闘技場
観客席から、ラストレンさん達が手を振ってくれている。交差させたり、振り上げたりして応援してくれている。僕も答えて手を振り返した。よく見ればすぐ横にスルテの他にも隊長とメールもいる。この一ヶ月良くしてもらったからには、最高に魅せる戦いを披露しなければ。
カラカラと鎖の巻き上げられる音がしながら、正面の檻が開けられる。中には、そこまで大きくはないが派手な緑色をして丸々と太った蟲がいる。あくまでこれから行われるのは、僕が勲章を受け取るにふさわしい人物で有ることを監修に知らしめるための場なのだ。見た目が派手で分かりやすく、そこまで強くない蟲が選ばれている。
この円形闘技場は最近まで人間同士の戦闘専用だったが、今回のために蟲が飛んで出ていけないようにするための網が貼られたらしい。人は割と簡単に通り抜けられそうなほど透き目な網だ。然るに蟲の力強さに耐えるほどの繊維をそう大量には用意できないと見える。
僕の姿を目に捉えた蟲が、檻の影を超えて日を浴びる。歓声が一段と激しくなる。蟲は触覚をくるくると頭上で回している。
闘技場の備品にブーメランが無かったので、僕は素手だ。もちろん事前に勝てる三段をつけている。そしてその作戦通り、僕は蟲に向かって走り出した。
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「少年の目、紫色になってないか?」
「え?」
確か元はきれいな緑色だったはずだ。それが今はどうだ。暗い紫色になっている。スルテは目を凝らして顔をしかめている。この距離では見えないらしい。
「あーそれな、多分俺のせいだな。」
オスク殿がすぐ横に腰を下ろしたついでに答えてくれる。私の高身長は遠くからでも見つけられやすいようで、少し前からこちらに向かって来ていた。メール殿も一緒だ。
「詳しく聞いても?」
オスク殿は少し考えた後、顔を寄せろと手招きしている。仕方がないので私もオスク殿の横へ腰掛けて耳を寄せた。
「これはあんまり大きい声で言うなよ。企業秘密だからな。」
私は黙ってうなずいた。
「少年を治療した時、圧倒的に血が足りなかった。隊員の血を輸血仕様にも、誰のも型が合わない。そこで、ゲーの血を使った。少年と血の色は違ったが、不思議とすんなりと混ざっちまったから驚いたよ。瞳と血の色は関係してるって話だからな。そういう事だろう。」
なるほど、信じ難い話だ。メール殿が「僕が思いついたんですよ!」と自慢げに言ってくる。オスク殿に肩を殴られて、「お前のバカで俺が閃いたんだよバカ」と罵られている。
しかしそれならばおかしい。少年は一ヶ月は療養していたのだ。その間瞳が紫色だったことは無かった。そもそも蟲の血を入れられてた人間の話など聞いたことがない。効果が遅効性でも不思議ではない。
ん?
「マズイかもしれん。スルテ、以前に条件さえ整えば器は誰でも作れるという話をしたのを覚えているか。」
「覚えていますよ。蟲の血から作られるとか。でもどうしてそれを?」
「器ができる条件は『限られた空間の中で、蟲どうしか殺し合いをする』事なんだ。まぁ蠱毒と言うんだが、最後に残った蟲の血から結晶が採れる。蟲の恪や数が貧相だとうまく結晶にならず、使い物にはならない。」
「それが、、どうかしたのですか?」
オスク殿は気がついたようだ。さっと少年の方を見て、青ざめている。
「闘技場内は今、恐らく条件を満たそうとしている。」




