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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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Sideシャーロット

私、シャーロット・エマ・フォンダーは筆頭侯爵家であるフォンダー侯爵の四人の子供のうちたった一人の娘として生を受けた。

年の離れた三人の兄達や両親、祖父に蝶よ花よと可愛がられて何不自由無く育ったけれど、おばあ様譲りの大きくてつり上がった猫目が災いし同い年の子供たちに恐れられてきた。

幼児に大人気の『わるい子はだあれ?』という絵本のシリーズがあるのだけれど、それに出てくる恐ろしい化け猫のジャシーの目と同じだと涙目で私を見てくるのだ。

もちろん、私もその絵本のシリーズを全て持っている。

怖いけれどまた読みたくて、毎回それを乳母に読んでもらっているお気に入りの絵本たちだ。

化け猫ジャシーの見開きドアップの場面では、毎回悲鳴をあげるほど怖い。

そのジャシーに私が似ているとは・・・。

三人の兄達や母は皆二重でパッチリとした可愛らしい顔立ちなのに。

父でさえも、私のような大きなつり目ではなくシュッとした一重の凛々しい顔立ちなのだ。


それだから私のために同じ年代の子供たちを呼んでも、この見た目だけで相手はカチカチに緊張し、とても和やかな雰囲気にはならないのだ。

怖がらせないように緊張して臨めば臨むほど、私の猫目は威力を増し口元は不自然な笑みになり、気の弱い令嬢は泣き出してしまうのだ。


ただ悪役キャラに似ているだけで誰一人傷つけたわけでもないのに私は意地悪な役柄を押しつけられている。

理不尽だと怒りにかられれば、更に凶悪な笑みしか出せなくなってしまう。


祖父は私を亡くなった祖母の生き写しのようだと猫可愛がりしていた。

お父様に爵位を譲って領地の別邸へと引退するにあたり、私の選んだ人と結婚させてやれ、決して道具として政略結婚させることだけは許さないと言い残して引退された。


何度か私の婚約者を決めるためのお茶会や身分の釣り合う方とのお見合いを重ねたけれどビクリ!となる人の顔を見る度に憂鬱になるし、「ジャシー・・」と小声で言われるのも本当に嫌で億劫になってしまい、私は婚約者が決まらないまま学院の試験を受ける年頃になってしまった。


体験入学が近づいて来たある日、兄達が集まって私のことについて話をしているのを聞いてしまった。

一番年の近い小兄さまでさえ私よりも13歳離れている。

中兄さまとは15離れていて、大兄さまとは18も離れているのだ。

それぞれ家庭を持ち大兄さまは屋敷の別邸に、中兄さまと小兄さまは外に屋敷を構えている。大兄さまの子供とは5歳差なので甥っ子との方が歳が近いくらいだから私は妹というよりも娘に近い扱いなのかもしれない。

三人の兄は仲がよく、こうしてよく家に集まっているのだ。

「シャーロットだが、未だに婚約者が決まらないそうじゃないか」

「あんなに可愛らしいのに」

「売れ残り等不名誉な呼ばれ方をしたら可哀想だ。我々で決めてあげたらどうだろう」

「そうだな。しかしシャーロットに似合いの高位貴族は皆既に婚約者がいるではないか」

「あぁ。そう言えばセルジオ侯爵のところのウィルが、まだ決まっていないみたいだけど」

「ダメだ!ダメだ!シャーロットをあんな女タラシの小僧にくれてやれるか!」

「わかってるよ。僕も言っただけなんだから」

「二人とも落ち着け。一つ提案があるんだが。この間父上と酒を交わした時出た話なんだが・・・皇太子の側室に上げるのはどうだろう」

「は?皇太子は兄上と同じ歳だろう。18も年の離れた男にシャーロットを?」

「しかし、身分柄これ以上も無いほどの良縁だ」

「まぁ、確かに・・・」


私は血の気の引いた顔で自室に戻った。


いくらなんでも酷すぎる。


そんな話は耐えられそうもなかった。


兄達だけでなく、父もそんな風におもっているなんて。


あぁ、そうだ。おじいさまのところに逃げよう。そうしてこの酷い話をばらそう。

おじいさまに怒られれば良いのよ。


ここにはいられないわ。

逃げなくては!


