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Health Control  作者: ZIRO
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13/23

第12話【不思議なコ】

4月になった。


「百華!!あんたいくら春休みだからって、もう高校生でしょ!!いつまで遊び歩いてるの!!」


「いいじゃん、どうせやることないんだし」


夕方、すっかり春休みの日課になった『お宮の公園通い』から帰って、一番にお母さんの説教。


カンベンしてほしい。


今日は絶対先生に会いたかったのに、会えなかったんだ。


こんな凹んでる日に、説教なんかマジでカンベンしてくれよ。


説教するなら、こっちの気分も察してくれよ。


「やることならあるでしょう、中学の復習とか。推薦で高校決まってから、あんたロクに勉強してないんじゃないの!?」


「ああ!!もう、うるさいなぁ!!課題はやってるよちゃんと!!」


お母さんが鬱陶し過ぎて、つい怒鳴り返して、二階への階段をドカドカと大きい足音立てながら、逃げるように登った。


「百華、待ちなさい!!」


うるさい、ムシムシ!!


「明日は空けとくのよ!!あんたの買い物しなきゃいけないんだから」


お母さんがまだ何か言ってたけど、とにかくイライラしてたから、遮るようにバタンッ!!とドアを閉めた。




ああ、もううるさいなぁ。


それよりもこっちは、今日先生につこうと思ってたとっておきのエイプリルフールの嘘が、先生に会えなくて言えなかったんだから!!


せっかくとっておきのネタだったのに。




「先生、あたし開青高校行くんです」


「ええ!?マジで!?開青高校って、()()開青高校かい!?」


「はい、そうです。()()開青高校です!!」


「凄いなぁももちゃん、開青高校って言ったら、偏差値都内No.1の超々難関高じゃないか!!」


「ヘヘッ、まぐれですけどねぇ」


「そっかぁ、じゃあももちゃんは、俺の後輩になるんだなぁ」


「え?じゃあ先生も!?」


「なーんてな、今日は4月1日だから、嘘ついてみた」


「なーんだwwていうか、あたしも嘘なんですけどねッ」


「やっぱり?」


「ちょっと先生ぇ、やっぱりって酷くないですか」


「あはははッ」


「えへへへッ」




ていう感じになるはずだったのにぃー!!


てゆーか先生、毎日走ってるって言ってたのに、あんまり会わないじゃんか。


初めて会った日を合わせてもたった4回。


卒業式から今日まで3週間もあったのに、週1ぐらいしか会えてない。


学校が始まっちゃうと、お宮の公園なんか行けなくなるから、春休みのうちにもっと会いたいのに…。


「……先生のバカ…」


ベッドにフッ潰して言ってみたところで、先生には届かない。


芝生の丘に立つ、白いジャージ姿の先生。


ストレッチを教えてくれて、医者でも治せなかったあたしの膝の痛みを、治してくれた先生。


公園の周りのゆるいカーブから、軽快な足音を鳴らしながら現れる先生。


90kg級のあたしの体を、ふわっと支える逞しい腕の先生。


あたしが知ってる先生は、これだけしかない。


それに


「名前…知りたいな…」


名前すら知らないんだよ。


もうなんかほんと、淋しいよ。






「ほら百華、どっちにするの」


「どっちでもいい」


「どっちでもいいじゃ決まらないでしょ!!」


体育館シューズなんて本当にどっちでもいいよ。ラインがちょっと違うだけじゃん。


もうすぐ高校の入学式も差し迫った、残り少ない春休みの、先生に会いに行ける貴重な晴れの1日なのに、なんでお母さんと買い物なんか……


昨日会えなかったから、今日もお宮の公園に行こうと思ってたら、お母さんに捕まった。


「昨日言ったでしょ、今日買い物行くって」


て、言われたけど、聞いた覚えないんですけど。


エイプリルフールは、今日でもギリ間に合うかもって思ったのに。


「ほら、早くしなさい!!」


あ゛ーー面倒くさい!!


