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王子と書いて自由人と読む。

ハルト様が何をどう血迷ったのか、あの誕生日パーティーの日に広間のど真ん中で私を婚約者として発表した。


両親は大喜び。

ご令嬢達は阿鼻叫喚の嵐。


特に凄かったのは、お兄様が立ったまま気絶していたことだ。

余程、私の婚約発表がショックだったのだろう。

私もショックですお兄様。


何で私が婚約者に選ばれたのかが全く理解出来なかった。

そして、そのまま何が何だか分からないまま、私と王子の婚約の話が国中に知れ渡ったのはあっという間だった。



(はぁ…ゲーム通りの展開になっちゃったよ…。)



トワとハルトの婚約は、トワが婚約者になる為に裏で色々な手を回して強引に婚約を結んだのがきっかけだった。


私が何の行動も起こさなければ婚約をすることになんかならないと考えていたけれど、何故かゲーム通りに話が進んでしまった。


それだけでも謎なのに、だ。

更に最近、私の頭を混乱させている事態がある。



「朝から温室に籠って薬の調合か?僕が来たんだ。構え」

「……ハルト様。何度もおっしゃっているでしょう?私は見ての通り、忙しいんですの。

ハルト様もお仕事があるのではなくて?」

「そんなもの、僕が本気を出せばすぐに終わる。だから構え」

「どんだけ自由人ですの?!」



それがこの毎日毎日毎日、私の家に訪れるハルト様のことである。


飽きもせずに必ず土産の品を持って私の仕事の邪魔…失礼。ちょっかいを出してくる王子。

構えって何ですか構えって。


他のご令嬢に言ってあげて下さい。

多分、鼻血出して喜ぶと思いますよ彼女達。



「これは何の薬だ?粉でも塗り薬でもない、小さな丸い個体薬とは面白いな。

何という名前の薬なんだ?」

「錠剤でござい……って、ちょ、ハルト様?!

そんな雑に扱わないで下さいませ!」

「雑に扱ってなどいない。見ているだけだ」

「あぁ!瓶をそんなに振らないで下さいませ!」



ハルト様は楽しそうに笑って、他の薬も興味深そうに見て回り始めた。


この自由人な姿のハルト様が私の中で当たり前になっていた。

年相応の笑顔とやんちゃさ。

楽しいことは楽しい、嫌いなことは嫌い、と普通の子供である王子様。


かなり現実とゲームとの性格に差異がある。


ゲームでのハルト様はもっと面倒な性格だった。

人が嫌いで人を信じることが出来ず、それ故にあの毒舌で自分の周りに人を寄せ付けようとしなかった。


そんな心を閉ざしたハルト様を救うのが我等が主人公である。

純粋無垢で優しく、真正面から正直に向き合ってくれる主人公にハルト様は次第に心を開き、惹かれていくのだ。



(これが偽物の笑顔とは考えられないんだよな~…めっちゃ楽しそうだしハルト様。)



普段、大人っぽい王子が主人公だけに見せる心からの笑顔に王子ファンの女子達は悶え死んでいた。

流石の私でも少しキュンとしたくらい威力は抜群だった。


そんな可愛いらしい笑顔を絶賛大公開中の王子様。

貴重な笑顔の安売りしちゃって良いのですかと問い掛けたい。



「ハルト様、これを国王様にお渡し頂きたいのですがよろしいですか?

以前、国王様に頼まれた疲労回復薬ですわ」

「ありがとう。父様もトワの薬は非常に喜ぶ。……時にトワ。あの動物達はどうにかならないのか」

「リリィとハヤテのことですか?

良い子達でしょう?私の仕事のお手伝いとかもして下さるのですよ」

「いや、そうではない。僕を見る目がやけに鋭い気がするんだ」



気のせいですわ、と笑っておくが実際は当たっている。

リリィとハヤテの最近の荒れ様は凄まじいのだ。


毎日、私の家に来るハルト様が嫌いだと言わんばかりに暴れている。

今も視線が鋭いというのはあながち間違いではない。


そして、リリィとハヤテをも越える荒れ様なのがあの妖精王レイン君。


この前はハルト様が突然、手を繋ぎたいと言い出したので断る理由も無かったから繋いだら事件は起きた。

魔法で木を操って、背後からハルト様を縛ろうとしたレインを全力でとめた。


その直後、レインは大泣きしちゃって、慌てて抱き上げて落ち着かせた。

あれは本当に焦る出来事だった。


その日からレインはハルト様に感化されたのか、以前より一層、私に引っ付く様になった。

なので、さっきから無言で私の足に抱き付いている。



「その子供、トワに引っ付きすぎじゃないか?僕とトワの時間を邪魔するな子供」

「トト、僕の!僕、お前大嫌い!トトとの時間、邪魔する人嫌い!」

「へぇ…ガキのくせに言うじゃねーか。けど、残念だったな。トワは僕の婚約者だ!」

「トトは僕のだもん!!」



私を挟んでバチバチと火花を散らす両者。

リリィとハヤテも鳴き出して、もう温室はカオス状況。


私は苦笑いをするしかなかった。

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