストを、叩き込めるからな。

「爆ぜろォォォッ!!」

 俺は斧を捨て、コアから多量の理気力を宿らせた左手を伸ばし、前方全域に向けて力を解き放つ。

 思わぬ行動に慄いたか、血気に逸っていた神尾クロムの動きも止まった。

 目の前に広がる物体、空間は全て――。

 紫色に染まり上がってヒビ割れ――。

 そして――。


 全てが、俺の命令通りに弾け飛んだ。


「ッ、グゥッ……!!」

 目に映っていたあらゆる存在が自壊し、四方八方へと衝撃が放たれた。

 数多の衝撃は混ざり合い、融合し、1つの広大かつ絶大な爆風となって現れる。

 俺は左腕で顔を覆い、両足を踏みしめ、炸裂する無数の砂礫と押し寄せる風を凌ぐ。

「グウゥゥゥゥ……ッハハハハハ……!ハァッハハハハハハハハッ!!」

 吹き飛ばされないよう、持ち堪えている中で――。

 俺は勝利の確信に打ち震え、溢れる歓喜を口から零す。

 これ程の爆発に巻き込まれて無事なはずはねぇ。

「へへへハハハハハハハハハッ!!」

 勝った!

 俺が勝者だ!ざまぁ見ろ!!

 俺の歩んで来た全てが、正しいと証明され――。


「え」


 ……嘘だ。

 アレを喰らって、立っていられるはずがねぇ。

 何でだ。

 何で、土煙の中から出て来る。

 何で身体中が裂けて血に塗れていながら、槍を握ってこっちに走って来てんだよ。

 神尾クロム。

 何でまだ、全力で槍を繰り出そうとしてきやがる。

 何で、何で……。

 何で何でなんでなんでなんで――!

 

「何でテメェは死なねぇんだよォッ!?」

「ウオオオオオオオォォォォォォォォァァァァァァァァァァァッ!!」




 槍の穂を奴に突きつけ、大玉の黒塊弾を至近距離で発射する。

 炸裂する黒塊弾の衝撃をまともに喰らった此岸リョウは、理気力に塗れながら後方へと吹き飛んだ。

 何度も地面を跳ね、転げ回り、突き当りの壁に激突し――。

 倒れ伏した。

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