陶磁器戦隊ポタリーズ参上!
いつもお読みいただきありがとうございます!白磁の王子様の50話を記念して、戦隊パロを書いてみました。お楽しみいただければ幸いです。
202X年。
人々の食卓から、高級食器が消えていく。
紙コップ。プラスチック容器。ペットボトル。
使い捨ての文明が、人間の魂を静かに、しかし確実に蝕んでいた。
その歪みが生み出す怪物——メンドーダ。
絶望と怠惰が凝り固まった、漆黒の厄災。
だが、この世界には、まだ希望がある。
イギリスの陶磁器産業の地「ポタリーズ」から集った戦士たちがいる。
「おはよー」
「モーニン」
教室の扉を開けた瞬間、コールドンが手を振ってきた。
○○国際学園。外国人と日本人が半々という、英語力を売りにした私立の中高一貫共学校だ。俺たちが今通っている場所である。
なぜこんなことになったのか、という話は少し長くなる。
東京に、異変が起きている。
研修先の仲間から届いたレポートには、こう書かれていた。
黒い怪物が、至るところに現れている。人々の命を蝕んでいる。そして――人間の目には、見えない。
偶然遭遇した仲間がなんとか怪物を倒し、危機を救ったとはいえ、その数はもはや手に負えない領域に達しつつあった。
だから、俺たちの出番だ。
イギリスから東京へ。留学生という形で学校に通い、日本人家庭にホームステイしながら、怪物の出現を待つ。放課後は拠点のティールームに集まり、情報を共有する。
それが、俺たちのミッションだった。
「コールポート、今日は早いね」
「朝イチで小テストあるから、遅刻できねーじゃん。見直したいし。漢字、難しいよなあ」
「難しいよねー。昔さ、日本風に作ったお皿で、変な漢字書いちゃったのとかあるよね」
「そうそう。……やべー、マジで心配になってきた」
「コルポおはよー」
隣の席の女の子が声をかけてきた。
「おー、おはよ」
「……コルポって呼ばれてるの?」
コールドンが目を丸くしている。
「うん、長いから略すって言われて」
「ふーん……」
「何だよ」
「僕もそう呼ぼうかな」
「えっ! ……今さらじゃね?!」
「コルポ」
「…………っ!」
「ハハハ」
「笑うな」
*
昼休み。俺は高二のフロアに向かった。
廊下で、見知った二人の後ろ姿を見つける。
「ダニエルさん、ダヴェンポートさん」
「ここでは先輩って呼べ」
「失礼しました、ダヴェンポート先輩」
この学校は国際色豊かなぶん、髪型や服装の規定がゆるい。コールドンは浮かないようにと髪を短くしたが、ダニエルとダヴェンポートは今まで通りの長髪のままだ。とはいえここまで長いと、明らかに浮いているのだが。制服のアレンジも割と許されていて、ダニエルは日替わりで華やかな差し色のベストを着ている。一言で言って、派手だ。
「コールポート、何の用だ?」
「天気いいし、屋上でお昼どうですか?コールドンが中等部に声かけに行ってて、シェリーとタスカンも呼んでるんで」
「それは有難い。同級生と話が合わず、閉口していたところだ」
「……ですよねー」
「俺は流行の話題についていけるよう、情報収集している」
「俺は知らないことはすぐ聞いちゃいます。まあなんとなく、馴染んできた感じはしてますけど」
「要は性格の問題だな」
ダニエルがフッと笑う。俺は何も言わなかった。
*
屋上は、青かった。
吹き抜ける風が頬に心地よく、眼下には住宅街、少し先には高層ビル群がそびえている。
コールドン、タスカン、シェリーがすでに来ていた。
「お先です」
「お待たせー」
ベンチに腰かけ、昼食を広げる。学校の売店で買ったパンと、ホームステイ先のお母さんが作ってくれた手作り弁当が半々。俺のは、手作りのおにぎりだ。
「わあー!くまさんの絵が書いてあるー!!」
タスカンが弁当箱の蓋を開けて目を輝かせた。ご飯の上のそぼろがくまの顔の形に成形されていて、色とりどりの野菜が周りを飾っている。
「素敵だね。僕のはハムと野菜と卵のサンドイッチに、フルーツ付きだよ」とシェリーが柔らかく笑う。
「おにぎり、うまっ」
「中、何入ってるの?」
「サーモン」
「ここでは鮭と呼べ」ダヴェンポートが即座に訂正する。
「その黒いテープみたいな物はなんだ?」ダニエルさんが怪訝そうに覗き込む。
「海苔っていう海藻らしいです」
「日本人は海藻を食べるのか」と、胸を押さえる。
「コルポは食べれるんだ?」
「うん、別にー」
「「「「コルポ?!」」」」
「あっ、その呼び方やめろ!!!」
どっと笑い声が上がった。ダニエルがいたずらっぽく笑う。
「そんなあだ名が付いたのか。……それなら、ダヴェンポートは、ダヴェポ?」
「やめろ」
ダヴェンポートの額に青筋が立っていた。
ピピピ——
全員のスマホが、同時に鳴った。
出動命令。
「今?!」
「マジかよ!」
「クマさん、全部食べてないのに〜!」
泣きそうなタスカンに、シェリーが優しく言う。
「タスカン、早く倒して戻ってきて食べよう」
「急げ! 変身!」
ブレザーが、戦闘服に変わる。
俺はピンク、コールドンが白、ダニエルは緑、ダヴェンポートは赤、シェリーは水色、タスカンはオレンジ。
スマホの位置情報を確認すると、ここから五分の距離。
「飛べば秒で着くな——行くぞ!」
*
アパートのドアを蹴破った瞬間、異臭が鼻を刺した。
(……これは)
俺は思わず袖で鼻を覆った。
キッチンに蠢く巨大な影。黒い怪物が、倒れた男性の上に覆い被さっていた。テーブルには使い古しの割り箸と空の惣菜パック。床には空ペットボトルが無数に転がり、シンクのスポンジはカラカラに干からびていた。
「……しばらく食器を洗った形跡がない」
コールドンが静かに言う。
「無理もない」ダニエルが男を見下ろす。「栄養失調に加え、精神的にも相当なダメージを受けていたはずだ。心が折れれば、体も崩れる」
「あ! 気を付けて!」
タスカンの叫びが響いた次の瞬間——
「ッ!」
触手が、俺の体に巻き付いた。
黒い蔦のような腕が、みしみしと締め付ける。怪物がゆっくりと振り向き、澱んだ声を漏らした。
「メンドーダ……メンドーダ……」
(くっ……動けない……!)
