静かな食卓、心冷える晩御飯
オレは蛍を追いかけてリビングに入った。
なるべく明るい声をつくって言う。
「ホタル、オレ……ホタルの好きなおかず、作ったんだ。一緒に食べよう」
ご飯をよそい、琥珀と蛍に渡す。三人で並んで「いただきます」と手を合わせた。
だけど――こんなに静かな晩御飯なんて、記憶にない。
あの琥珀が、気を遣ってオレに話しかけてくるくらいだ。
「翠兄の唐揚げ、美味しい」
無理に笑い返すオレ。
そのあと琥珀が蛍に向かって言った。
「今日のおかず、蛍兄の好きなのばっかりだね」
「うん。……琥珀も食べる?」
蛍は穏やかな顔で、琥珀におかずを分けてやる。
「琥珀、そんなに慌てて食べないの」
そう言って、優しい笑顔を浮かべていた。
けれど――その笑顔は、なぜかボクに向けられてはいなかった。
思わず口を挟んだ。
「琥珀、がっつきすぎだろ」
軽く笑いながら言ったのに――返ってきたのは、蛍の冷たい視線だった。
「……琥珀の好きに食べさせてあげなよ」
言葉の温度が低い。
冷たくて、突き放すようで、優しさなんて欠片も感じなかった。
そんな蛍は、オレが知っている蛍じゃない。
胸の奥がきゅっと縮む。
――こんな蛍、初めてだ。