鈴を取りに行っただけなのに
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今日は教会に鈴を取りに行く日だ。
私はノアに青い小瓶を渡す。
嫌そうな顔をするノアに「これを飲んだら大きくなれるかもしれないわよ」と、適当なことを口にする。
いつもなら私のことを信じるのに、ノアはジトッと私を見た。
「本当よ。おばば様も古の滋養強壮のレシピだったって言ってたじゃない。聞いてたでしょ」
「それなら、スピカがこれを飲みなよ。目の下に隈が出来てる。夜露を取るために夜更かしを毎晩重ねてるんだろう?」
「あら。これはこういうメイクなのよ。知らないの?今流行りなのよ」
ノアはちっとも騙されてくれなくて、自分で自分が滑稽に思えてしまう。
「あー、もう!せっかく作ったのだから飲みなさい」
ノアの口元に小瓶を押し付けて、無理矢理飲ます。
「・・・どう?」
ほんの少しの期待を込めてノアを見るけれども、ノアは顔を顰めていた。
「ニガい」
味の感想を求めていたわけじゃないのだけれど。
「僕はもう飲みたくないよ、本当に」
そう言ったノアの手からレオンが瓶をとりあげる。
そうして瓶を逆さまにして残っていた液体がポトンと一滴レオンの舌に落ちる。
「甘っ」
そう言って、ノアのことを信じられないという顔で見つめる。
苦いのか、甘いのかどっちなのか。
今夜作ったら私も味見してみよう。
教会まで馬車で送ってもらう。
「ミアプラ姉さまいないの初めてだな」
「そうね」
私は返事をしながら、帰る時の道筋を頭で復唱する。
馬車に乗り込む時、他の道を通ればいいのよね。
あの部屋の前を通らないで帰ればそれでいいのよね。
あんなに回避を考えていたのに。
何でこんなことに。
私達は寄付の品々と鈴を交換し、馬車へ戻ろうとしていた。
今回は、あの会話を聞きたくなかったから前回とは違うルートで。
それなのにレオンが「ちょっと待った。こっちから帰ろうぜ」と前回通った道へ止める間も無く進んでしまった。
部屋からはやっぱり大きな声で話す声がした。
「今回はあの綺麗なお姉さんじゃない方か」
「残念。あの女神様のような綺麗なお姉さん見れると思ってたのに」
他愛ない子供たちの声だった。
教会に預けられている孤児たちの。
「あーぁ。ハズレだったなぁ」
ごめんなさいね、ミアプラお姉様じゃなくて。
私は今回も聞いてしまったわ、と悲しくなる。
ノアも悲しませてしまったわね。
そうしんみりしてしまった時。
「ふざけんなよ!お前ら」
レオンが吠えるように叫んだ。
「今、何て言ったんだ?」
低い声を出すレオンに、静まり返る。
私は怒り狂うレオンの腕にしがみつき止めようとした。
「やめて!レオン怒らないで!」
それでもレオンは止まらなくて。
前回はこんなトラブル無かったわ。
そもそも考えてみたら前回はレオンはここにいなかったじゃないの。
何でこうなるのよ。
レオンは「言った奴出てこいよ!」と殴り合いでもしそうな形相で言った。
「レオン、お願いやめて。私は気にしてないから」
あまりのレオンの剣幕に私まで怖くなって泣きそうになってしまう。
「レオン・・・」
涙目でレオンを見上げれば、グッと奥歯を噛み締めてようやく堪えてくれた。
「二度と言うな。次は見逃さないからな」
レオンは捨て台詞のように一言告げてから、私の手を掴んで外に出て行った。
「あのね、落ち着いてほしいの」
レオンは無言で馬車に私を押し込む。
ノアが一人で鈴の入った箱を抱えて後から乗り込んで来る。
私とノアはレオンに向かい合って座る。
「あんなの、気にしてないわ。だってミアプラお姉様と比べたら仕方ないじゃない。私こういうの慣れてるわ」
「慣れるな!」
レオンに一喝され、私は肩をあげて驚き目を瞠る。
怯えた私を見て、レオンは舌打ちをして窓の方を向いて黙り込んだ。
ノアは横からそっと、震える私の手を握ってくれた。
私はノアの肩に寄りかかるように体を寄せる。
酷いわ。悲しい言葉を言われたのは私なのに。
私やノアは大なり小なり比べられながら生きてきた。
私は綺麗で優しいミアプラお姉様と。
ノアは大きくて健勝なレオンと。
私達はいつも『じゃない方』で。
直接の言葉だけではなく、態度や視線にも含められいつも比べられてきた。
ミアプラお姉様やレオンにはわからないと思うの。
悲しいことを言われても、なんとも思っていないと強がるしか無い私達の気持ちなんて。
それを、こんな風に責められるなんて。
けれども本当はわかっている。
レオンが私のためにあんなに怒ってくれたことを。
嫌ね。前回のときよりも最悪な状況だわ。
私は揺れる馬車の中、ノアに寄りかかりながら目を閉じる。
ノアの横はとても安心できて、私のささくれた心をゆっくり落ち着かせてくれる。
連日の夜ふかしのせいか、こんな状態なのに眠気が襲ってくる。
私の未来は明るい方へちゃんと向かっていけるのかしら。
私はうつらうつら、ぼんやりと思うのだった。




