第13話【入学式】
「百華!!用意できたの!?」
「ちょっとまって、リボンがキツイ」
入学式の朝。
中学の時より1時間早く鳴った目覚まし時計に、選んだ学校が遠い=通学時間が長い=早起きしなきゃいけないっていう現実を、思い知らされた。
思い知らされながら、二度寝に落ちていくあたしを、喧しく叩き起こしたのはもちろんお母さん。
まぁ、それはしょうがない。許す。
二度寝したあたしが悪いからな。
でも、そっからずーーーっとうるさいのは、ちょっとカンベンしてくれよって思う。
急いでるっつーの!
ちゃんと時計見ながら動いてるっつーの!
あたしが、洗面所の鏡の前で制服のリボン付けてたら、またお母さんの叫び声。
前もって長さを調整しといたはずなんだけど、なぜか今付けようとしたらリボンがキツくなってて、上手く着けられなくて、苦戦してイライラしてるってのに
「もう、何やってるのあんたは。制服は一回着て、いろいろ確認しておきなさいって言ったでしょ」
て言われたら
「そんなこと言ったって、知らない間にキツくなってたんだもん!!」
余計にイライラするに決まってんじゃん。
おっかしいなぁ。リボンは届いた日に試着して、長さを合わせておいたのに、今日になってキツくなってたんだ。
たぶん、使ってないと縮むゴム使ってるんだ。
じゃないとあり得ない。
こりゃ毎朝リボンの調節が必要になるかな。
「知らない間になんてことないでしょ!!ちゃんと合わせておかなかったから…」
「ああ、もうできたから、できたからもういいよ、行こう」
どうも最近のお母さんは怒りっぽい。
こっちまでイライラする。
はぁ、今日から高校生だっていうのに、朝からなんでこんなに気分が悪いんだ、まったく。
あたしが行く女子高はちょっと遠くにあるから、中学の同級生はほとんどいない。
電車を乗り継いで1時間ちょっと。
まずは、都心へ通うサラリーマンの群れに揉まれながらの通学に、慣れないといけない。
ま、あたしの体型なら大丈夫だろw
満員電車を降りて、学校最寄りの駅から更に歩いて20分。
バスもあるけど、通学の時間帯は他の学校や大学もあって超混むから、歩くか自転車の子がほとんどらしい。
いいダイエットになるかもって思ったから、あたしは歩くことにした。
こうやって自然にダイエット思考になれるなんて、春休み前の自分からは考えられないな。
毎日お宮の公園に出掛けてたから、歩いたり走ったりが苦じゃなくなったのかな。
先生に会いたくて通ってたから、先生のお陰だな。先生に感謝しないと。
その駅から学校までの道を、今日はお母さんと歩く。
周りを見渡せば、全然知らない女の子だらけ。
なんかね、女子高に来たんだなーって思うね。
お父さんと一緒に来てる子もいるけど、お父さんがソワソワしてる感じがちょっと笑える。
ちなみに、同じ敷地の中に附属の大学がある。
ていうか、大学の敷地の中に附属の高校があるって感じかな。
その大学の『講堂』っていう、でっかいコンサートホールみたいなところで入学式をやるらしい。
体育館じゃないんだって。
なんか、私立に来たんだなーって思うね。
旗を持った先生っぽい人達が、こっちだよーって誘導してくれる。
うわぁ、なんか厳つい感じの男の先生もいるなぁ。
高校の先生って、やっぱ怖いのかなぁ。
講堂に着くと、親と子は別々の所に案内される。
生徒達は前の方に、親達は後ろの方に案内されて、あたしたちはクラスごとに出席番号順に座る。
クラスは事前に知らされているから、あとは自分の番号を探して座る。
あたしは、C組か。『デブ』のDじゃなくてよかったwww
そういえば、同じ中学の子が1人、この熊沢女子に来てるって、中3の担任が言ってたな。
ま、中学で一度もクラスが一緒になったことない子だし、小学校は別だったし、面識もほとんどないから喋んないと思うけど。
それでもざっと見渡して、つい探してしまうのはなんでだろう?
