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箱入リ娘  作者: 橘立花
7/10

第7話:曇りの雨時

1


私は毎日のように父親から虐待を受けていた。だが唯一の私の救いは母だった。

母はそんな私を見かねて父親を説得させたり、私を庇ったりと本当に光であった。

だが逆にいえば父親はそれをも包み込む闇であったという話だ。

いつしか私は父親からの虐待に何も感じなくなっていった。

しかし、父親が母に暴力をふるった時は、私の中ではそのことへの憎しみが渦巻いていた。

いつかこの父親を殺してやろう。私はそう思った。

私の見方に立ってくれる母のために。


2


外の景色を見ながら姉のアパートに向かっていた私は今、そのアパートの前にいた。

アパートの外装は汚いという訳ではなかったが、逆に綺麗という訳でもなかった。

そして急に姉の部屋に押しかけるのは悪い気がするのと、車をどこに止めればいいのかを聞くために姉に一通電話を入れる。

電話をかけると手に携帯を持っていたのか、すぐに姉が出た。

「もしもし」

『もしもし、もう着いたの?』

「うん、今アパートの前にいるんだけどどこに止めればいいか分かんないんだよね」

『あぁ、車のことか。車は別にアパートの前に止めておいていいぞ。』

「そんな事していいのか?ほかにも住んでる人いるだろ、迷惑になるんじゃないか?」

『いいんだよ別に、それと私ここの大家さんと仲いいし』

なるほどといったように私は誰もいないその場で頷いた。

「そうなんだ。じゃあ前に止めておくわ。それと今から中に入るけど、入っていいかな?」

『いいぞ。準備も何も私の家はいつでも人が入ってきていいようになってるから』

言ってる意味がよく分からなかった。とりあえず私はシボレーをアパートの前に移動させ、

サイドブレーキを入れてエンジンを止めた。そして姉の住んでいるアパートに入って行った。

姉の部屋は204号室で2階の端の方にあるらしい。

私は小奇麗な階段を上がって2階に行き204号室の前まで来た。

204号室の前の傘立てにはどこにでも売っているようなビニール傘と、黒のナイロン製の傘が立て掛けてあった。

最近使用した形跡はなく、ただそこに置かれていた。

そして私は204号室の扉を開け、中に入った。

「お邪魔します」

靴を綺麗に揃えて脱いだ私は、その奥にある扉に手を掛けた。

木製の扉はギィという音を立てながら開き、その中には水色のパジャマ姿の姉が座っていた。

「久し振り。って言ってもまだそんな経ってないか」

姉は軽く手を挙げてこっちを見た。その部屋は畳の部屋で、

真ん中に座っている姉を見ていると、白雪が畳の部屋で座りながらぬいぐるみと遊んでいるのを思い出した。

「そうだね・・・7日ぐらいかな?」

「そんなもんだったかな」

姉は私を座るように促して台所でお茶を入れ始めた。

「で、ゆきねぇ。何で今日はここに呼んだのかな?」

姉は急須に入れたお湯をお茶の粉入った湯呑に注いでいた。

「なんだろうね、なんとなくかしら」

そして姉は湯呑をちゃぶ台に似たテーブルに置いた。

「・・・何か情報つかめた?」

遠慮なく私は差し出されたお茶に手を付けた。この寒い時期に暖かいものは必需品である。

「いや、特にこれといったものはなかったよ。やっぱり今からの捜査は難しいのかな」

これといって何も調べていない私がそういった。

「やっぱりね、今からはなかなか調べられないものね・・・」

「そうかもね」

ズズズという音を立てながら飲んだお茶は湯呑の半分まで下がっていた。

「ねぇ、なんで誘拐とかをするのかしら?」

一瞬自分対して言われたのかと思い驚いたが、数秒遅れてそれが誰だか分らない複数の人に向けての言葉と分かって落ち着いた。

「いきなりなんだよ。けど、あんまりそういうこと思った事がないからよく分からないな」

「そう、私が分かってる事は、そう言う犯罪者は狂ってるとしか表現できないわ」

その言葉には犯罪者である私でも少しカチンときた。

「それはちょっと違うんじゃないかな。だって犯罪者っていってもピンからキリまでいるのは当たり前で、

しかも世の中には自分はやってないのにも関わらず本当の犯人に犯罪者に仕立てられて刑務所でその人に代わりに罪を償っている人もいるからね」

