第11話【どっちも本気じゃなかった】
そっから、ユリちゃんの語る彼氏とのエピソードに、あたしはうんうんと相槌を打つしかできず、時間が過ぎて行った。
彼氏との話しは、あたしには大人な世界過ぎてよく理解出来なかったけど、解ったことは、それだけ嫌な思いをしたのに、ユリちゃんはまだ彼氏のことを好きなのと、胸が小さいのを気にするようになったこと。
「マツコはいいよね、胸おっきくて」
「余分なとこまでデカイけどなwww」
その、あれだ…
Hの度に彼氏に言われたんだと、小さい小さいって。
あたしにしてみりゃ、全体的に小柄ってだけで可愛く見えるユリちゃんが、正直うらやましいよ。
「そんなのさぁ、あたしにしてみりゃ、デブデブ言われながら付き合ってるようなもんじゃん。気にしちゃだめだよ!!」
言ってあたしは立派に育ったお腹を、取り組み前の力士みたいにパーンと叩いてみせた。
「そうだね」
ずっと泣き顔だったユリちゃんが、ちょっとだけ笑ってくれた。
明るいデブを目指して正解だった。
思わぬところで友達を笑顔にできたから。
にしても、同い年でこんな経験してる子がいるとは思わなかった。
それも、遊んでるようなタイプの子達じゃなくて、ユリちゃんみたいな、控えめで大人しいタイプの子が、まさかそんな大人な恋愛してるなんて、ビックリだ。
そう思うと、他の子たち…リナちゃんや楓香ちゃんは、彼氏とどんな恋愛してるんだろ。
確か2人とも、他のクラスの同級生と付き合ってたと思うけど、まさか中学生同士でも、ユリちゃんみたいな、すっげぇ濃い恋愛してるのかな?
まだまだ自分が恋愛することなんて想像もつかないけど、ちょっとだけ、そっち側の世界の人たちのことが気になった。
いろいろ話して、なんとか元気になったユリちゃんと、「またね」って言って別れた。
ユリちゃんは、まだ入試がこれからだけど、あたしとは高校は別々になる。だから、「またね」って言っても、次はいつ会えるかわからないけど。
ユリちゃんは、彼氏とはまた今度ちゃんと話し合うって言ってた。
また逃げられないように、オフ会の人たちに協力してもらうって。笑顔でガッツポーズして、頑張るって言ってくれたユリちゃんは、なんかいい顔してた。
ああいうの、吹っ切れたっていうのかな。
「マツコも、ストレッチの先生頑張れ!!」
なんて言われたけど、あたしにとって先生はそういうんじゃない。
ただ、一緒にいて気分が変わるっていうか、楽しくなるっていうか。恋愛とか好きとか、そういう相手じゃないし、そういうのはあたしにはよくわかんないし。
でも、まっすぐ帰るつもりでユリちゃんと別れたのに、いつの間にかお宮の公園に来てた。
せっかく出て来たし、お姉ちゃんと鉢合わせると、またしつこく絡まれそうだし、家に帰らずどっかブラつこうって思って自転車漕いでたら、気が付くとお宮の公園前のコンビニが見えてた。
もしかしたら、お姉ちゃんが先に来てるかもとか思ったけど、ここまで来ちゃうとどうしても先生に会いたくなる。
ここに来るまでは、ずっとユリちゃんのこと考えてたのに、ここに来ると先生のことを考えてる。
先生、今日は来るかな?
お宮の公園の外周の道を、自転車でゆっくり走りながら、先生の姿を探すけど、やっぱり見つからない。
走ってる人はいっぱいいるんだけど。
ま、土曜日だし、天気いいし、春だし。
せっかく来たし、あたしもちょっと走るかなぁ。
あ、でもそういえば、ユリちゃんに会いに行ってそのまま来たから、今日はジャージじゃないんだった。
どうしよっかなぁ、ジーパンでストレッチしてもいいかな?