ま、さすがに顔ぐらいは覚えてる。だってその子は……
「小松さん、おはよう」
「うぇ!?」
いきなり名前呼ばれて、変な声出たやないかい!!
てかなんであたしの名前わかるの!?
って思って、話しかけてきた人の顔を見ると
「あ、さ、桜井さん!えと……あ、おはよう」
今、なんとなく探してた中学の同級生だった。
見間違えるはずがない。だって桜井さんは、中学の3年間、ずっと学校で一番の美少女って言われてた、あたしと真逆の存在だから。
もちろん、取り巻きは常にスクールカースト上位陣。
このあたしの巨体を待ってしても、存在感で確実に負ける。
恋愛云々とはまた違った、別世界の人。
だから、たとえ高校で同じクラスになっても、まず喋らないって思ってたのに…
さっそく喋りかけられたしw
「よかったぁ!まさかの小松さんと同じクラス!?ここってさぁ、うちの中学からほとんど受けてないじゃん?あんまり知ってる人いるのも嫌だけど、知り合い全然いないのも嫌だもんね」
てか、めっちゃ喋るやないかいwww
「そ、そう、だね」
こんな可愛いコに話しかけられるなんて、全然想定してねぇから相槌もマトモにできねぇよwww
「でもまさか、同じクラスで席が隣なんて思わなかったぁ」
え?隣の席?
あ、そっか。
『こ』まつ と 『さ』くらいだから、出席番号順で連番になってんのか!!
うわぁ、全然想定してなかった。
いや、そもそも同じクラスになることすら、全く想像してないし。
つーか、学校1の美少女だったあなたが、なぜ学校1のデブ女のあたしにそんなフレンドリーなの?
まぁそりゃ、同じクラスになれば挨拶ぐらいは交わすだろうとは思うけど、決して交わることのない人種同士な気がするんだが。
「あの、さ…」
桜井さんの止まらないマシンガントークに、なんとか頑張って入り込むと
「ん?」
意外と聞く姿勢になってくれた。
「あ、あのさ、中学のときってさ、あたし桜井さんと、あんまり話したことないよね?」
「そうだっけ?」
いや、そうだよ。
人気者は、誰と喋ったかすら覚えてねぇのか!?
それとも、あたしが記憶喪失かい!?
「ああまぁ、言われてみればそうかも」
どっかよくわからん斜め上を向いて、右手の人差し指を顎にあてる桜井さん。
天然か?って仕草も、あたしがやってもただキモイだけなのに、こんな美少女がやると様になる。
「でも小松さんて有名だから、私はよく知ってるよ!」
「有名!?え、あたしが!?」
むしろ有名なのは、学校1の美少女やってた、アナタのほうでしょうがよ。
「あっ……うん、まぁ…ね。よく友達同士で話題になってたかな。小松さん元気いいから……ははっ」
て、思ったら、なんだかしどろもどろの桜井さん。
「あっ」てなんだ「あっ」て。
なるほど、あたしが知らないだけか。
そりゃそうだよな。
170cm近い身長と90kg級のデラックスな巨体で、目立たないわけないわな。納得納得。
「ああ、あれでしょ。デラックス的なやつでしょ」
あたしが満面の笑顔で言うと
「いやぁ……はははっ」
誤魔化しきれてないっつーの。
「いいよ、気にしなくても。あたしは生まれた時からデカイし、気にしてないから。てか気にされる方が逆に気になるしw」
明るいデブ特有の豪快な笑いで吹き飛ばす。
これをやると、大抵の人は気にしないどころか遠慮がなくなり、ネタ物にしか扱わなくなる。
更に
「そうなんだ。小松さんて…」
「あ、マツコでいいよ」
「え?」
「あたし、ずっとマツコって呼ばれてるから、マツコの方が落ち着くし」
まず、自分で自分を壊せるとこまで壊す。
これをしておけば、だいたい何を言われても傷つかなくなる。
デブがいじめに合わないための、防衛策だ。
「あはっ…やっぱり小松さんて…マツコって面白い人だね」
桜井さんの緊張が解けたのがわかった。
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