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Seventh Øne  作者: 駿
24/42

もう1人のアンサラー ③

「……………………」

「?」

 アラタとアクトリア、そしてラスタがずっと外を見ている。

 3人の元へ駆け寄る。

 戦いは終わったというのにその表情は固く、どこか不安を抱え、重苦しい静けさがその場に広がっていた。

「どうしたんだ、皆?」

「……………………群れで遭遇した場合の説明も、彼にしていなかったのですか?」

「まだ、早いと思ったものですから」

「そればかりですね、貴方は」

「なんの話だよ?」

 俺は不安を隠せずに声を上げた。

 するとアラタが静かに目を向け、真剣な表情で言った。

「クロム。アンサラーの先輩として、大事なことを1つ教えてやる」

 その言葉に、俺の心は一瞬ざわついた。

 何か重大なことが待ち構えている、そんな予感を感じながら、俺は黙ってアラタを見つめる。

「あんな風にイレイノムが複数同時で遭遇した場合、そいつらは下っ端だと思え」

「下っ端…………なんの?」

「上級イレイノムのだ」

「……………………」

 上級。

 その言葉を聞いた途端、胸が締めつけられた。

 皆の空気を見れば分かる。

 俺が今まで出会ったイレイノムとは、桁違いであることが。

「上級イレイノムは引き連れている下級達を探知機のように使い、発見した集落を自らの手で消し去るんだ」

「探知機って、じゃあ…………!?」

「ここが、上級に見つかったと考えて良い」

 アラタは俺の両肩を掴んだ。

 その掌からは、アラタの抱く危機感が重みとなって伝わってくる。

「クロム。お前とラスタは今すぐ、住民達の避難誘導をしろ!俺達は――」


「ッ!?」


 突然だった。

 巨大な影が大地を駆け抜け、俺達の元へ迫り来る。

 その影は、太陽を完全に遮り、昼間だというのにあたりは一瞬で暗闇に包まれた。

 皆が息を呑み、上空を見る。

 太陽を遮る程の巨大な存在がいることを、理解したからだ。

「…………!」

 遥か天空。

 怪鳥の化身が、そこにいた。

 あの下級達と同じく鳥のシルエットだが、その体躯は到底比べ物にならない規模だ。

「来るぞ……!!」

 イレイノムが翼を畳んで、急降下で始めた。

 その身体が大気を切り裂き、まるで隕石のように地面に向かって猛然と降りてくる。

「ッ!!」

 イレイノムが地面に降り立ち、衝撃が大地を震撼する。

 周囲に亀裂を走り、結界内のビルが音を立てて崩れていく。

 結界は、上級イレイノムが接近したことで再び現れている。

 しかし地面の振動や音までは防げない。

「これが、上級イレイノム……………………!」

 従来のイレイノムと同じく純白の肉体と、金色の眼。

 猛禽類のように鋭い嘴と、爪。

 廃ビルをも優に勝る体躯。

 人なんか蟻みたく簡単に踏み潰せる奴を相手に、どうやって勝てばいいんだ。

「…………………………………………………………」

 イレイノムは小さな俺達をしっかりと眼で見詰め――。


「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」


「ッ⁉グゥッ……!!」

 まるで黒板を引っ掻くような――。

 人の本能的な不快感を催す、高周波の咆哮を響かせる。

 空気を震わせ、周囲の建物にまで振動を与える。

「ウッ、グ…………ァァァ……………………!!」

 耳の鼓膜が裂けそうな感覚。

 頭が、割れそうだ――!