姉の表情が少し険しくなる。

「けど、犯罪者は犯罪者でしょ。悪い事をやったことに変わりはないわ」

「たしかにね、犯罪を犯したから犯罪者の訳で悪い事をやったのは事実だ」

「でしょ。けどなんで世の中には悪い事をしたのにも関わらず誰にも咎められずに悠々と暮らしている犯罪者がたくさんいるのよ」

姉の表情が一層険しくなる。だが私の表情は至って冷静だ。

「そうなんだよね、警察に捕まらない犯罪者も中にはいるんだよね。しかも法律には時効っていうのがあって15年を過ぎるとその罪はなくなるんだよね」

警察に捕まらない犯人とはまさに私の事だ。

「なんで?なんで15年が経てば罪がなかったことにされるのかしら・・・やったことはずっと残り続けるって言うのに」

「法は絶対だからその事は曲げられないんだよね」

私はテーブルに置かれた湯呑を持ち、完全に混ぜ切れていない粉の事を気にして湯呑を軽く回した。

「私の友人が昔こんな事を言ってたわ、『どんなに長い年月が経とうと、被害者の傷は絶対に消えない。しかし世間からは忘れ去られる』と」

「・・・もしかしてその友人もなにか事件に」

私は素直な気持ちで姉に訊いた。

「えぇ、両親が殺されたって言ってたわ」

「そうなんだ・・・・」

「何でも大学生の頃、休日にいつも通りにアルバイトをしていて夜遅くに帰宅したところ、

家の中の一室が血で染まっていてその部屋の中央で両親が死んでいたそうなの。

そして母親の方は心臓が一突きで即死らしかったんだけど、父親は体中が切り傷で埋め尽くされていて最後に包丁が心臓に突き刺さって死んだらしい」

「あっ、それだいぶ前にテレビで見た。そういえば犯人は捕まって今も刑務所にいるんだったっけ」

一瞬姉の顔が歪んだが、また話を続けた。

「残虐性が高いというのにもかかわらず死刑にならず、将ちゃんが言ったように今も刑務所の中。

ついでに言っておくとその友達は今でもその犯人を憎んでいるらしいわ」

「そりゃそうだよな。まだ社会人にもなってないのに両親をいっぺんに奪われて何も思わないはずがないよな。

ましてや、まだ犯人が生きてるなんて」

私は両手を軽く挙げてオーバーリアクションをとった。

「で、今は私と同じように一人暮らしをしてる」

「へぇ・・・そうなんだ、やっぱりまだその時の傷が残ってて人と話すのが怖くなってるのかな。ようするに対人恐怖症?」

「あんた最近ズバズバ言うようになったのね。本人に行ったら間違いなくブチ切れるわよ。・・・

けどたしかにその事件のせいで彼女は人と話すのが怖くなってるわね」

たしかに今のは失言がった気がする。しかしそれは昔からだ。

「そうなっちゃうもんなのかな、意外と脆いんだよね人って」

「そうかもしれないわね、私だって一時期どんなけ壊れたことがあった事やら」

姉が少し苦笑いをする。

「・・・けど今はなんとか戻ってこれたよね。まぁ人は壊れやすくもあるし治りやすくもあるのかな」

「どうなんでしょうね」

姉の苦笑いが笑いに変わった。

「それと話が変わるけどさ、今度静奈ちゃんが誘拐されたあのショッピングモールまで言ってみない」

「それは遠慮しておくわ、あそこは行きたくないんだよね。なんかあそこに行くとすぐに気持ち悪くなるんだよね」

私は粉が沈殿しかけた湯呑をまた回した。

「やっぱりゆきねぇもちょっとトラウマがあるんだ」

「う〜ん、トラウマっていうか体が拒否するんだよね」

姉は初めて自分のお茶を啜った。

「体がねぇ・・・まぁそういうもんなんじゃないのかな?むしろ普通に行けた方がおかしいのかもね」

窓から見える雲行きが怪しくなってきたのが分かる。

「そうなのかな、分かんないや」

「ゆきねぇ、最近なんかあった?」

私は唐突にどうでもいいような事を聞いた。

「いきなり何よ。そうね、最近は何かあったかしらね。・・・えっと、そういえばこの前いつも通りにお店で働いてたら

見知らぬ男の人が私の事ジロジロ見てきてなんか気持ち悪かったかな」

本当にどうでもいいような話だった。

「へぇ、そういえばゆきねぇは今はお店で働いてるんだ?それとジロジロ見てたのはゆきねぇが変な格好してたか、奇麗だったからじゃない」

「あっ、嬉しいこと言ってくれるな将ちゃんは。けどお世辞はやめときな」

