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Seventh Øne  作者: 駿
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贖罪のプロローグ ①

「助けて、助けてお兄ちゃん!!私、死にたくないッ!!」

「カリン……!」

 白い怪物の手によって、地面の中へ引きずり込まれそうになる妹を、俺は必死に腕を掴んで引き上げようとする。

 だけど、無力な俺では助け出すことは出来なくて――。

「助けて……助けて……ッ!!」

 妹の流す涙も恐怖も、救いを求める悲痛な訴えも何一つ、俺はカリンの兄貴として応えられず――。

 怪物の思うがまま、カリンは白く染まった地面の中へと消えていった。

「カリン……⁉カリン!カリンッ!!」


「どうして、私を助けてくれなかったの?」


「ッ⁉」

 カリンの声が、空間中から響いて来る。

「私を見捨てたの?見捨てたんでしょ。自分も死ぬかもって」

「違う、俺は……!」

「守るって言った癖に、嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき」

「俺は、お前も守ろうと……!」 

「嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき」



「ッ……⁉」

 瞼を閉ざした暗闇の視界が、はっきりと意識の中に映る。

 夢を、見ていた。

 いや――。

 夢じゃない、現実だ。

 何度も何度も内容を繰り返し、変えたいと願っても変えようのない、過去の現実。

 目を開ける。

 