とりあえず、自転車置き場に自転車を停めて、芝生広場に出た。
土曜日の公園は、カップルや家族連れがいて、みんな楽しそうだ。
これだけ人がいる中で、普段着でストレッチするのもなんかなぁ。
とりあえずせっかく来たし、芝生広場の周りを歩いてみようかな。
今日は天気もいいし、日差しが暖かい。
カップルがゴムボールでバレーのトスをしてる。
すごく楽しそうで、すごく幸せそうに見える。
幸せそうだったのになぁ、ユリちゃんもユリちゃんの彼氏も。
でも、ユリちゃんの彼氏は、ああやって幸せそうにユリちゃんのことを見つめてた時に、本当は違うの女の人のことを考えてたなんて、ちょっと信じられない。
「どっちも本気じゃなかったんじゃね?」
「うをぇっ!!?」
なんだ!?誰だ!?
あたしの思考を読んだのか!?
「だからさぁ、仕事が上手くいかなくて嫌なんだよ、そいつは。だから夢のためとか言ってんのはさ、中途半端に逃げ道作ってさぁ…」
二人組の20代ぐらいの男性が、あたしを追い越して歩いていった。
びっくりしたぁ。
たまたまタイミングよく、二人組の会話があたしの思考とリンクしやがった。
アンジャッシュか!!
でも、そうなのかも。どっちも本気じゃないんなら……ん?じゃあ何がしたいんだ?
本気でもないコと付き合って
本気でもない女を口説いて……
意味わからん。
わからなさすぎて、あたしは思考を放棄することにした。
お宮の公園は、けっこう広い。
公園の隣に大きな神社があるから『お宮の公園』て呼ばれてるってのは、最近知った。
公園の中には、芝生広場の他に大きな池と、学校の運動場を何倍も大きくしたようなグランド、それから、自然歩道のある森林があって…とまぁ、大きな公園なのだ。
芝生広場から池の周りまでをぐるっと回って、噴水まで戻って来た頃、あんなに晴れてた空がちょっと曇ってきた。
雨が降りそうな黒い雲も出てきたし、日が翳ってきたからちょっと寒くなってきたし、もうすぐお昼だし、そろそろ帰ろうかな。
自転車置き場に停めておいた自転車に股がって走りだし、公園の出口から家に帰る方に曲がりかけ…
「やっぱり今日は、先生来てないのかな…」
先生、この前は反対の方から走って来たっけ。
家に帰る方に行きかけていたのを、逆の方に向いたら…
「おっ、ももちゃん」
「先生!?」
えっ!!マジ!!?
「頑張ってる?」
先生は、白い歯をキラリとさせて、爽やかに走り去っていった。
「はいっ!!」
先生がかけてくれた「頑張ってる?」に答えて手を振る。
先生はちょっとの間こっちを向いて手を振って、緩やかなカーブの向こうへと消えていった。
………………………
………はぁぁぁあああ…!!!
…会えた…
会えた…!!
会えたぁああ!!!
「きゃぁああ!!なにコレなにコレ!!会えた会えた!!」
びっくりした!!
振り返った瞬間いたなんて!!
偶然すぎるでしょ!!これは!!
あ!!もしかして先生、あたしがいること知ってた!?
それで、出てくるあたしにタイミング合わせて……
て、ないか(笑)
あはぁああぁぁあ……
でも会えたよぉ
うふふふぅ
「そのキモイ笑顔やめろ」
家に帰って、お茶を飲んでたら、お姉ちゃんがやってきて嫌みを言われた。
「キモイは自覚してますよ」
自嘲気味に言ってみた。
「じゃあ、やめろ」
似たような顔のお姉ちゃんに言われたくないて、普段なら言い返すんだけど、今日は気分がいいから許してやる。
あたしからの反応がないのを面白く思わなかったのか、お姉ちゃんは鼻息1つつくと、階段を上がっていった。
先生……
あのあと、あたしも自転車で同じ方向に走って行ったから、もう一回先生に会えるかなって思ったけど、先生が速すぎるみたいで背中すら見ることができなかった。
でもいい
会いたいって思った日に会えるより、今日はもう会えないかなって思った時に会える方が、サプライズみたいで嬉しさ倍増したから。
──おっ、ももちゃん──
──頑張ってる?──
今日先生から掛けて貰えた言葉を、頭の中で何度も何度もヘビロテさせた。
ユリちゃんのことは、いつの間にか忘れちゃってた。
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