虹色の雫。
「まーうー、まー!」
「「…………」」
妖精の赤ちゃんがクルクルと私の頭の上を飛び始め、それと同時に私の頭も混乱してクルクルしてきた。
薔薇から生まれた妖精の赤ちゃんは、真っ赤な燃える様な髪と虹色に輝く瞳。
羽も瞳と同じ色で、体の大きさは大人の親指程度しかなかった。
え、ちょ…パニックなんですけど。んん??
「まーまー!」
「うわ…ちょ、ヤバい…母性本能が七歳にして目覚めそう…!何この子超可愛い!」
「あーうー?」
「とにかく一旦、私の部屋に行こう!」
おいでと言うと、妖精の子はちょこんと私の肩に座ってきた。ヤバカワです。
移動している間もずっとキャッキャッと笑って楽しそうで、早くも私の中でこの子の名前候補がいくつか浮かんでいた。
部屋に入って枕の上にその子を乗せ、私は正面に正座して話す態勢になった。
ちなみに、服は何やら葉っぱで出来たシャツとズボンを着ている。これがまた可愛いんですよね。
話そうとした時、コンコンッと窓ガラスを叩く音がしたと思ったらハヤテが薬届けを終えて帰って来た。
ハヤテは器用にくちばしで窓を開けると、私の肩にとまり頭を頬に擦り付けてきた。
これはハヤテが誉めて~というおねだりの動作である。
いつもの様にハヤテの頭を撫でてあげていると、膝に小さな衝撃を感じた。
目線を落とすと、妖精の子がポカポカと私の膝を叩いて頬をプックリと膨らませていた。
あれ…?もしかして、怒ってる…?
「ぼ、ぼく…の、まー…まー!」
「?!喋った?!」
「キュイ!キュイキュイキュイー!」
「むー!やーなの!!」
「話、成立してるの?!」
妖精の子は飛ぶと、ギューッとハヤテとは反対の私の頬に抱き付いてきた。
そして、私の顔を挟んで何やら喧嘩し始める子供達。どうしたんだ君ら。
隣に座るリリィは呆れている……様に見える。
というか、妖精の赤ちゃんって生まれてすぐに話せるものなの?
凄い成長速度ではないか。さっきまでうーうー言ってた子が拙いながらも話しているなんて…お母さんは嬉しいよ!………あ、生んでなかった。
ゴホン。冗談はさておき、喧嘩がヒートアップしそうなので両者の頭を撫でて落ち着かせる。
不本意そうな表情だけれど一応、喧嘩をやめてくれたのでホッと一息。
「えっと、ハヤテはお帰りなさい。配達ありがとう。それと妖精さんも改めてまして、こんにちは」
「キュイ!」
「こ、ちはー!」
「うん。可愛い。それで、妖精さんに質問なんだけど…名前とかってあったりする?」
「なー!」
おもいっきりブンブンと首を横に振る妖精の子。
おお!これは嬉しい!
実はこの子にピッタリな名前を考えていたのだ。
名前はその人だけが持つ特別なモノ。
好きな人に呼ばれればそれだけで嬉しくなる大きな素晴らしい魔法だと前世で母に言われたのを思い出す。
「貴方の名前はレインロゼ!「虹色の雫」って意味があるの!
虹色の薔薇の雫から生まれた妖精の子なんて最高に素敵ね!」
「すー、きー!ぼく、すきー!」
「気に入ってくれた?あはは!くすぐったいよレイン!」
スリスリと頬に擦り寄ってくるから、レインの赤い髪が当たってくすぐったい。
でも、とても喜んでくれるみたいで私も凄く嬉しい。
レインの頭を優しく撫でた。
偶然とは言え、レインの生まれたあの薔薇が温室に咲いていて本当に良かった。
もし、庭の奥なんかに生えて、あのまま薔薇が枯れていたかもしれいと思うとゾッとした。
枯れていたら、レインが生まれてなかったかもしれないのだ。
「レイン、私の大切な友達を紹介するね。この子がハヤテでこの子がリリィ。
二人とも凄く賢くてとっても優しいから安心してね」
「ワンッ」
「……キュイ」
「リーすき!ハヤきらい!」
「キュイ?!」
「あはは…」
リリィの前足にしがみつきながら、ハヤテから顔を反らすレイン。
二人が仲良くなれるように祈るしかあるまい。
ハヤテとレインがプチ喧嘩をしているのを黙って眺めているリリィを優しく見守っていると侍女が昼食の知らせに来てくれた。
「失礼致しますトワ様、ご昼食の準備が整いましたので下に………え、妖精?」
「えぇ?!トワ様ったらいつの間に妖精の加護をお受けになられたのですか?!」
「加護?」
「うわぁ…!妖精の加護なんて素敵ですトワ様!今日はお祝いですね!!」
「では早速、パーティーの準備に取り掛からなくてはですね」
「ちょ、サナもアリンも落ち着いて!説明をお願いしたいですわ?!」
二人とは、あの険悪だった雰囲気が嘘の様に今ではとっても仲良しだ。
サナは弛く編んだ茶髪の三つ編みとそばかすが可愛く、私のドレスを選ぶ時など尋常じゃなくテンションが高い時があり、見ていてかなり面白い女の子。
アリンは冷静沈着で、あまり気持ちが表情に現れない。一言で言うとクールビューティーだ。
髪型は黒髪ボブで、顔が小さくて手足が長くてモデル並みに綺麗な女の子。
サナのツッコミ要員として重大な役割を担っている。
二人とも仕事の腕は超一流で、本当に早い。
一聞いて百行動出来るって感じだ。
まだ、二人が十八歳とは驚きでしかない。
そんな二人とは仲良くなってからは、一緒にお茶したり、悩みがあれば良き相談相手になってくれたりする私の大切な友達なのです。
「私、まだ妖精族や妖精についてはあまり勉強してなくて…まだ良く分からないの。
良かったら妖精について、詳しく教えて下さらない?」
「勿論ですよ、トワ様!妖精のことなら私にお任せ下さいませ!!」
「では、ご昼食に遅れてしまいますので、歩きながらでもよろしいですか?」
「ええ!とても助かるわ!」
これで、やっとレインについて知ることが出来ると思うと好奇心でウズウズした。
二人と話している間、私の膝の上でずっと不思議そうに首を傾げていたレインの柔らかい頬を優しく撫でた。