人は死にそうになると走馬灯の様な物が頭の中を駆け巡りなんとか生き残る術を探そうとするらしいけれど、私も相当死にそうな状況なのか以前修道院へ寄付へ寄ったときに、そこへ乗り合い馬車が停まるのを見たことを瞬時に思い出した。


家の馬車で向かえば、すぐにお兄様達に気付かれて連れ戻されることは目に見えてる。


乗り合い馬車なんて、この間観た劇の様じゃないの。

敵同士の家柄の男女が手を取り合って乗り合い馬車で逃げるのよ。

あぁ、素敵だったな。

いけない!こんなことを考えてる場合じゃないのよ!

そうね、あそこからおじいさまのところへ行けば良いわ。


私はメイドを呼んで、「運動をしたいから簡素な服に着替えさせてちょうだい」とドレスから動きやすいワンピースへと着替えさせてもらう。

足元もヒールの低い物に変えてもらい、髪型も一つに纏めてもらった。

ちょうどダンスの先生から少し体力を着けた方が良いと言われていたこともあり、私の運動は家族から推奨されている。


北の庭園の芝生の所で体を動かすつもりだから、誰も近寄らせないで、と言い置けば私は自由になれた。


日焼けを気にして大きな帽子を被らされたのは不満だったけれど、外に出るのなら顔を隠すことができて良いかもしれない。


そのまま私は急ぎ足で北にある屋敷の裏門へと向かった。

ここは、使用人達が使う門で私はもちろん使用したことがないけれど。

裏門には守衛が一人しかいないのだ。

「ねぇ、そこのあなた」

中から声をかけると振り向いてビクッと私を見る。

流石に30越えの男の人にビクリとされるのは…

溜め息を飲み込んで彼に告げる。

「あそこの木に私のお気に入りのハンカチが引っ掛かってしまったの、取ってくださらない?」

「あっ、はい」

「そこよ!すぐそこの木よ。真っ白いハンカチだから今は見えないけれど登ればすぐにわかる筈よ」

有無を言わさず、手近な木に彼を登らせる。

「いやー、見当たりませんけれど」

「それなら、もっと上に登って探しなさいよ」

どんどん上に登る彼を確認して、裏門から急いで外へと出る。


そこから小走りに走り、休み、走りを繰り返して、ようやく振り返って家が見えなくなった。


すごいわ!私

こんなことが出来てしまうなんて!



自分の行動力に興奮しながらひたすら町を目指して歩いていた。

供も連れずに歩くことに解放感を感じたけれど、足が棒のように疲れてしまい町の手前の橋に手を掛けて座り込んでしまう。


どうしたらいいの?

修道院は、まだまだ先なのに。


これ以上、とても歩けそうに無いわ。


嫌だわ。あんなに年の離れた皇太子と結婚するのも。側室にされてしまうのも。


たくさんの本を読んだのは、私の夢見る恋愛がそこには書かれていたから。たくさんの劇も観た。私もきっと素敵な恋をするのだと、その度に胸を踊らせて。


「嫌よ。耐えられないわ」

あんな髭のはえたおじさま。いくら次の王になる方といえど妻子持ちの男に嫁ぐなんて真っ平よ。


そう思うのに足はこれ以上動かせそうもない。


どうすればいいの?


