石
次の日の朝起きると、おじさんはもう身支度を済ませていた。眉間に皺ができていてなんだか不機嫌そうだ。
「お前も支度をするんだ。」
急いで服を着替えた。
おじさんについてくるように言われて、街の一番真ん中の深いところに向かう。
すり鉢状の村の底は小さめの広場のようになっていて、降りると戻れないように一段低くなっている。
壁に空いた穴からだれかが出てきた。紐で両手を繋がれている。僕らはそれを一段高い壁の上から見ている。ほかの村人たちもいる。
女の人のようだが顔はよく見えない。うなだれていて下をむいているのだ。しかしそれでも至るところに切り傷や殴られたような跡があるのが分かる。
「罪状を読み上げる!」
いつの間にか僕らのすぐ後ろに、高そうな装飾をつけた若い男が立っていた。
「一つ!彼奴は我々ジャスィスト協会を裏切った悪魔、宰相シャルドニクスの信奉者である!」
「二つ!彼奴から呪いと魔術を使った痕跡が見つかった!」
「そして三つ!蟲の餌に毒を混ぜた!」
「よって彼奴を石投げの刑に処す!」
男は高らかにそう告げると女に向かって石を投げ始めた。いくつかの石が僕らの上を通り抜けていく。
女は手で頭を庇い、少しだけ頭を上げてこちらを睨んだ。
目があった。そして気づいてしまった。まわりにいる村人の中におばさんがいない理由に。
そこにいたのはおばさんだった。村人全員をものすごい形相で睨んでいる。そしてもちろんおじさんのことも。
おじさんの方を見るとものすごく冷たい目でおばさんを見下ろしている。村人達の石投げは勢いを増した。
どんよりとした曇った目になって、おじさんも石を投げ始めた。つばを吐きかける村人もいる。
おばさんが時々くぐもった声を上げる。
僕は恐ろしくなって村の外に向かって走り始めた。
おじさんが怖くなった。あんなにも優しくておばさんと仲が良かったのに。
おばさんが怖くなった。沢山僕を気づかってくれていたのに。
気がつくとおじさんの家の前に来ていた。すぐさま中に入ってブーメランとナタを樽に入れて背負う。
背負ったらまたすぐに家を出て、家の壁面を登る。
すり鉢状の村から出てすぐに遠くの方に街が有るのが見えた。こんな場所から一秒でも早く立ち去りたい思いで街に向かって歩き始めた。
二人ともおかしくなってしまった。きっと他の村人もおかしくなっているのだ。
おじさんのゴミを見るようなあの目も、おばさんの射殺すような視線も、とても恐ろしい。
だがそれよりももっと恐ろしい物を、見てしまった。おばさんが出てきたあの穴の向こうにあれがいた。僕らのテントを襲った跳蟲だ。僕が蟲の種類を見間違える訳はない。
おばさんは「この村には蟲を大きく育てる技術がある」といった。
この場所に着くまでに何度もあの蟲の死骸をみたし、いきているのにも出会った。
つまり、あの蟲はこの場所で生まれたのだ。ここから来たのだ。この村が族長や隣のおばあさんや孫を殺したのだ。