↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/3

陶磁器戦隊ポタリーズ参上!

いつもお読みいただきありがとうございます!白磁の王子様の50話を記念して、戦隊パロを書いてみました。お楽しみいただければ幸いです。

挿絵(By みてみん)


 202X年。

 人々の食卓から、高級食器が消えていく。

 紙コップ。プラスチック容器。ペットボトル。

 使い捨ての文明が、人間の魂を静かに、しかし確実に蝕んでいた。

 その歪みが生み出す怪物——メンドーダ。

 絶望と怠惰が凝り固まった、漆黒の厄災。

 だが、この世界には、まだ希望がある。

 イギリスの陶磁器産業の地「ポタリーズ」から集った戦士たちがいる。



「おはよー」

「モーニン」

 教室の扉を開けた瞬間、コールドンが手を振ってきた。

 ○○国際学園。外国人と日本人が半々という、英語力を売りにした私立の中高一貫共学校だ。俺たちが今通っている場所である。

 なぜこんなことになったのか、という話は少し長くなる。

 東京に、異変が起きている。

 研修先の仲間から届いたレポートには、こう書かれていた。

 黒い怪物が、至るところに現れている。人々の命を蝕んでいる。そして――人間の目には、見えない。

 偶然遭遇した仲間がなんとか怪物を倒し、危機を救ったとはいえ、その数はもはや手に負えない領域に達しつつあった。

 だから、俺たちの出番だ。

 イギリスから東京へ。留学生という形で学校に通い、日本人家庭にホームステイしながら、怪物の出現を待つ。放課後は拠点のティールームに集まり、情報を共有する。

 それが、俺たちのミッションだった。


「コールポート、今日は早いね」

「朝イチで小テストあるから、遅刻できねーじゃん。見直したいし。漢字、難しいよなあ」

「難しいよねー。昔さ、日本風に作ったお皿で、変な漢字書いちゃったのとかあるよね」

「そうそう。……やべー、マジで心配になってきた」

「コルポおはよー」

 隣の席の女の子が声をかけてきた。

「おー、おはよ」

「……コルポって呼ばれてるの?」

 コールドンが目を丸くしている。

「うん、長いから略すって言われて」

「ふーん……」

「何だよ」

「僕もそう呼ぼうかな」

「えっ! ……今さらじゃね?!」

「コルポ」

「…………っ!」

「ハハハ」

「笑うな」


 *


 昼休み。俺は高二のフロアに向かった。

 廊下で、見知った二人の後ろ姿を見つける。

「ダニエルさん、ダヴェンポートさん」

「ここでは先輩って呼べ」

「失礼しました、ダヴェンポート先輩」

 この学校は国際色豊かなぶん、髪型や服装の規定がゆるい。コールドンは浮かないようにと髪を短くしたが、ダニエルとダヴェンポートは今まで通りの長髪のままだ。とはいえここまで長いと、明らかに浮いているのだが。制服のアレンジも割と許されていて、ダニエルは日替わりで華やかな差し色のベストを着ている。一言で言って、派手だ。

