鼻血
「さぁまずは右目からだ。」
キリキリと顔のすぐ前から音がする。ザクリ、とこめかみに何かが刺さった。
「いっっつ!!!」
思わず目を開けてしまった。右の瞳のすぐそばまで、何かの機械が伸びてきていた。しかしそれは、次の瞬間に取り払われた。もっと正確に言うならば、薙ぎ払われた。
「なんだそれは!!貴様!その!その目は!」
ラウムウルムが僕の胸ぐらを掴み上げて揺らしている。目?目がどうかしたのだろうか。
「おい!緑の瞳をどこへやった!あれはもう余の物だぞ!誰が持っていったのだ!」
声を絞り出し、掠れ掠れで「知らない……。」と答える。まだ体に力が入らない。
「余の!余の目!ああ、ああ、余の目が、ああ。」
胸ぐらから手を離され、僕もラウムウルムも力なく倒れ込む。不安定な蟲の背中は、僕の事を半分ずり落ちさせた。
「ああ。余の物ではないのだな。ああ。ああ。余はそうだ。いつもそうだ。本当に欲しい物は、いつも、余の物にはならない。」
ぐん、と体に慣性が働いた。僕の体は残りのさらに半分だけずり落ちた。ぐん、ぐん、ぐん、と何度も飛蟲が何かに引っ張られているのがわかる。きっとラストレンさんだ。僕の用意しておいたロープに気がついてくれたのだろう。しかしそれは良くない。たしかにロープは丈夫かもしれないけれど、ロープを結びつけている矢は普通の矢なのだ。そんな事をすれば。そんな事をすれば。
「あ。」
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やってしまった。受け止め無くては。目眩ましに焦って矢が折れる事を想定していなかった。間に合わない。腕に集めていた血を一気に足まで行き渡らせる。が、遅い。私が一歩目を踏み出そうとする頃には、リカルドは落ち始めていて。泥の中に右足を取られ始める前に、左足に体重を移動させる。上半身を前に倒し、手の平で泥の水面をなぞるように前へ掻く。地面をほぼ水平に蹴って、少年の下へ両手を滑り込ませた。しかしまたもや失敗してしまった。なんとか間に合ったものの、私は速度を急に落とすには早すぎた。結果、顔面で少年の脇腹を思い切り体当たりすることになってしまった。ぐるぐると転がりながら勢いを殺す。今になって気が付いたが、この柔らかい泥の上なら、落ちても少年は無傷だったのではないか?
「あ、鼻血。」
私が怪我をするのは何年ぶりだろうか。