「しっかりしろ、クロム!!」

 耳を押さえながらアラタの呼び声に頷く。

 耳から流れた出血が、手に濡れた感触を与える。

「ッ!」

 結界内にいたドローンがイレイノムを迎え撃つために、再び結界の外へ出る。

 イレイノムはドローンに対し、特に動く様子はない。

 ただ、口の内部から何か白い輝きを漏らしているだけ――。

「ッ、いきなりか!!離れるぞ」

「ッ!?」

 突然、アラタが声を上げて後退を始める。

 その動きに反応してアクトリアも即座に身を引き、2人は一気に後ろへと駆け出す。

 その動きに遅れまいと、ラスタも俺の腕を掴んで引っ張り、共にイレイノムから距離を取ろうとする。

 すぐにその意味を理解した。

 イレイノムがその口から漏らしている光は、ただの光ではない。

 あれは、何かを溜め込んでいる証だ。

 白光はさらに輝きを増し、空気が震え、地面が微かに揺れ動く。

 今にも爆発しそうな程の圧力が、離れているはずのこの場でさえ伝わってくる。

「あれは、なんなんだ!?」

「ゼロサムと呼んでいる!上級イレイノムが放つ光線だ!!」

「ゼロサム…………!」

「結界は間違いなく破壊される、その余波もヤバい!だから逃げるんだ!!」

 ドローン達がイレイノムに接近し、包囲網を仕掛けようとした。

 瞬間――。

「ッ⁉」

 イレイノムの口が開かれ、中に満ちていた白光が堰を切った奔流の如く、一気に解き放たれる。

 1本の線となって空を裂く光線は、ドローンの編隊を一瞬にして抹消し、結界と衝突する。

「ッ!」

 全ての世界が無に変わってしまったと誤解する程、白が内部を照らす。

 結界全体が、白く染まりながら軋みを上げていく。

「このままじゃ!」

「大丈夫だ!貫かれはしないッ!!」

 アラタは俺の不安を断ち切るように叫ぶ。

 事実、アラタの言う通りだった。

 結界を白が呑み込み掛けたその刹那、結界の外層が、まるで爆薬を内包していたかのように炸裂する。

 それはまさしく、爆発反応装甲であった。

 炸裂する結界とゼロサム、2つの力が激突し――。

「ウゥッ………………!!」

「クッ……!」

 世界が、震撼する。

 衝突の余波で結界の内壁は、硝子のように軋みを上げて崩れ落ちてしまう。

 防御機能は限界を迎え、結界そのものが音を立てて消失していった。

 それだけではない。

 ゼロサムが衝突した結界の境目から、白化現象が街へと滲むように押し寄せていた。

 街路が消えた。

 看板が、電柱が、瓦礫が……どれも音を立てることなく、輪郭を保ったまま無へと変わっていく。

「すぐ傍まで来ています!走って!!」

「ッ、どこまで……………………!」

 侵食の速度が早い、距離が縮まっていく。

 この中で遅れているのは俺だ、いつもみたく上手く走れない。

 歯を食いしばって脚に力を込めても、速度が出ない。

 文字通り、腕を掴んでくれている彼女の足を引っ張ってしまっている。

 もう役立たずになるのは――。

 御免だ。

「クロム!?」

「ドグマ・バーストで止める!!」

「なっ…………出来なかったばかりだろう!!」

 だからこそ、次は必ず成功させてみせる。

 槍を生成し、コアに手を触れる。

「ッ!」

 よし。

 力が使える、応えてくれる。

 無事に手へ宿った理気力を槍に纏わせ、地面に突き立てた。

 槍から理気力が左右へ広がり、白化の侵食を断ち切るべく走る。

 この町を、俺の力で包む。

 アラタに比べれば負けるだろうが、これで侵食は止められ――。

「え…………?」

 嘘だ。

 白が俺の理気力の上を、何の拮抗もなく塗り潰していく。

 結界が、一瞬にして呑み込まれた。

 弾かれた訳じゃない、押し切られた訳でもない。

 無視された。

 俺の力は、こんなことすら――。

「クロムッ!!」

「ラスタ!?」

 襟の後ろを引っ張られ、身体がまた宙に浮く。

 ラスタが迫る白化から遠ざけてくれた。

 でも――。

「………………………!」

 俺の代わりに、ラスタの左足が逃れられず侵食を受けてしまう。

 それでも彼女は眉ひとつ動かさず、即座に槍を地面に突き刺し、その反発で跳躍。

 瓦礫の壁を蹴り、屋根を伝い、さらに飛ぶ。

 左足が使えない中でも、寸刻の判断で逃げ道を選び、駆け抜けていく。

「ッ!」

 白化が、ようやく止まった。

 停止を見たアラタとアクトリアは立ち止まり、ラスタは飛び移りの勢いで地面を転がりながら、着地する。

「やっと止まったか」