「コールポート、何の用だ?」

「天気いいし、屋上でお昼どうですか?コールドンが中等部に声かけに行ってて、シェリーとタスカンも呼んでるんで」

「それは有難い。同級生と話が合わず、閉口していたところだ」

「……ですよねー」

「俺は流行の話題についていけるよう、情報収集している」

「俺は知らないことはすぐ聞いちゃいます。まあなんとなく、馴染んできた感じはしてますけど」

「要は性格の問題だな」

 ダニエルがフッと笑う。俺は何も言わなかった。


 *


 屋上は、青かった。

 吹き抜ける風が頬に心地よく、眼下には住宅街、少し先には高層ビル群がそびえている。

 コールドン、タスカン、シェリーがすでに来ていた。

「お先です」

「お待たせー」

 ベンチに腰かけ、昼食を広げる。学校の売店で買ったパンと、ホームステイ先のお母さんが作ってくれた手作り弁当が半々。俺のは、手作りのおにぎりだ。

「わあー!くまさんの絵が書いてあるー!!」

 タスカンが弁当箱の蓋を開けて目を輝かせた。ご飯の上のそぼろがくまの顔の形に成形されていて、色とりどりの野菜が周りを飾っている。

「素敵だね。僕のはハムと野菜と卵のサンドイッチに、フルーツ付きだよ」とシェリーが柔らかく笑う。

「おにぎり、うまっ」

「中、何入ってるの?」

「サーモン」

「ここでは鮭と呼べ」ダヴェンポートが即座に訂正する。

「その黒いテープみたいな物はなんだ?」ダニエルさんが怪訝そうに覗き込む。

「海苔っていう海藻らしいです」

「日本人は海藻を食べるのか」と、胸を押さえる。

「コルポは食べれるんだ?」

「うん、別にー」

「「「「コルポ?!」」」」

「あっ、その呼び方やめろ!!!」

 どっと笑い声が上がった。ダニエルがいたずらっぽく笑う。

「そんなあだ名が付いたのか。……それなら、ダヴェンポートは、ダヴェポ?」

「やめろ」

 ダヴェンポートの額に青筋が立っていた。


 ピピピ——

 全員のスマホが、同時に鳴った。

 出動命令。

「今?!」

「マジかよ!」

「クマさん、全部食べてないのに〜!」

 泣きそうなタスカンに、シェリーが優しく言う。

「タスカン、早く倒して戻ってきて食べよう」

「急げ! 変身!」

 ブレザーが、戦闘服に変わる。

 俺はピンク、コールドンが白、ダニエルは緑、ダヴェンポートは赤、シェリーは水色、タスカンはオレンジ。

 スマホの位置情報を確認すると、ここから五分の距離。

「飛べば秒で着くな——行くぞ!」


 *


 アパートのドアを蹴破った瞬間、異臭が鼻を刺した。

(……これは)

 俺は思わず袖で鼻を覆った。

 キッチンに蠢く巨大な影。黒い怪物が、倒れた男性の上に覆い被さっていた。テーブルには使い古しの割り箸と空の惣菜パック。床には空ペットボトルが無数に転がり、シンクのスポンジはカラカラに干からびていた。

「……しばらく食器を洗った形跡がない」

 コールドンが静かに言う。

「無理もない」ダニエルが男を見下ろす。「栄養失調に加え、精神的にも相当なダメージを受けていたはずだ。心が折れれば、体も崩れる」

「あ! 気を付けて!」

 タスカンの叫びが響いた次の瞬間——

「ッ!」

 触手が、俺の体に巻き付いた。

 黒い蔦のような腕が、みしみしと締め付ける。怪物がゆっくりと振り向き、澱んだ声を漏らした。

「メンドーダ……メンドーダ……」

(くっ……動けない……!)

