滅びの使者 再現 ④
「どうした、逃げるだけか?」
「ッ……!」
理気力を纏って巨大化させた両手の爪撃から、機械を操るこの男は後退してひたすら逃げる。
壁や地面を抉るだけの虚しい手応えを得るのは、これで何度目だろうか。
男は、俺の攻撃を逃げるばかりで一切攻勢に出ない。
偶に……その右手に持つSFチックな銃から弾丸を放ち、俺に牽制を掛ける程度だ。
何が狙いだ?
臆病者のチキン野郎と決めつけるのは簡単だが、そうは見えない。
俺を見詰める奴の目は……俺を制するつもりでいる、思い上がりの目だ。
舐めやがって。
「チッ」
規模の大きい攻撃で手早く倒し、あのジジイを追うつもりだったが…………止めだ。
本腰を入れて、奴を仕留める。
俺は両手を覆っていた理気力を解除し、新たに刀身を右手に纏って突撃した。
「ッ!」
男は退きながら銃弾を連射し、腕に装着されているデバイスを操作して生成した数機のドローンを俺にけしかける。
温いな。
迫る数多の弾丸を、俺は足を止めることなく刃で斬り払い――。
横から繰り出されるドローンの光線を飛んで躱し、迫る鋭利な翼による斬撃も……掻い潜っての切り返しで対処。
すぐに、奴の懐へ辿り着いた。
「…………!」
長期戦を見越し、出し惜しみしていたのかもしれないが。
死んでしまえば元も子も無いな。
後悔しながら、あの世へ逝け――。
トラップ、発動。
「ッ……!?」
俺の懐にまで迫っていたシュウリとかいう人物は、その勢いを急激に失い、硬直する。
易々と、掛かってくれたものだ。
攻撃を躱しながら、事前に仕掛けていたエレキトラップの地点にまで誘導する、俺の策に。
「これが、狙いだったか…………」
三叉路の曲がり角。
立ち入るまで見ることの出来ない両脇に設置している、多数のエレキトラップ。
奴はまんまと足を踏み入れ……張り巡らせた電気の線に触れ、感電状態にある。
普通なら一瞬にして呼吸困難に陥る電流だが……クロムと同じような否定の能力を持っている奴には、やや効果が薄らいでいるようだ。
だが、止められれば十分。
俺は……痺れているにも関わらず、殺意を込めて睨み続けるシュウリから離れた。
そして――。
「潰されるのは、お前の方だ」
デバイス操作で数十機のドローンを生成し、展開。
四方八方を覆い尽くした完全なる包囲網を構築し、砲身を一斉にシュウリへと向けさせた。
ドローンによる射撃で、終わらせてやる。
この男が何者かは知らないが、俺の邪魔をし……俺を殺そうとするなら、決して容赦は――。
「フッ……」
「ッ!」
何を笑っている?
電撃を浴びて苦しい上に身動きは取れず、今にも全てのドローンが光線を放とうとしている状況で。
「これが、お前の理想か?意思無き道具を操って他者を縛り……己の思うがまま蹂躙する。こんなものがお前の望む世界なのか?」
「………………」
言動で俺を惑わそうという魂胆か?
下らない。
今更、そんなことで揺らぐものか。
「そうだ。俺は、俺自身が全てを管理する理想の世界を体現する。それを阻むお前は……殺す」
「………………」
「今持っているコアを潔く捨てるというなら、話を別だが——」
「馬鹿げてるな」
「……何?」
「自分1人で全てを決め、全てを裁くつもりでいる。何と傲慢で、滑稽な奴だ」
「…………」
傲慢で、滑稽か。
その通りかもな、だが——。
「これから消えるお前は、それ以下だ」
「俺は消えないさ。お前らアンサラーを1人残らず消すまでな」
「撃て」
敵対の意志を崩さないのなら、最早情けは無用。
ドローン達に命令を下し、死角のない無数の光線を放った。
「俺は、希望に苛まれる全ての人間の代弁者だ」
「ッ⁉」
シュウリは、背中に雄々しく広大な赤紫の両翼を生やし、渦を巻くようにして振り払った。
触れるもの全てを薙ぐ両翼、そして生じる烈風は……襲い掛かる光線とそれを放つドローン、奴を封じていたエレキトラップを、周囲一帯の建物ごと消し飛ばした。
「ウゥッ…………!」
風圧で押しやられる身体を、俺は片膝を崩しながらもどうにか踏み止まり……飛来する瓦礫を手で叩き落としながら、体勢を立て直す。
これで仕留められると思っていたが、甘かったか……!
「ッ……!」
トラップの拘束から解かれたシュウリが、風に抗っている間に視界から消えた。
どこへ——。
「ッ⁉」
月明かりによって生まれた地面の影が、奴の位置を知らせた。
シュウリは両翼を羽ばたかせ、上空へ高々と飛翔していた。
そして、俺に目掛けて急降下し——。
右脚に理気力を纏わせた一直線の飛び蹴りを、隕石の如き迫力と速度で繰り出した。
「クッ……!」
能力で迎撃する猶予など無かった。
俺は後ろへ跳び、紙一重で衝突を避けた。
直後……シュウリの蹴りが地面に墜落し、凄まじい破壊音が轟いた。
落下地点を中心に一帯のアスファルトは爆ぜ……無数の破片が激しく飛び散り、その一部が俺の頬を切り裂いた。
俺は咄嗟に、アーマーによって守られた両腕で顔を覆い、顔面を保護する。
……一瞬でも遅れていたら、眼球が間違いなくやられていた。
「浅はかな小細工など、俺には通用しない」
シュウリは地面に突き刺さった右足を引き抜き、俺に追撃を仕掛ける姿勢を見せる。
今のままでは、翼を生やした奴の機動力に追いつけない。
ドグマ・バーストをもう一度発動し、アイゼン弐式を装着して対抗するしか手は無いか……!