私の両目から涙がボタボタと落ちていく。


「お父様もお兄様達も禿げればいいのよ!」

悔しくて悲しくて呪詛の言葉を吐き散らす。


その時だった。


「どうかしたの?」

不意に上から落ちてくる低い声に顔を上げる。


日に透ける柔らかなオリーブ色の髪と深緑の瞳。


私は一瞬見惚れてから、慌てて視線を反らした。


だってそこにいたのは、私が近づいてはならないとされているブラックリストの筆頭に書かれているウィル・フォン・セルジオ侯爵令息だったから。


顔だけはよく知っていたけれど、決して近寄らずに避けていた人だから。


こんなに近くで見つめ合ったのは初めてだった。


「驚いたな。こんなところで供も連れずにフォンダー家の令嬢が涙にくれているなんて。いったいどうしたと言うんだい?」


どうしよう。

顔だけでなく、声も好みだわ。


いえ、そんなのではなく。

どうしよう。私だとバレてしまったわ。


あぁ、どうしよう。差し出されたウィル様の手を掴んでしまう。


長く節ばった指も、素敵。


ダメよ!ダメ。

そんなことを考えては。

お兄様達やお父様に叱られてしまう。


それなのに高鳴る胸の鼓動。


「わ、私・・・もうここにいたくないの」


ボロボロと両目から涙が溢れて、ウィル様の姿が滲む。


本当はいつもあなたが気になっていた。

あなたに話しかけたいと思っていた。

けれども近寄れなかったの。

ブラックリストに載っていたからだけじゃないわ。

あなたに近づいたら、きっと私は・・・。


「私は・・・修道院へ行きたいの。お願い、連れてって」


私の言葉に驚いたように目をみはる。

そこから乗り合い馬車に乗るのだと、おじいさまの所へ逃げるのだと告げる。


少しの時間困ったように空を見上げていた彼は、私を傍に停めてある馬車へと導いた。


私がしゃがみこんでいたから、馬車を停めて様子を見に来てくれたんだわ。


貴族の娘だなんて思いもしなかったはず。

大きな帽子に顔を隠され、いつもと違う簡素なワンピースを着ていたのだもの。


きっと力無く座り込む女性を見過ごせなかったのね。


お兄様達は彼を女たらしだと、決して近づくなと言ったけれども。


優しい人よ。

私と目があっても少しも怖がっていなかった。私と気がついて驚いた顔をしたけれど、すぐに優しく微笑まれた。


修道院から領地へ行く前にへ彼に拾われたのは幸せなことだったのかしら?


