牢屋
「あいつ運がいいよナぁー?まだ生きてるゼぇー?」
「運が悪いだろ。縄が千切れたんだからよ。」
身体のほぼ全てがズキズキと痛み、背中には硬い床の感触がある。間延びした声とガラの悪い声も聞こえる。
僕の寝覚めはやはりいい方だ。自分が起きたと思った時には意識の覚醒は終わっている。
自分の身に何が起こったかもすぐに思い出す。
「生きてる…。」
身体には包帯や布が当てられていて、誰かが手当してくれていた。
辺りはかなり薄暗く、目がなれてくるまで時間がかかる。
どうやら僕の目の前には硬い柵があり、残りの三方と床と天井は石になっている。
石の壁の一つに大きな釘が打ち込まれていて、そこから伸びた鎖が僕の左足に繋がれている。
「え?」
手当してくれたのはありがたいが、牢屋に入れられて繋がれる意味がわからない。
『協会のやつら』は盗賊を捕まえにやってきて、ついでに僕を助けてくれたわけでは無いのだろうか。
しばらくすると目がなれてきて、向かいの牢屋にハクフンが、斜向いの牢屋にウチジクがいるのが分かる。
遠くで扉の開く音がして、少し辺りが明るくなる。コツコツと硬い足音がして誰かがこちらに来たようだ。
「おい。貴様らこれをどこで手に入れた?」
質素な形に身を包んだ、背の高い女性が現れた。ウチジクの牢屋の前に立って蝋燭を片手に、反対の手にもっているものをイチジクに見せているようだ。
ここからではよく見えない。ウチジクが変な顔をしているのはよく見える。
「答えられんか。おい。お前はどうだ。」
今度はハクフンにも聞いている。やはり何を持っているかはよく見えない。
「なんでお前らに教えてやる必要があるんだ。利をよこせ。」
「ではこれを街で売った事は認めるのだな。」
ハクフンが小さく舌打ちをした。女性の事を睨みつけている。
「一応貴様にも聞いておいてやろう。これをあいつらが何処で手に入れたか知っているか?」
手に持っていたのは一冊の本だった。そしてそれにはとても見覚えがあった。族長の本だ。
肌身離さずとまではいかないが、大切にしていたのを覚えている。本の内容は何なのか、いつだったか族長に聞いたことがあった。
族長は「俺の好きな物が詰まっている本だ」と言っていた。中身は見せてくれなかった。
僕の反応で女性は何かを知っていると気づいたのか、もう一度聞いてくる。
「知っていることを話せ。」
この女性に言っていいものか迷った挙げ句、僕はついさっきの出来事を真似ることにした。
「なら僕を閉じ込める理由も教えて下さい。利をよこせってことです。」
「それは無理だ。」
「どうしてです?」
「重要機密だ。」
「重要機密な理由で僕を閉じ込めるわけですね」
「しまった」という顔を女性はした。ウチジクが口笛を吹く。
女性はなにかを言いたそうな顔をしながら、牢屋から出ていった。
「やるじゃねえか。お前。」
ハクフンの機嫌がいい。声に張りがある。
「あのテントの残骸から来たんだな、お前。」
ハクフンは話を続ける。
「拾いもんのどれもこれもが高く売れなくて、しょっぺえなとは思ってたんだがよ。」
「まさか協会に目をつけられるとは思って無かったぜ。」
運が悪いなとハクフンは続ける。僕は気になって仕方なかったことを聞いた。
「族長は…族長はどうなりましたか?」
「利をよこせって言いたいところだがよ。さっきはスカッとしたんだ。特別に教えてやるよ。
族長かどうかは知らないが、死体は三つだけだったぜ。多分だが、男が一つと女が二つだ。多分だぜ。」
「そうですか…。」
僕は目をつむって、もう一度眠ることにした。




