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ビックリどっきりパニック。

お父様に新薬と最近気になると言っていた目の疲れに効く薬を渡す為に書斎に向かった。


けれど、新薬の説明をするだけでそんなに長くいるつもりじゃなかったのに兄の登場でかなり話が長引いてしまった。


それも八割方、私の自己責任と言えよう。

あんな変態な兄でも、仕事はかなり出来る凄く優秀な次期アトリエス家の跡取りなのだ。

お父様のサポートをして仕事を学んでいる姿は黙っていれば本当にイケメンな十二歳。

誠に残念な人である。


そんな兄も業務に関する書き物が日に日に多くなっていて、流石に疲れが出始めていた。

特に、手を酷使していたからか手に痛みがあるのが観察していてすぐに分かった。


だから、痛みを和らげる塗り薬を兄に渡したのだけれど…。



(自分で直接、渡したのは失敗だったな…。)



まさかあんなに喜ぶとは思わなかった。

終始、ニコニコして私に抱き付いて離れなかった兄。

従者に引っ張られて帰る時もスキップしそうな勢いだった。

従者の人に「ご迷惑をお掛けしてすみません、トワ様」と謝られてしまった。

兄の従者なんて、とんでもなく大変だろうに…今度、疲労回復薬をあげよう。うん。



「ふむ、これが目薬かい?透明で水の様だ。これが薬とは実に興味深いねぇ」

「……………えぇ、一滴か二滴を目に垂らして下さいませ。二日くらいで目の疲れも無くなってすっきりすると思いますわ」

「それは、素晴らしい効き目だ。本当にお前には驚かされてばかりだね」

「ふふっ、そう言って頂けて光栄ですわお父様」



いけない、いけない。

兄との話の疲れでお父様との癒しの会話時間を無下にするところだった。

意識を切り換えて、もう一つの用事であった新薬の説明をする為に薬を籠から取り出す。


この薬はお父様のお姉様、つまり私のおば様に渡す薬なのだ。

ククルおば様はとても優しくて可愛いらしい人だ。そして、ほんの少し…訂正。かなり、おっちょこちょいな性格だったりする。


ぽやーんと空を眺めていて木にぶつかるというのも日常茶飯事。

誰かしらがおば様の傍にいないと必ず怪我をする危なっかしい人なのだ。


そんなおば様が今回は一番下のご子息様が足を滑らせて転んだところを庇って、強く背中を打ってしまったらしく、今はベッドで安静にしているとのこと。


以前にお会いした時に渡した、傷口に塗る塗り薬の効果を大層気に入ってくれたおば様はそれからというもの薬の処方は必ず私に頼んで頂けるようになった嬉しい常連客様である。



「ククルおば様へのこの薬は一日二回、朝と夜塗って頂ければ三日程で回復するとお伝え下さい。明日、お父様がククルおば様の家へ訪問なさると聞いたのでご用意致しましたわ」

「おお!頼んだのが昨日だというのに…素晴らしいな。ありがとう、トワ」



お父様がこんなに喜んでくれるだけでも、頑張った甲斐があったってもんだ。

昨日、お父様の元におば様の容態の内容と薬を頼みたいという内容の書かれた手紙が届いたので、かなり急いで昨日は薬を作った。


お父様の書斎にあるふかふかなソファーで紅茶を飲みながら一息ついていると、お父様が小さな箱を差し出してきた。



「…?お父様、これは?」

「いつも頑張っているお前への贈り物だよ。隣国でしか手に入らない宝石で作らせた物さ」

「まぁ…とっても素敵…。こんな素晴らしい物、私が頂いてもよろしいのですの?」

「お前の為に用意したんだ。貰っておくれ」

「ありがとうございます、お父様。ずっと大切にしますわ」



お父様がくれたのは私の瞳の色と同じ色に輝くエメラルド石のピアス。

雫型の小さめの作りだけど、輝きが存在感を際立たせている。

とても素敵で私は凄く気に入った。


お父様ったら、ぽちゃなのにイケメンってどういう反則技なのだ。

惚れてまうやろ!ぽちゃパパ!



「ククルが元気になったら、今度はトワも一緒に会いに行かないかい?ククルがお前に会いたがっていたからね」

「私もククルおば様にまたお会いしたいと思っておりましたわ。とても楽しみです」

「あぁ、きっと喜ぶよ。それと、リリィも一緒に来たら良い。ククルは大の犬好きなんだ」

「ワンッ!」



優しく微笑みながら、リリィの頭を撫でるお父様に十分に癒された私はまた温室へと戻った。


最近はとある薬を完成させたくて、ずっと温室に籠りっぱなし。

その薬は人間用ではなくて、植物用の物なのだ。

植物用は作ったことがなく初挑戦なので色々と試行錯誤して作っている。



(うーん…後、一つの決め手なんだよな。もう少しで完璧な薬が完成するのに…。)



唸りながら、その対象の植物を見つめる。


その植物は三日前に突然、温室に咲いた虹色の薔薇だ。

どんな本を読んでも虹色の薔薇についての情報が全く無く、名前もどんな花なのかも全然分からない。


でも、その薔薇は咲いた直前から一枚、また一枚と花びらを落として今では残り三枚となってしまっている。

どうしても、またこの薔薇を綺麗な美しい花に咲かせたかった私は悩みに悩んでいる。



「クゥン…」

「ん?どうしたのリリィ?………って、それってナロの実じゃない。これがどうしたの?」

「ワンッ!」

「…使えるって、ナロの実を?………待ってそれありかもしれない!この実の主成分は自然治癒力の向上の効果がある!リリィ凄い!!ありがとう!」



リリィが咥えて持ってきたナロの実を他の材料と混ぜ合わせ、やっと納得のいく薬が出来た。


成功を祈りながら、薔薇に一滴だけその薬を垂らすとだんだんと花びらを増やしていく。

さっきまでの元気の無い薔薇が嘘の様に、元の美しい薔薇に戻った。


成功だ!と言おうとした瞬間、薔薇から一粒のビー玉くらいの大きさの虹色の玉がコロンと落ちてきて、ギリギリ手のひらでキャッチした。


危なかった…とほっとしたら、まさかの玉に亀裂が入ってピシピシと割れ続ける。



「え、えぇ?!ど、どうしよう?!リリィ、どうすれば良いのこの玉?!」

「ワン」

「いやいや、そんな冷静に吠えないで?!」



アワアワと慌てるが、どうしたら良いのかも分からず玉を見るしかなった。

そして、とうとう亀裂が玉を一周しピタリと割れる音が止まった瞬間、パカッとされはもう綺麗に真っ二つに割れた。


パチクリと瞬きを数回する。

えっと…これは…その…えーっと、まさか?



「…あう、あーうー…まー!う!」



玉から出てきたのは、小さな手を必死に私に伸ばしてくる、小さな小さな妖精の赤ちゃんだった。

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