「ごめん、ラスタ…………俺のせいで」

「そう思うなら、無茶も程々にしてください」

「…………うん」

 俺は今、でしゃばることしか出来ていなかった。

 現時点で何かをしようとしても、俺は役に立たない。

 それを痛感した。

「ッ、あのイレイノムは!?」

「あそこだ…………………!」

 アラタが指差した先、そこは上空。

 イレイノムが滑空でこの街を旋回していた。

 爆発で見失った俺達を探しているのか。

「分かりやすく人がいるあの拠点を狙わないということは、標的を俺達に絞っているんだろうな。好都合だ」

「けど、どうすれば良いんだ。あんな奴相手に…………!」

 光線で結界は破壊されるし、ドローンも全滅。

 あんな巨体に、いつも通りの戦いが敵う訳もなし。

「…………クロム、先輩としてまた1つ大事なことを教えてやる。奴を倒す方法だ」

「あるのか!?」

「そのために、奴と距離を放す必要があった。これを間近で行いたくはなかったからな…………やるぞ、アクトリア」

「はい」

 何を始めるんだ。

「アンサラーとエルダー…………2人の命と理想を共有し、限界を超える術だ」

「行きますよアラタ」

「あぁ!」

「ッ!」

 アクトリアの身体から、銀色の粒子が舞い始める。

 彼女自身の身体が、粒子となって崩れていく。

 理気力、なのか。

 彼女の身体は輪郭を失い、理気力の塊となってアラタの周囲を旋回、渦の如くアラタを包み込んだ。

「クッ…………!」

 この肌を叩きつけるものは、風圧だけじゃない。

 渦の中心にいるアラタの力が昂り、圧となって掛かって来ているんだ。

「kkkkkiiiiiirrrrrrrrrrrrrrrrrrYyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyッ!!」

「ッ!?」

 その圧を、イレイノムも感じ取っていた。

 イレイノムが叫びを上げ、両足の爪を構えて迫り来る。

 渦巻く粒子の勢いと輝きが、更に増していく。

 だが、イレイノムの攻撃が直撃するまで時間はない。

「アラタッ!!」


「これが、共命理だ」


「ッ!」

 イレイノムの強襲が再び現れた結界によって防がれる。

 外層が炸裂し、衝撃となってイレイノムを襲い、転倒させた。

 渦が消え、手を伸ばしてイレイノムを見詰めるアラタが露となる。

 まさか、手を伸ばしただけで結界を作り上げたのか。

「あの姿は…………」

 ラスタが驚きを漏らす。

 アラタはアクトリアの肉体だった金属を、装甲として自らに合う形で身に纏い、両目もアクトリアと同じ冷たい機械的なものに置き換わっていた。

「初っ端から全力でいく。2人共下がっていろ」

 そう言ってアラタはコアに触れる。

「ッ!?」

 空間が揺れ動く程の衝撃が走る。

 これ迄とは段違いの理気力がアラタの手に伝わった。

 アラタは理気力をデバイスに纏わせ、操作する。

 今は言う通りに動くのが身の為か。

「すみません」

「俺のせいなのに何言ってんだよ」

 俺はラスタの腕を自分の肩に回して、共に離れた。

「何をする気だ」

「出すんだよ、奴を打ち倒す兵器をな」

「兵器…………?」

 アラタが操作を終えて右腕を天に掲げた、直後――。

「えッ!?」

 1つの巨大カプセルが空から一直線に降り、地上に突き刺さった。

「うわぁッ!!」

 轟音。衝撃波。地面が陥没し、砂塵が爆発的に舞い上がる。

 咄嗟にラスタを庇いながらしゃがみこむ。突風が襲い、耳鳴りの中に重金属の軋む音が混ざった。

 煙と砂塵の向こう、カプセルのロックが開いて中から現したのは――。

 銀灰色を基調とする、10m級の巨大ロボットだった。

「巨大人型鎮圧戦機。アイゼンと俺は名づけている」

「こんな、ものまで…………⁉」

 逆関節の足で佇み、肩から足先にまで伸びた長腕を持ち、様々な武装を搭載したこのロボットは、足を崩して胸部のハッチを解放する。

 アラタはコクピットの席に飛び移ってコンソールを操作し、ハッチを閉鎖。

 頭部の切れ長なツインアイを青く発光させ、エンジンの駆動音と共に立ち上がる。

 同時に背部の複合スラスターが点灯。

 両腰部の携行していた片刃のブレードを逆手持ちで装備して、アイゼンは発進する。

 今の俺では決して踏み入ることの出来ない、アラタとイレイノムの激戦が――。

 始まろうとしていた。

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