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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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19/69

冬支度

相変わらず、自分の死因を思い出せない日々が続いていた。


ユリウス王子とのことは次にお会いした時に私のことは父の勘違いだったのでしょう、と話を振ってみようと思っている。


そのことを想像すると切なくて泣き出しそうになってしまうのだけれど。

何度も想像している内に、慣れて何とも思わなくなってしまうことを願っている。


だって私が泣きながら述べたなら、あの優しいユリウス王子を困らせてしまうから。


ミアプラお姉様だって、悲しくなってしまうでしょう?


私は笑ってやり遂げなければ。


「スピカ、何をそんなに難しい顔しているんだい?」

「お父様!」

私は月見草の夜露を採取していた小瓶を落としそうになる。

「驚いたわ!」

「ごめんよ。こんな夜更けに庭にいるものだからね、気になって」

私の手の中で揺れる小瓶を見て、お父様が小さくため息を吐く。

「またノアの魔力回復薬(マジックポーション)を作ってるのかい?」

お父様が悲しそうに私を見るので、私は小瓶を背後に隠す。

「無駄なのはわかっているの。賢者のおばば様特製の魔力回復薬も効かなかったのだもの」

それでも、私は何かしなくてはいられなかった。

おばば様に頼み込んでレシピをもらったからといって、素人の私が作っても効果など見込めないこともわかっている。

「でもね、お父様。私がノアにしてあげたいの」

私のために魔力を失ってしまったノアのために。

私の自己満足だとわかっている。

それでもやらずにはいられないのだ。


「明後日から鈴掛けね」

話を変えてみても、結局そこにはノアの影が現れる。

「今年からはお父様と二人ね。さみしいわ」

鈴掛けは、冬支度の一つ。

カミーユ辺境伯領の森は賢者の森に繫がっているせいなのか冬でもあまり雪が積もらない。

そのせいか、周辺の動物や魔物が温暖な森を求めて移動してくるのだけれど。

森から出て田畑を荒らしたり人に危害を加えたり家畜を襲わないように、鈴を木に掛けてそれを防ぐのだ。

どの木に掛けても良いわけではなく、ほんのりと発光する木に掛けると効果が出る。

それは森に選ばれた者しか見ることができないから、毎年お父様とノアの3人で付けてまわっていたのだけれど、今年からはお父様と二人きりだ。

「そうだな。けれども、スピカとノアが手伝ってくれるまで一人だったからな。アルタイルがいてくれたら・・・いや、よそう」

お父様が時々名前を出すアルタイルお兄様。

お父様の期待を一身に背負っていたのに亡くなってしまった。

お父様は名前を出すだけで愛おしく切ないという顔をする。

だから私はアルタイルお兄様のお話を聞くことができない。

お父様、私が死に戻ったと知ったらどう思うかしら。

アルタイルお兄様が死に戻ってくれたなら良かったのに、と願ったりしないかしら。

マイナスなことを考えてしまい、首を振る。


「明日は教会に鈴を取りに行ってくるわね」

「あぁ、頼んだよ」

鈴掛けの鈴は、冬以外は教会で保管されている。

そこで皆の平和への願いが降り積もり鈴に効力が与えられるのだ。

「ノアとレオンについて行ってもらうように話してあるよ」

「ありがとう、お父様」

私はお父様に屋敷に戻るように背中を押されながらふっと思い出す。

いつもはミアプラお姉様も一緒に鈴を取りに行っていたのに、私とノアで行った時悲しい言葉を聞いてしまったことを。

それはミアプラお姉様がいなくて残念がる声だった。

私よりもノアがショックを受けた顔をしていたから、明日はあの話を聞かせないようにしなければ。

帰り道を変えるといいかしらね。

暖かな屋敷に入ると、途端に眠気が襲ってくる。

お父様にお休みなさいの挨拶をして、私は部屋に戻ったのだった。




読んでくれてありがとうございます


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