俺は、胸のコアに手を触れようとした。
瞬間——。
「ッ!?」
「…………!」
既視感のある真白の光が、横道の奥より閃き——。
鮮烈な光線となって地面を白に染め上げながら、俺達の間を駆け抜けた。
今のは、ゼロサム……!?
まさか!
俺は起こった事実の衝撃に狼狽えつつ、光線が放たれた方向へと目を向ける。
「ッ、馬鹿な。どうして……!?」
「フッ……こいつは驚きだ」
攻撃を放った正体、それは予想通りイレイノムだった。
だが、ありえない。
イレイノムはエルドルーラーが作り上げた結界により、発生と侵入を防いでいた筈だ!
何故……今ここに存在している⁉
「Ooooooooooooooo…………」
それに、イレイノムの外見も明らかに異様だ。
一見すればただの人型だが、手にしている錫杖、長髪、切断されている右腕。
イレイノムであるにも関わらず胸に埋め込まれている、緑のドグマ・コア。
あれはどう見ても、御影フメイの姿そのもの——。
「戦闘中だぞ」
「ッ⁉」
シュウリが翼を用いて急速に迫り、右手に纏った刃で俺に斬り掛かる。
「お前ッ……!」
俺は膝を崩して上体を逸らし、紙一重で首への斬撃を回避する。
勢い余り、地面を滑るシュウリ。
踏ん張りを効かせて身体を喰い止め、俺に向き直った奴は、接近戦で戦うのに不向きと判断したのか翼を消し去った。
そして、地を蹴って再度俺に肉薄し……その凶刃を振るった。
「こんなことしている場合じゃない!イレイノムが目の前にいるんだぞッ!?」
俺はシュウリの剣を受けないように躱しながら、イレイノムを無視して戦闘を続行するシュウリに叫ぶ。
「俺にとっては好都合だ」
「何……⁉」
「イレイノムが全てを滅ぼすのが、俺の目的だからな」
「ッ!それがお前の理想だとでも言うのかッ⁉」
「独善なお前達が決める世界よりは、幾分マシだろう」
「ふざけるなッ!!」
俺はデバイスから盾シルエットのアイコンをタップし、防護盾を生成。
刃を振り抜いた直後のシュウリに突撃し、盾を押し当てることで奴の二の太刀を封じた。
しかし……封じたはいいが、どうする!?
イレイノムを野放しにしておく訳にはいかない、一刻も早く対処しなくては。
だが、この男はそれを許さない。
俺の力を無効にする奴を、どう退ければ——!
「ッ⁉」
盾が、壊れた。
奴の身体から夥しい棘状の理気力が噴き出し、防護盾を次々と刺し貫く。
「グッ……!」
棘は、盾を手にしていた右腕のアーマーをも破損させ、露出した皮膚を鋭く掠めた。
「永劫続く希望の輪廻は、俺が終わらせる」
「輪廻……!?何を言って、ッ——!!」
再び振るわれる奴の刃を俺は、身体を捻って回避するが……続けざまに繰り出された蹴りを、躱すことは出来なかった。
横腹に足底を叩き込まれ、俺はまた奴の手により冷たい地面を転がされた。
奴への対処法が見つからない、この危機的状況。
「Oooooooooooooooooッ!!」
「ッ⁉」
そこに、拍車が掛かった。
その場に留まっていたイレイノムが雄叫びを上げ、倒れた俺に錫杖を向けて白光を発し始めた。
ゼロサム……!
あの光に呑み込まれたら存在を消される、喰らう訳にはいかない!!
俺はすぐに飛び起き、即座に横へ跳んで逃れようとした。
だが――。
「ッ⁉グァァッ!」
右太股を、衝撃が貫いた。
抑えようのない灼熱が脚を駆け巡り、俺の身体を崩れ落とした。
「ウゥ、お前ッ…………!!」
「俺との戦闘中だと言ったろう?」
シュウリは、横向きの指鉄砲を俺に向けている。
あの指先から、弾丸のような小さな理気力の塊を飛ばして、俺の太股を撃ち抜いたのか……!
「お前がイレイノムの手で消されてしまえば、グレイへの言い訳も立つんだ。潔く光に消えろ」
「ッ……!!」
イレイノムの光の輝きが、増大している。
ゼロサムの放出が迫っている!
……この負傷した足では、躱せない!!
ゼロサムを耐え凌ぐべく、俺はすぐさま結界を展開し、自身を覆うが――。
「ッ⁉」
シュウリの銃撃が、結界を粉々に砕いた。
「Oooooooooooooooooッ!!」
閃光が、激流となって放たれる。




