スルテの夢
「いっ。っうっ。」
スルテが傷口に薬を塗り込んでくれている。傷がふさがっている事にとても驚いたが、あの隊長が縫合してくれたと聞いた時はもっと驚いた。聞くところによると、「意思はどうあれ達成したこと高えを見れば助けないわけにはいかない。」らしい。たしかにゼルドニアの立場から見てみれば、戦略兵器を制御不能から回復し、最大の敵国の首都を破壊し、王子に一発食らわせたのだ。もしかしたらここに商業都市の壊滅も加わるかもしれない。
これも隊長に聞いた事だけれど、結局僕はラルクルウッド・ゲーを殺すには至らず気絶させるに留まり、錯乱状態から回復させる手助けをしていたことになるらしい。僕の夢は叔父さんを超えることなのだ。よく考えればゲーより大きな蟲を殺す必要が有るだけで、ゲーを殺す必要はないはずだ。
「リカルド君の夢ってなに?」
「えっ!」
ちょうどその事を考えていた所だったので、頭の中を覗かれたのかと思って素っ頓狂な声を出してしまった。
「ラストレンさんに言われたのよ。恐らく夢に係わる魔法になってるからって。」
僕は驚かされた逆恨みに、少し聞いてみることにした。
「スルテさんの夢はなんですか。」
「それは、、馬鹿にしないでね?」
うなずく代わりに目を見る。まだ首を動かすのも辛いのだ。
「いつか、、いつか、まだ誰も思いついてない魔法を見つけたいの。魔法って幸運の物しか無いでしょう?それっておかしくない?どうして幸運の魔法しか無いのに「幸運の」という前書きがいるの?幸運以外が昔はあったってことなのかしら。「幸運」の仕組みを理解すれば、きっと他の魔法も見つけられるはずよ。」
スルテの手付きが少し乱暴になっている。痛い。
「聞いたからには教えてよね。」
隠すことでもない。
「山より大きな蟲を殺す事。あ、いや叔父さんよりすごい蟲狩りになりたいのです。」
「山!?そんな大きな蟲いるわけ無いじゃない。叔父さんもきっと大見得をきったのよ。」
「叔父さんは別に……。」
ガチャと扉が空いて、ラストレンさんが入ってきた。何かの紙束を難しい顔でめくっている。
「いるぞ。山より大きい蟲。」
僕たちの会話は外まで聞こえていたみたいだ。スルテはそんなわけないと言った感じでラストレンさんに詰め寄る。
「そんな、山ですよ!山!いるわけないじゃないですか。」
紙束を見終わったのかラストレンさんは寝台の上にぽそりと置いた。
「スルテはジャスィスト教会が何を信仰しているか知らないのか。」
スルテは少し起こった顔になって、
「修道者の常識ですよ!そして私は学術院の教師!もちろん知っていますよ。」
僕は全くわからない。というか教会が何かしらを信仰している事も初めて聞いた。てっきり「一番上の人が偉い!」ぐらいものだと思っていた。
「蝉ですよ。蝉。『タレヨリハカラザルセミ』の一節くらいならリカルド君も聞いたことあるでしょ?」
小さい頃に叔父さんに教えてもらった気がする。随分前の事なのでほとんど思い出せない。
「その蝉は蟲だ。福音の蝉についての恐ろしげな記述はほとんど消されてしまったからわからないのも当然だが、あれは間違いなく神だ。信仰は初め、恐怖だったんだ。」
とんでもないこの世の秘密を聞いた気がする。もしかして知ってたらマズイ事じゃ…
「そんな!聞いたことないですよ。そもそもどうしてそんな事知ってるんです?」
ラストレンさんはニヤリと笑って僕たちを見た。
「私が知ってるやつを消す仕事をしてたからな。」