「おのれ!」

 ダヴェンポートが右腕を振り上げた。赤い闘気が指先に集束する。

「——グラスカッター!!」

 ガラスの破片が閃光となって飛散した。触手が断ち切られ、ぼとぼとと床に落ちる。

「助かった。さすがガラスと兼業!」

「褒め言葉は後にしろ。——まだ来るぞ!」

 触手が八方に伸びた。床、壁、天井——あらゆる角度から黒い腕が迫り来る。

 だがダニエルは動じなかった。緑のマントを翻し、両腕を天に広げる。

「——メイフラワー!!」

 無数の白い花が爆発的に咲き乱れた。触手にまとわりつき、その動きを絡め取る。怪物が、清廉な花々に縛り上げられていく。

「今だ! 切れ!」

「——アシッドゴールド!!」

 コールドンの右手から、黄金の帯が迸った。縦横無尽に奔る黄金の刃が、触手を一息に薙ぎ払う。

「やったあ!」「やっったー!」

 タスカンとシェリーが飛び上がった。

「まだだ!!」

 ゆっくりと——本体が動き出した。男から離れ、こちらへ向かってくる。その全身が黒い弾丸を帯びて、ぶくぶくと膨れ上がっていく。

「メンドーダ!!」

「うわあああ!!」

 黒い塊が砲弾となって戦士たちを直撃した。俺は壁に叩きつけられ、床を転がる。

「大丈夫か!?」

「いてえ……ヒビ入るだろ!ふざけんな!」

「バリア張ります!!」

 タスカンが両腕を大きく広げた。オレンジ色の闘気が全身から迸る。

「——メタライズドボーンチャイナ!!」

 半透明のドームが六人を包んだ。飛んでくる弾丸を次々と弾き返す。極限まで高めた骨灰磁器の硬度——それはいかなる衝撃にも砕けない、究極の守りだ。

「良いぞタスカン!ヘビーユースに耐えるホテル仕様ぅ!」

「シェリー、頼む!」

 コールドンの叫びに、水色の少年が静かに微笑んだ。両手をゆっくりと持ち上げる。

「——アールデコメイズ!!」

 怪物の周囲に、カラフルな幾何学模様のパネルが出現した。20年代アールデコの迷宮——視覚を攪乱する完璧な幻惑結界。怪物がキョロキョロと周囲を見回す。

「僕らは見えません。今のうちに!」

「——よし!!」

 俺は立ち上がった。全身に、ピンクの炎が宿る。

 右手を天に突き上げ、ターコイズブルーの光が収束していく。

「食器のない食卓に、温もりはない。使い捨ての食器に、魂は宿らない。俺たちが守るのは——人の心が宿る、一枚の皿だ!!」

「——ジュエルスプラッシュ!!」

 ターコイズの粒が雨霰と吹き付ける。怪物が軋む。崩れる。

「これでとどめだ!全員——配置に着け!!」

 六人が横一列に並んだ。

 ピンク。白。緑。赤。水色。オレンジ。

 六色の炎が一つに交わり——

「「「「「「イングリッシュローズ!」」」」」」

 薔薇の洪水が、世界を覆った。

 怪物は——跡形もなく、消えた。



「うう……」

 ゆっくりと男の目が開く。俺は駆け寄り、その身体を抱き起こした。

「……俺は、一体?」

「ずさんな食生活で、身も心もボロボロになっていたんです。たまには——ちゃんとしたお皿でご飯を食べてください。」

 シェリーが湯気の立つカップを差し出す。薄く光を透かす、美しい花柄の磁器。

「お茶も、ペットボトルで飲むより……ずっと美味しいですよ」

 男はカップを受け取り、一口飲んだ。

「……美味しい」

「食事は、空腹を満たすためだけじゃない」コールドンが静かに微笑む。「体と心の、両方の栄養なんです」

「そのカップとお揃いのお皿——使ってみてくださいね」

「……ありがとう」

 男の目に、静かな光が戻った。


 *


「っしゃあ!まだ昼休みだ!間に合うぞ!」

 屋上に戻ってきた俺たちは、弁当へと飛びついた。

「あれ? あれれ?」

 顔から血の気が引いた。

「俺のおにぎりが——ない!!!」

「カーカー!」

 声の方を見上げると、フェンスにカラスが止まっていた。くちばしにご飯粒が付いている。

「……お前だな!」

 一歩踏み出した瞬間、カラスはあっさり飛び去った。

「くっそ!何だよーもう……!」

「コールポ」

「あ?」

「僕、もう一個パンあるから食べなよ」

「え? いいの?」

「はい、カツサンド。コルポ好きでしょ」

「カツサンド! やった!!!」

 俺は、大きな口でかぶりつく。

「……すっかり、コルポって呼び方に抵抗なくなってますね」

 シェリーがぽつりと呟いた。

「単純な奴だ」

 ダヴェンポートが呆れたように言う。ダニエルがふっと笑う。

「お弁当美味しかった!」

 空になったお弁当箱の前で、タスカンが両手を合わせた。

「ごちそうさまでした!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。