だいたいなんで、学校指定の体育館シューズが二種類あるんだよ。


一種類なら迷うことないのに。


めんどくさいなあ


「どっちでもいいから、お母さん決めて」


「あんたの体育館シューズでしょ!!今日は他にも揃えなきゃいけないものがあるんだから、早くして!!」


もう、めんどくさいなあ


「じゃあ、右」


「右ってどっち?こっち?」


「うん」


「こっちでいいのね?」


お母さんは、あたしが適当に選んだ体育館シューズの箱を持って、早足で歩き出す。


「次は…」


まだあるんか…


ああああ、先生に会いたい!!


「まったく、あんた春休みちっとも家にいないから、今日で全部揃えなきゃいけないじゃない」


またそれか。今日何回聞いたか。


買い物行くならもっと早く言ってよね。


おととい以外ならいつでもよかったのに。


おとといは先生に会えた。


会えたって言っても、遠くから見ただけだったけど。


コンビニで車に乗り込んでいく先生に、声をかける間もなく、先生は車で走って行っちゃった。


会えたっていうか、見かけただけ。


だから余計に淋しいんだ。


せめて先生との「お、ももちゃん!」「あ、先生!」だけでもいいから、会話がしたいのに…。


「百華なにやってるの、早く来なさい」


「はぁい」


お母さんと買い物してたって、ちっとも楽しくないから、ついスマホを取り出して見てみる。


名前すら知らない先生から、メールや着信なんかあるわけない。


そんな当たり前のこと、解りきってるはずなのに……


『もしかしたら』なんて思ってるバカな自分もいたり…



「まってぇ」



離れたところで、彼氏に甘えるような女の子の声が聞こえた。


先生と恋愛したいとか、付き合いたいとかは思ってないけど


あんな風に甘えてみたいなって……


「……あれ?」


向こうの角から、どっかで見たことある男が姿を現したかと思ったら


「もう、たっくん置いてかないでよ」


よく知ってる女の子が、そのどっかで見たことある男に駆け寄って、男を捕まえるように服の裾を掴む。


咄嗟に、あたしは身を隠した。


その場を離れながら、商品棚の合間に一瞬見えたよく知ってる女の子…ユリちゃんの表情は、幸せそうな笑顔だった。


「たっくん」


確かにそう呼んでたよね。


別れたんじゃないの?


どうなってんだ?


何がなんだかわけわからんぞ?


離れていくユリちゃんの声は、すごく弾んでいて楽しそうだ。


学校じゃ大人しめで、目立たない存在なのに、学校の外じゃ大人にまざってすごく濃い体験をしてる。


不思議なコだ。


不思議はあたしも一緒か。


名前も知らない先生に会いたいために、学校以外ろくに外出しないあたしが、ほとんど毎日自転車で30分以上かけて、遠くの公園まで出掛けてるんだから。


ちゃんと彼氏として付き合ってるユリちゃんの方が、まだ全然まともじゃないか。



……いや、ないないない



あたしと先生が付き合うとか、そんなのは……



“ない”って言い切れるのに、なんでちょっと思い浮かんだだけで、こんなにドキドキすんだ!?


これじゃ、不思議を通り越してキモい変態じゃないか!!


うわぁああぁぁあああぁ!!


「ほらぁ、百華。何やってるの、早くしなさい」


「うああ、はいはい!」


頼むお母さん!!今は大きい声で名前呼ばないで!!


ユリちゃんにバレる!!


見てたこと知られたくないんだよお!!


ユリちゃんの声はフードコートの方に消えて行ったから、お昼は別の所に行こうってお母さんに言ったら、また文句言われた。


そんなお母さんとのやりとりのおかげで、先生との変な想像して、なんか変なあたしになってたのが、いつのまにか薄れて消えてた。


お母さんの空気読めなさっぷりにも、たまには感謝だねって思いながら、お昼はお母さんとマックを食べた。


「お母さん、箱根そばが食べたかったのに」


また文句言われた。

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