永遠の偽物。〜アロネット視点〜
「彼女」と出会った日の事は今でも覚えている。
あれは私が八歳の誕生日を迎えた日の事。
「「お誕生日おめでとうアロネット」」
「おめでとうございますアロネット様。お嬢様も八歳…いやはや、時は早いですなぁ…」
「ふふふっ、今日はお嬢様の好きなチョコレートケーキ!張り切って作らせて頂きましたよ!」
「ありがとう皆!わぁ…可愛いケーキ!!」
私の家は貴族だけれど普通の位であり中間の位置。
他の貴族と比べるとそんなに贅沢もしない平民寄りの貴族だった。
少し大きい家と数人の執事さんとメイドさん。
とても優しいお父さんとお母さん。
お父さんは元平民出身で魔法学園で貴族の娘だったお母さんと出会ったらしい。
代々、お母さんの家は結婚相手の家柄を気にせず恋愛結婚を快く受け入れ、お父さんとお母さんの結婚を認めたという凄く素敵な話を私は昔から聞いていた。
そんな素敵で温かい家と家族、家にいる執事さんもメイドさんも私は大好きだった。
こんな幸せがずっと続くと良いなと願いながら目を瞑りケーキのロウソクを吹き消し、幸せな時を過ごした。
その夜、「彼女」が現れた。
ずっと欲しかった菫の花のネックレス。
お父さんとお母さんと一緒に町に出掛けた時に見付けたもので、とても可愛くて凄く惹かれた。
けれど、その日は二人のお仕事を見たくて私の我が儘でついて行った日だから欲しいと言うのは遠慮した。
(お父さんとお母さん…私がこれが欲しいって何で分かったんだろう?)
誕生日プレゼントだよ、と言って渡された白い箱にピンクのリボンが巻かれた細長い箱を開けた時は踊り出しそうになった。
それくらい私は嬉しかった。
寝る前に鏡の前でつけてみると、少し自分が大人になれた様な気がして。
「えへへっ…明日からつけようかなっ」
「へぇ、良いじゃない。可愛い私に似合いそうなネックレスだわ」
「っ、?!」
私の部屋には私しかいなかった筈なのに。
鏡に写るのはいつの間にかベッドに座っていた一人の女の子。
彼女はゆっくり私の前まで歩いて来るとチャリ…と私のネックレスを優しく触った。
黒い髪で顔半分が隠れていて、口元しか分からない。背は私と同じくらい…その子の笑みが私には何故かとても怖く感じた。
「貴女は、誰…?それに、どうやって…?」
「私はアロネット・ナディア。宜しくね、私の偽物さん」
「私がアロネットだよ?貴女の本当の名前は?」
「はぁ?!口答えすんなブス!!」
ドンッと体を強く押されて、後ろにあった鏡に肩をぶつける。その衝撃で鏡が割れてしまった。
こんなに大きな声と音を出しているのに、家にいる人が誰も来ないのはおかしい。
いつもなら少しの音でも心配性なお父さんが駆け付けてくれるのに…何で来ないんだろう…。
押された時に痛めた足で上手く動けない。
見上げると彼女はさっきとは違うとても怖い顔をして私を睨んでいた。
彼女の髪に隠れた目が見える。
そこには狂気が浮かび、彼女に掴まれている髪が数本抜け落ちた。
「期待しても無駄よ。魔法で人避けしてるから誰も来ないから集中して話せるわ」
「何で…っ、こんな事…す、るの?痛っ…」
「何度も言わせないでよ。私は貴女になってあげるの。それで彼らを手に入れる…あぁ、なんて素敵なゲームなのかしら…!!」
彼ら?ゲーム?
彼女は頬を染めて幸せそうな表情をした。
怖い怖い怖い…!お父さん、お母さん助けて!!
ガチガチと歯が当たり、体が震える。
此処にいたら駄目だと判断して力一杯、彼女を押して痛む足を引き摺り扉へと向かう。
後少しだという時に背中を押され、彼女は私の上に馬乗りになった。
「チッ…往生際が悪いわね!私の人生計画にアンタは不必要で邪魔な存在なのよ。
あたしが主人公、アンタがモブ…お分かり?」
「い、嫌だ!助けて!お父さん!お母さん!皆!!」
「うるさいわねぇ。誰も来やしな…ん?」
誰も来ないと言われても必死に叫ぶと、扉の向こうからドタドタと此方に向かって走る足音が聞こえた。
私の名前を呼ぶ声も聞こえる。
来てくれた…!来てくれたんだ…!!
諦めずにもう一度叫ぼうとした時、口を塞がれそして体の中に嫌なものが流れ込んで来る感覚がした。
「最悪だわ!この天才の私の魔法が途中で切れるって何なの?!
まぁ良いわ…アンタのその体と人生、返して貰うわね。ふふっ、さよなら偽物さん」
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」
扉に手を伸ばしていた手から力が抜け、私の意思とは関係無く体は何事も無かったかのように立ち上がる。
何で…?体が思い通りに動かない!!
それは私の体では無いような、嘘…だよね?だって私が「アロネット・ナディア」で、これは私の体で…何で。
「アロネット様?!お声が聞こえましたが大丈夫ですか?!」
「大丈夫かい?!パパとママが来たからもう安心して良いよ!!」
「アロネット?大丈夫?」
違う!違うの!これは私じゃない!!
いくら叫んでも私の声は届かない。
気持ちとは裏腹に私の体は、顔は勝手に笑顔を浮かべてお母さんに抱き付いた。
「ごめんね…皆。凄く怖い夢を見たの…でも、皆が来てくれたからもう怖くないよ!」
「そうか、良かったよアロネット。怖い夢か…今日は一緒に寝るかい?」
「大丈夫!お父さん達がくれたこのネックレスがお守りだもん!平気よ!!」
彼女はネックレスをお父さん達に見せた。
それは私が貰ったものだよ!お願い返して!!
お父さん、お母さん、皆!
私に気付いてお願い!お願いだから…!!
閉まっていく扉に絶望を感じる。
私は此処にいるのに…これは私じゃないのに。
「安心して?私がアロネットとして何も問題無く生きていくから。アンタは消えれば良いわ」
割れた鏡に写る私の顔はとても幸せそうに笑っている。
お願い…
誰か「私」に気付いて…
次もアロネット視点です。




