ある意味日常
どうしようかなぁと迷っていると、二階からドタドタと慌ただしい足音が響いた。
息を切らしてリビングに飛び込んできたのは翠兄だった。
「ホタル、ごめん! その……汚い栞がホタルの宝物だって知らなくて!」
(あちゃー……それは火に油だよ、翠兄)
顔を見なくてもわかる。蛍兄の機嫌が、さらに悪くなったのは空気で伝わった。
「何回も“汚い”って言わないで!!! もう翡翠なんか知らない!」
そう叫ぶと、蛍兄は立ち上がりリビングを飛び出していった。
「ホタル待って!」と翠兄が慌てて追いかけるけど、
「ついてこないで!」
玄関のドアがバタン! と大きな音を立てて閉まった。
次の瞬間、翠兄の声が家にこだました。
「ホタルーーーー!!!」
……完全にドラマのワンシーンだ。
その後、しょんぼりとノロノロ戻ってきた翠兄は、リビングのソファに倒れ込んできた。
「琥珀ー……ホタルがバチ切れしてる……」
「うん、見なくてもわかるよ」
「ホタルがあんなに怒るとは思わなかったんだ……」
「翠兄、たまに迂闊なとこあるからね」
「あぁぁぁぁあああ! ホタルに嫌われたらオレ死ぬからな!」
(……それは無いんじゃないかな)
心の中でそう思いながらも、口には出さない。蛍兄が嫌うなんて、絶対にないとボクは知っているから。
むしろ――蛍兄なら一緒に怒って、一緒に泣いて、それでも最後には必ず受け入れる。そういう人だ。
「それより、ちゃんと謝った方が蛍兄も許してくれると思うよ」
そう言っても、ソファに突っ伏した翠兄は叫び続けていて、ボクの声なんて耳に届いていなかった。




