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ただの栞なわけがない

四つ葉の栞


 蛍兄は、ふいに読んでいた本から栞を取り出した。

 テーブルの上に置かれたそれを見て、ボクはすぐに思い出した。


「これ……確か翠兄が摘んできた四つ葉のクローバーの栞だよね?」


 蛍兄は、にっこりと優しい笑顔を見せた。

「そう。幼稚園の頃に、翡翠がね、何も言わずぶっきらぼうに渡してきたんだ」


 言葉を選ぶように、蛍兄は続ける。

「たぶん、泥だらけになって探してくれたんだと思う。それを考えたら胸がいっぱいになって……今でも忘れられない」


 その顔は本当に柔らかくて、懐かしさに滲む笑顔だった。

 でも――次の瞬間。


「それなのに、翡翠なんて言ったと思う、琥珀」


 声のトーンが明らかに変わった。

 背筋に冷たいものが走る。

(やば……これ、迂闊なこと言えないやつだ)


 ボクはお茶を濁すように、そっと笑ってみせた。

「さぁ……なんて言ったの、翠兄は?」


 蛍兄の瞳が鋭く光った。

「“その汚い栞、捨てねーの”……だよ。酷くない?」


 ボクは思わずうなずく。

「うん……確かに、それはひどいね。でも……もしかしたら翠兄、忘れてるんじゃない?」


 一応フォローを入れてみる。でも、それで機嫌が収まる兄じゃない。


「そんなのわかってるよ!」


 蛍兄の手がテーブルを勢いよく叩く音が、リビングに響く。

 そして――


「でも、それでも、覚えてないのがムカつくんだよ!」


 その叫びに、ボクはため息を飲み込んだ。

(……わかってても、求めちゃうんだよね、蛍兄は。翠兄に)


 小さな声でそう呟きたくなったけれど、ボクは黙って背筋を伸ばし、ただ兄の横顔を見ていた。

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