未練ができてしまう。

ウィル様と一緒にいてしまったら、私・・・。


馬車の中で前に座る彼を見つめた。


目をそらすのはもうやめた。


お父様もお兄様達も怒るだろうけれども。


それでも、もう目をそらすことはしたくなかった。


私、あなたに近づいてしまったら。

きっと好きになってしまうって知っていたの。


視線をそらしながら、いつもあなたを探していた。


そっと盗み見していたの。


笑顔の後の寂しそうな表情も。


いつも髪に手をやるその癖も。


愛しく感じてしまった。


本当はあなたに近寄りたかった。


あなたに近寄ってしまったら。


私はきっとあなたを好きになる、恋をする、そうわかっていたのよ。


ウィル様に心を囚われてしまうって。


私は道中涙ながらに話をした。


三人の兄の会話を。

このままでは、皇太子の側室にされてしまう、絶対に嫌だと。

だから領地に引退しているおじいさまの元に行くために修道院から出ている乗り合い馬車に乗りたいのだと。


全て語って彼を見れば、彼は頷いて微笑んでくれた。


あぁ、どうしよう。好きだわ。


そう想う心に歯止めがきかない。


「着いたようだね」

彼の言葉にハッとする。


彼にエスコートされ降りたその場所は。

修道院ではなく、見慣れた我が家だった。


どうして?涙の溜まった瞳でウィル様を見上げれば「僕に任せて」とウィンクをしてみせた。


どうしよう。不幸せなはずなのに。

天にも昇れそうな程、気持ちが浮き立つ。


ウィル様と共に現れた私に使用人達は驚き、お兄様達は走って表へと出てきた。

「何で貴様が!」

「シャーロットから離れろ!」

「どういうつもりだ?」

敵意丸出しのお兄様達にウィル様は柔らかく笑って。

「彼女を保護したので送ってきたまでですよ」

その言葉にお兄様達は慌てふためいた。

「ほ、保護?」

そう言われてばつが悪そうに、邸内へお茶に誘う。

「それは。申し訳なかった。シャーロットが迷惑をかけたようだ」

「お茶を用意するから上がっていってくれたまえ」

それはそれは嫌そうに。

けれども貴族として紳士として、どんなに嫌いなウィル様といえど妹の恩人としてもてなさなければならないと思ったのだろう。


「シャーロットは部屋に下がっていなさい」

と言われたけれど、そんな命令聞くつもりは無いわ。


今だけがウィル様といられる時間なのに。


応接間には、お母様も忙しい筈のお父様も顔を出した。


泣き腫らした私の顔とウィル様を交互に見て顔を真っ赤にさせて怒り出したお父様をお母様が制す。

「あなた、彼はシャーロットを保護してくださったそうよ。お礼をなさって」

「ほ、保護だと?!」

「橋の上で、ずいぶんと思い詰めた顔をされていたので」

ウィル様のその言葉にお父様はもちろんお兄様達もお母様も驚いた様に私を見た。


「な、何?シャーロットはそこから飛び降りて死ぬつもりだったのか?!」

まさか。

あんな小さな川では死ねるわけもないわ。

そうは思ったけれど、私は神妙な顔をして下を向いた。

「嘘でしょう?!何があったの?シャーロット!」

お母様が私の隣へやってきて、跪いて私の両手を握りしめる。

「彼女を保護すると、修道院へ行きたいと・・・」

「なぜだ?!まさか俗世を捨てて修道院で生きようと思ったのか?」

お父様は声を震わせている。

いいえ、おじいさまに告げ口に行こうと乗り合い馬車の元に行こうとしただけだけれど。

私は何も語らず、顔を下げたままにした。

ウィル様は何一つ嘘を言ってないわ。

少しオーバーに語っただけで。

少し言葉をはしょっただけで。

それは私も同じ。

「あぁ、シャーロット。何があったと言うの?お母様に話してちょうだい」

私はゆっくりと顔を上げお母様の顔を見る。

「お兄様達が、私を皇太子の側室にしようって・・・」

「ええっ?!何ですって?!」

「お父様も賛同なさったそうよ・・・」

「あなた!本気なの?」

お母様はお父様を睨み付ける。

「い、いや。本気なわけがあるか。酒の席での冗談に決まっているだろう」

額に汗をかき狼狽えるお父様は兄達を睨み付けた。

「おまえ達、正気か?可哀想にシャーロットは橋から身を投げようとしていたんだぞ!」

いいえ。投げたのはお父様とお兄様達が禿げるよう願う呪詛の言葉だけよ。

けれどもじっと口をつぐむ。

「シャーロット、ごめんよ」

「もちろん、おまえが嫌ならこんな話は二度としないよ」

「許してくれ。頼む」

私にひたすら許しを乞う三人の兄達を上目遣いで見つめる。

「あなたもシャーロットに謝って」

お母様に強く言われて、お父様も小さくなって私に謝る。

「すまなかった。おまえがこんなに思い詰めるとは考えもしなかったのだ」

お母様は私の肩を抱いて「おじいさまのお言葉通り、あなたは好きな人と一緒になればいいのよ」と言った。

「そうだ。おまえに無理強いはしないと誓おう」

お父様が真摯に告げてくる。

「それならば・・・私ウィル様と一緒になりたいわ」

思わずポツリと想いを告げれば。

「貴様!シャーロットを誑かしたな!」

お父様もお兄様達も立ち上がってウィル様を責め立てた。

「はは。誑かすも何も。僕が年上の方を好むことは皆さんよくご存知でしょう。シャーロット嬢はまだお子様ではないですか。僕が好むのは侯爵夫人、貴方のように素敵に歳を重ねた方ですよ」

その言葉にお母様は頬を薔薇色に染め、お父様は沸騰しそうな程怒りで顔を真っ赤に染めた。

「き、貴様と言うやつは!!」

「まぁ、そう言うことで。そろそろ僕は失礼します」

ウィル様は軽やかにこの場を後にする。

「またいらしてね」

お母様はご機嫌で見送り、お父様は嫌々とした顔で「今回シャーロットの命を助けてくれたことだけは感謝する」と告げた。

私は去っていく彼を涙目で見送る。

えぇ、そうね。

ウィル様と噂になる方は皆年上の方ばかり。

私は対象外なのだわ。

わかっているの。相手にされないことぐらい。

けれど、私は恋をした。

この恋を手放すつもりは無いわ。

もう、あなたから目をそらさないと決めたから。



その後私は体験入学でウィル様とペアになった。

「やぁ、元気だった?」

「えぇ、おかげさまで」

私がウィル様を結婚相手に望んだ言葉は無かったことにされている。

子供の戯れ言だと思っているんでしょう?

でも私も年を取るの。

そのうちあなたの好みの大人の女に成長するから。

急いで、駆け足で大人になるから。


あなたを好きでいてもいい?


きっと、きっとなるから。
























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