片目
僕らとゼルドニア兵達は突如発生した沼に動きを取られてしまった。蟲車の車輪とそれを引く蟲の足も沈み込んでしまった。先程ラストレンさんに蹴落とされて地上にいた人達は、体が半分埋まってしまっている。すぐさまラウムウルムが攻勢に出ることを警戒したが、その様子はなく、飛蟲をネシテルと近づけて何かを話しているようだ。
「森まで走るか?」
「ラストレンさんはそれでもいいかもしれないですけど、僕らは普通に沼に嵌って走れませんよ。」
「それもそうだな。」
硬い地面なら十数える内に辿り着けそうな距離にある森が、大変にもどかしい。あそこまで行けば、少なくとも空中への無防備さが少しは軽減されるはずなのだ。
事態が動いたのは、ラウムウルムとネシテルの話が終わったからだ。ラウムウルムの蟲ともう一匹の他と少し見た目が違う蟲以外は、皆ネシテルについて回り、ゼルドニア兵を相手取る様だ。飛蟲は皆、不潔感のあるフサフサした胴体に、黒くツヤの無い外骨格、そして不揃いな二対の羽をぶんぶんと鳴らしている。一匹の少し見た目が違う蟲は、頭が赤く、体が縦に長い。羽も、一対は骨格でもう一対をぶんぶんと鳴らしている。僕はどの蟲も知っている。何度も戦った事がある。あれの厄介さも、対策も知っている。だから僕はその蟲を見た瞬間、無意識に片目をつむった。隊長が「ホタルだ。」と呟いた。
開いている方の目がカッ!と熱くなり、景色が白む。蟲の尻が閃光を放ったのだ。すぐさま両目を開き、回りを確認する。ラストレンさんもスルテもメールも隊長も、ゼルドニア兵ですら皆一様に目を手で覆っている。やられたのだ。体制を立て直す隙きを与えない内にラウムウルムが急降下してきた。
飛蟲は僕の胴体をがっちり掴んで持ち上げようとしてきた。僕はさっき準備しておいたロープ付きの矢を骨格の隙間に突き刺した。蟲は一度は怯んで力を緩めた。しかし再度力を込められるまでの間に、僕が足を振りほどくほどの隙きは無かった。僕は蟲に抱えられたまま、あっという間に遥か上空まで持ち上げられてしまった。
「久しぶりで在るなリカルド。余は貴様の命を助けた恩をまだ返してもらっていない。よって目を頂戴する。」
何か小さな刃物で腕を少し切られた。急速に力が抜けて入らなくなる。毒だ。蟲の足側から抱きかかえられて持ち上げられた。僕はせめてもの抵抗として、強く両目を瞑った。
「本当は貴様の目の事は諦めて、貴様の家族の物をもらいに行っていたのだよ。あいにく所在がつかめずにノコノコ帰ってきたのだがね。その結果がこれだ。やはり余はついている。」
ガチャガチャとよくわからない装置を顔に取り付けられている感覚があった。抵抗しようにも腕が少しももちあがらない。
「ああ、速くその美しい翡翠の瞳を余の物にさせておくれ。」