姉は軽く笑って流した。

「そんなことないよ、ゆきねぇは奇麗だよ。前からね」

外の天気は今にも姉が降りそうに状態になっていた。

「全く何言ってんだか・・・だからあのときはあんな事したのかな・・・?」

姉の微笑を含んだ笑みが私には少し怖かった。

「・・・だからあの時は話はあんまりしてほしくないんだけどな。・・・けどあえて答えるんなら、そうなのかもね」

まだ私が高校生の頃の姉は私からすればとても魅力であった。

「そうなんだ。じゃあ聞くけど、今はどうなの?」

「えっ、・・・そうだな・・・」

私は目を下に泳がせていた。

「まだそういう感情があるのかな」

姉がさらに私に追い打ちをかけてきた。

「どうなのかはよく分からないけど。意外とそうなのかもしれないかな」

私はここで答えるのはいけないと判断したのか少し言葉を濁した。

「じゃあ、今からあの時の再現でもしてみる?」

いつの間にか外では目ではっきりと見える程度の雨が降っていた。

「だからあの時はどうかしてたんだって」

姉は私の言動を振り切ってパジャマのボタンに手をかけていた。

「別にいいじゃないの、そんなに減るもんじゃないでしょ」

「その言い方だと少しは減ってると思うよ」

姉は、上から一つめのボタンを外し終えて2つ目のボタンに手をかけていた。

「だからやめてって・・・はぁ、そんなこと聞かないか・・・」

「そうよ、本能に従っちゃいなさいよ、そうしたら楽になるわよ」

姉の服はほとんどはだけて、今では白いブラジャーとそれに隠れる豊満な胸が見えていた。

「どうするの、するの?しないの?」

一見2択に見える質問であったが、姉がひとつの選択肢を隠しているようにも見えた。

「しかたないな・・・どうせゆきねぇはするって言わないと家から返さないんでしょ」

さすがの私もそれに従う事にした。

「正解、しないって言ったらここから出さない予定だったから」

姉は満面の笑みを浮かべていた。

「つまりここに呼んだ本当の理由って・・・」

「違うわよ、これはただの気まぐれよ。本当になんとなくなのよ」

姉はボタンをすべて外した服を脱ぎ棄てて、ズボンに手を掛けていた。

「ほら、あんたも脱ぎなさいよ。私だけ脱いでたら馬鹿みたいじゃないの」

「けど寒いじゃん」

「すぐに暖かくなるわよ」

そう言うと姉は部屋の隅に寄せられていた布団を引っ張り出してテーブルを退()かした。

「ほら、早く脱ぎなさいよ」

姉の身に着けている衣服は上下同じ種類のショーツとブラージャーだけであった。

「じゃあ寒いから布団に入ってるね。準備がすんだらきてね」

そう言うと姉は布団に潜り込んだ。

どうしたものか・・・これはもう逃げられないらしい。つまり、今から起きることは近親相姦か?

いや二人の同意があるからそうとは言わないのか。だが私が白雪と・・・まぁその話はもっと先かな。

私はセーターを脱ぎ、ベルトを外した後にジーンズのホックを外しジッパーを下ろしてジーンズそのものを脱いだ。

そして姉が潜り込んだ掛け布団を剥ぎとり、姉のいる布団に入って行った。____________






「ねぇ将ちゃん・・・昔のこと覚えてる?」

至福の笑みを浮かべた姉が私に問いかけた。

「昔っていつぐらいのこと?」

姉がいつぐらいの事を指しているのか私には分かっていた。

「私が大学生ぐらいの時で将ちゃんが高校生の時かな」

「・・・うん、覚えてるよ」

私は姉を抱きしめた。先ほどと同じように。

「あの時は楽しかったよね」

そんな私を姉は抱き返してきた。

「そうだね、なんにも考えないでいれたからね」

「じゃあその時の話でもしようか」

姉は僕の方に向き直った。顔が近いためか姉の温かい吐息が私の顔にかかる。

「別に構わないよ」

「じゃあしよう」

そして私達は軽くキスを交わした後、長い長い昔話が始めた。




今回は誤字や脱字がある可能性があるので、あったらすいません。


なんだかんだいって7話になりました。


ここまで見てくださっている皆様方本当にありがとうございます。


2月10日:すいません。誤植があったので修正しました。

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