怒ってる……?
約束通り、琥珀の好きな唐揚げを揚げた。
それでご機嫌を取って、願わくばもう少しヒントを引き出したかった。
それだけじゃない。ホタルの好きなおかずも並べて、帰りを待った。
風呂にもホタルの好きな入浴剤を入れておいた。
出来ることなら、少しでも機嫌が和らいで帰ってきてほしい。淡い期待を抱きながら。
そんな時だった。
玄関のドアが開く音がした。
反射的に、急いで玄関へ走る。
「おかえり――」
出た声が、妙に裏返っていた。
目の前に立つホタルを見て、信じられないものを見たように硬直したからだ。
「ホタル……それ、どうしたんだ……」
膝から崩れ落ちる感覚。
あの綺麗な赤い髪に、緑のメッシュを入れて少し長めに伸ばしていたはずの髪が――短く切られていた。
「なんで……ホタル、どうして……」
震える声で問いかける。
でも、ホタルはただ一言。
「別に。気分転換しただけ」
そう言い捨てて、リビングに入っていってしまった。
しばらくして、琥珀が慌てて階段を降りてきた。
「翠兄、どうしたの?」
その声にも、オレは反応できなかった。
ただ、玄関で崩れ落ちたまま、息も詰まるように固まっていた。
琥珀がリビングへ行く声が耳に届く。
「蛍兄、それどうしたの?」
「……気分転換しただけ」
蛍兄の声は淡々としていた。
けれど琥珀は一歩踏み込んだ。
「いや、だって――あの髪、翠兄とお揃いにしてたでしょ?」
リビングが一瞬、静まり返ったように思えた。
やがて蛍兄の声が響いた。
「別に。長いの、飽きただけだし」
それは、ホタルらしからぬ返事だった。
どこか冷たく、突き放すような。
オレの胸が、ひどくざわついた。
(……ホタル。今回、本気で怒ってる?)
(オレ……嫌われた……?)
そう思った瞬間、身体に力が入らなくなった。
玄関から立ち上がることができず、ただその場で崩れ落ちたまま、震える指先を握りしめるしかなかった。