「え…………?」


 仮眠から目覚めると、俺の眼前には知らない女性の顔があった。

 もう少し近付けば触れてしまいそうなほど、間近な距離に。

「おはようございます」

 淡々と挨拶の言葉を述べる彼女に対して、俺の行動は――。

「うわぁぁぁぁぁぁッ⁉」

 失礼にも悲鳴を上げながら、身体を大きく後ろに退いた全力退避だった。

 ここが、キャンピングカーの車内だということも忘れて――。

「痛ッ!!」

 案の定、窓に後頭部をぶつけて目覚めのいい鈍痛を頂いた。

「ッ~~~~~~~~~~~ッ!!」

「お目覚めの気分はいかがですか?」

「…………最高だよ、お陰様で」

「それは何より」

 青紫の瞳、純白の髪。

 薄汚れた紺の作業服を着込んでいる自分と同じ世界にいるとは思えない、黒を基調に金が差された華奢なドレスを身につける、どこぞのお嬢様かのような出で立ち。

 一体誰だ、彼女は。

 俺が寝ている前に車内にはいなかったぞ、外から入って来たのか。

 鍵は掛けたと思うんだけどな。

「君は……誰?」

「挨拶の前に名を名乗った方が良かったでしょうか?ラスタと申します。以後お見知りおきを…………神尾クロム」

「ラスタ…………」

 日本人には見えない外見だからそうかもと思ったけど、やっぱり外人か。

 やけに日本語が流暢だな。

 って、ちょっと待て。

「何で俺の名前知ってんの?」

「知っていますとも、私は貴方と会うためにやって来たのですから」

「は?来たって、どこから…………」

「空」

 ラスタは上を指差し、恥ずかし気も躊躇いも無く素っ頓狂なことを言い出した。

「……………………」

 彼女はあれか、俗に言う不思議ちゃんか。

 俺の名前を知ってるのは、多分ボックスに入っている免許証でも見たんだろう。

 いや~怖いなぁ。

 言葉に詰まってしまったが、こういうのは適当に話を合わせるのが無難か。

 折角出会えた生存者なんだ、親交を深めつつ保護しよう。

「へ……へぇ~空!あはは、そりゃあ随分遠い所から来たねぇ」

 テーブルに置いていた赤いチョーカーを身につけ、積んでいる荷物に当たらないように避けながら、室内を出て運転席に移る。

「長旅だったでしょ」

「そうでもありませんよ。この地上へは一瞬で転移して来ましたので」

「転移⁉ははっ、そんな超技術があるんだ君の所は!」

 本当にあるのなら、是非とも皆をそこへ連れて行かせたいところだ。

 地獄のようなこの世界から、解放されるのだから。

 ブレーキペダルを踏み、エンジンスイッチを入れる。

「さて、それじゃあ車出すから。助手席座って」

「…………助手席?」

「ここ」

 隣にある席を指差して分かったのか、彼女も同じように外へ出て入り直し、助手席に腰掛けた。

「………………」

「…………出発しないのですか?」

「いや、シートベルト」

「…………?」

 ラスタは理解していないのか、首をかしげた。

 成程。

 空にいたから下界の常識は知らないってことか、随分徹底してキャラを貫いてるな。

「ほら、こうするんだよ」

 彼女の右肩と右腰にあるストラップを引っ張り、左腰のバックルに取り付け固定した。

「こうすれば身体が固定されて、車がぶつかったり急に曲がったりしても守ってくれる。アレと出くわしたら、スピードも出して振り切らないといけないし」

「……ありがとうございます」

「礼を言われることじゃないって」

 しかし、庶民的な車に居座るドレス姿のお嬢様ってのは、何とも珍妙な絵面だな。

「よし……それじゃあ、出発」

 パーキングからドライブにギアをシフトし、発進する。


 左右が林に覆われた狭い山道を駆け抜ける。

「神尾クロム……」

「クロムで良いよ。そんな冷たい口調でフルネームを呼ばれると畏まっちゃうよ」

「では私のことも気安くラスタと呼んでください。バディとなるのですから」

「いやいやいや!急にバディと言われても…………まぁ、いいや。それより、何か質問?」

「はい。この車はどちらに向かわれているのですか?」

「ちょっと農村の方にね……物資を届けに行くんだ」

「物資?」

「ほら室内に収納箱があるだろ?中に俺が調達した食糧やら必需品やら、色々入っているんだ」

 食糧は一部俺が栽培したのもあるけど、他は無人となってしまった建物から取って来たもの、言ってしまえば略奪だ。

 でも、あのまま放置されて腐り果てるのを待つより誰かに使われた方がいい。

 俺が向かっているのは山に囲まれた農村だ。

 生活用品には特に困っているだろう。

 何せ、アレが出没し始めて満足に外へ出られないのだから。

「ッ⁉」

 ラスタには悪いが、急ブレーキで車を止めた。

 アレが……近くにいる!

「クロム、あそこ…………」

「ッ!」

 ラスタが一早く存在に気づき、俺に指を差して教えてくれた。

 右側車線の崖に並び立つ木々に紛れて、アレがいた。

 この世界を地獄に変えた真白の怪物。

「イレイノム…………!」

「イレイノム。ここではそう呼んでいるのですか」


 イレイノム、それは突如として世界各地で出現した、姿形が不定な謎の生物群だ。

 踏み締めた地面を白く染め、触れた全ての生物を蝋のように変える侵略者でもある。

 奴らのせいで沢山の人間が消えていった、俺の友人や家族も……!

 ハンドルを握る手が、震えている。

 内から湧き上がる恐怖を殺し、窮地を抜け出すための思考を巡らす。

 

 犬の姿をしたイレイノムは静かに周囲を歩き、地面を白く変えて生えていた草を消滅させている。

 まだ、俺達の存在には気づいていない。

「私が倒しましょうか?」

「馬鹿なことを言うな。全速力で突っ切って逃げる」

 奴らが頼っているのはあの丸い黄色の目から見える視覚のみ、こちらの後ろを向いている今がチャンス。

 逃げ切れる確証はないが、やるしかない――!

「行くぞ――って、ラスタ⁉」

 いつの間にかラスタがシートベルトを外し、ドアを開けて外に出ていた。

 まさか、本気で倒そうとしているのか。

 無茶だ。

 今まで幾度も自衛隊が応戦してきたが、その悉くは返り討ち。

 あらゆる攻撃手段をもってしても、奴らに何の外傷も与えることは出来なかったんだ。

 ラスタ、分かっているのか。

 お前が今戦おうとしているのは、そんな相手なんだぞ。

 現代兵器も通じず、触れただけで全てを消す怪物なんて、俺達人間が敵う相手じゃない。

 だから俺を含め、生き残っている人間達は襲われないことをひたすら祈って、出くわしても逃げることだけを考えて生きているんだ。

「馬鹿、止せッ!!」

 堪らず俺も車外へ出て、ラスタの肩を掴んだ。

「車がどれぐらいの速度を出せるのか分かりませんが、物資もあれだけ積んでいる状況では速度も出ず……追いつかれる可能性が高い。犬の姿をしたイレイノムですので、俊敏性は恐らく高いでしょう。それでも100%逃げ切れる自信がお有りですか?」

「それは…………!」

「であれが、私が出るのが一番でしょう」

「死にに行く様な真似、させられるわけないだろう!!」

「死にませんよ。私が勝ちますから」

「だから!奴らとは先ず勝負にならな――!」

「離れて……イレイノムが気づきました」

「ッ⁉」

 気がつけば、イレイノムが俺達を見やっていた。

 崖から飛び降りて着地し、声も発さず淡々とにじり寄りながら、仕掛ける機会を伺うイレイノム。

 その一連の行動に生物感は無く不気味な程機械的で、俺の恐怖心を煽る。

「ハァ……ハァ…………!」

 怖い。

 映る者全てを殺す対象と見ているあの無情な目が、恐ろしくて身体が竦む。

 あの日のイレイノムと同じ――。

 記憶が蘇って聞こえてくる、見えてくる。

 あの絶叫、あの凄惨、あの不条理、あの怨嗟、あの消失が――!!

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 悲鳴が喉元にまで込み上げて、吐き出しそうになるが。

「下がって」

 ラスタの声で、現実に引き戻された。

 ラスタは俺を守るように真正面に立ってくれていた。

 その右手には――。

「え……」

 黒い槍を携えていた。

 イレイノムとは対照的な程に漆黒で、穂の両側面に突起の付いたパルチザンのような短槍。

 あんなの、今まで持っていなかったじゃないか。

「ッ!」

 既にイレイノムが間近に迫り、どこにも繋がっていない大口を開いてラスタに飛び掛かる。

 危ない、そう叫び掛けたが――。

 叫ぶ前に勝負は決まった。

 ラスタが槍を振り上げ、飛び掛かったイレイノムを両断したのだ。

 断たれたイレイノムの身体は、ラスタと俺の両側を通り過ぎ、地面に落ちる寸前、あの槍と同じ黒に変色して破裂。

 あのイレイノムを、倒した。

 戦いとは無縁に見える美麗な彼女が、容易く。

「………………」

「ほら、勝ったでしょう?」

「な……何者なんだ。お前」

「やっと、まともに聞いてくれる気になったみたいですね。私の名はラスタ、イレイノムが蔓延るこの世界を救済するためにやって来た…………エルダーです」

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