湖畔にて
連日ユリウス王子やレグルスお兄様達は森や野で狩猟を楽しんでいた。
私は狩猟は好きではないので家で過ごした。
勿論虫嫌いのお姉様も一緒だ。
私は虫は平気なのに動物の死体が苦手なのだ。
調理されれば勿論美味しくいただいてしまうのだけれど。
いつもはノアもお留守番組だったのに、今回はレオンと共に参加している。
昨日は二人ともお兄様に褒められていたから、楽しくやっているのだと思う。
ユリウス王子が傍にいないのは良いのだけれど、連日家にこもっているのはつまらないものだ。
だから、今日は湖畔でフィッシングをすると言うので、ついてきてしまった。
ミアプラお姉様は、湖畔まで馬車で来れるので一緒に来て、テント状の蚊帳の中でご機嫌に外を眺めていた。
ユリウス王子が釣れたようで、こちらに魚を掲げてみせる。
ミアプラお姉様が「すごいわ!」と歓声をあげて拍手をする。
ユリウス王子は嬉しそうに笑った。
「ほら、スピカも」
ミアプラお姉様に拍手を強要されて、私はぺちぺちと鈍い音を響かせる。
どうせユリウス王子は、ミアプラお姉様に誉められれば満足なんだわ。
私は自分が傷つかないように、冷めた視線でユリウス王子を見ていた。
こちらを見るのはミアプラお姉様がいるから。
今までの私なら、あなたの笑顔が私に向けられたと舞い上がっていただろうに。
ぼんやりとしていると、ユリウス王子が、こちらに歩み寄って来ていた。
私の方に来るのではない。
ミアプラお姉様のところに来るのよ。
無駄な期待はしない。
「大丈夫?」
声をかけられ、私は頷く。
「ミアプラお姉様は、蚊帳の中なら屋外も快適に過ごせますので大丈夫ですわ」
私が答えると、ユリウス王子は少し困ったように笑ってもう一度同じ質問をしてくる。
「大丈夫?スピカ、君に言ったんだよ」
私は首を傾げる。
「いや、困ったな。こんなに急に大人びるとは思わなかったよ。この前会った時は、君はもっとこう、無邪気で子供らしくて」
えぇ、ユリウス王子にはさぞお子様な婚約者に見えていたでしょうね。
私は自分が幸せの真っ只中にいると信じて疑わない子供だったのだもの。
無邪気にあなたに笑顔を向けて、その実あなたのことを何にも見ていなかったのですもの。
思わず泣けてきそうになって、堪えて無理やり笑顔を作る。
ユリウス王子は息を飲んで私を見つめた。
それからハッとしたように瞬きをして、「何か君を悲しませてしまったのなら、ごめん」と寂しそうに笑って、フィッシングに戻って行った。
その背中が涙で滲む。
「スピカ、本当にユリウス王子となにかあったの?」
ミアプラお姉様に顔を覗き込まれそうになって、私は湖畔の反射が眩しいふりをして目元を隠した。
「何にもないわ。私とユリウス王子の間には、何にもありようがないのよ」
自嘲気味に笑って言った私をミアプラお姉様はそれ以上問い詰めてはこなかった。
今回も読んでくれてありがとうございます!