「おのれ!」
ダヴェンポートが右腕を振り上げた。赤い闘気が指先に集束する。
「——グラスカッター!!」
ガラスの破片が閃光となって飛散した。触手が断ち切られ、ぼとぼとと床に落ちる。
「助かった。さすがガラスと兼業!」
「褒め言葉は後にしろ。——まだ来るぞ!」
触手が八方に伸びた。床、壁、天井——あらゆる角度から黒い腕が迫り来る。
だがダニエルは動じなかった。緑のマントを翻し、両腕を天に広げる。
「——メイフラワー!!」
無数の白い花が爆発的に咲き乱れた。触手にまとわりつき、その動きを絡め取る。怪物が、清廉な花々に縛り上げられていく。
「今だ! 切れ!」
「——アシッドゴールド!!」
コールドンの右手から、黄金の帯が迸った。縦横無尽に奔る黄金の刃が、触手を一息に薙ぎ払う。
「やったあ!」「やっったー!」
タスカンとシェリーが飛び上がった。
「まだだ!!」
ゆっくりと——本体が動き出した。男から離れ、こちらへ向かってくる。その全身が黒い弾丸を帯びて、ぶくぶくと膨れ上がっていく。
「メンドーダ!!」
「うわあああ!!」
黒い塊が砲弾となって戦士たちを直撃した。俺は壁に叩きつけられ、床を転がる。
「大丈夫か!?」
「いてえ……ヒビ入るだろ!ふざけんな!」
「バリア張ります!!」
タスカンが両腕を大きく広げた。オレンジ色の闘気が全身から迸る。
「——メタライズドボーンチャイナ!!」
半透明のドームが六人を包んだ。飛んでくる弾丸を次々と弾き返す。極限まで高めた骨灰磁器の硬度——それはいかなる衝撃にも砕けない、究極の守りだ。
「良いぞタスカン!ヘビーユースに耐えるホテル仕様ぅ!」
「シェリー、頼む!」
コールドンの叫びに、水色の少年が静かに微笑んだ。両手をゆっくりと持ち上げる。
「——アールデコメイズ!!」
怪物の周囲に、カラフルな幾何学模様のパネルが出現した。20年代アールデコの迷宮——視覚を攪乱する完璧な幻惑結界。怪物がキョロキョロと周囲を見回す。
「僕らは見えません。今のうちに!」
「——よし!!」
俺は立ち上がった。全身に、ピンクの炎が宿る。
右手を天に突き上げ、ターコイズブルーの光が収束していく。
「食器のない食卓に、温もりはない。使い捨ての食器に、魂は宿らない。俺たちが守るのは——人の心が宿る、一枚の皿だ!!」
「——ジュエルスプラッシュ!!」
ターコイズの粒が雨霰と吹き付ける。怪物が軋む。崩れる。
「これでとどめだ!全員——配置に着け!!」
六人が横一列に並んだ。
ピンク。白。緑。赤。水色。オレンジ。
六色の炎が一つに交わり——
「「「「「「イングリッシュローズ!」」」」」」
薔薇の洪水が、世界を覆った。
怪物は——跡形もなく、消えた。
「うう……」
ゆっくりと男の目が開く。俺は駆け寄り、その身体を抱き起こした。
「……俺は、一体?」
「ずさんな食生活で、身も心もボロボロになっていたんです。たまには——ちゃんとしたお皿でご飯を食べてください。」
シェリーが湯気の立つカップを差し出す。薄く光を透かす、美しい花柄の磁器。
「お茶も、ペットボトルで飲むより……ずっと美味しいですよ」
男はカップを受け取り、一口飲んだ。
「……美味しい」
「食事は、空腹を満たすためだけじゃない」コールドンが静かに微笑む。「体と心の、両方の栄養なんです」
「そのカップとお揃いのお皿——使ってみてくださいね」
「……ありがとう」
男の目に、静かな光が戻った。
*
「っしゃあ!まだ昼休みだ!間に合うぞ!」
屋上に戻ってきた俺たちは、弁当へと飛びついた。
「あれ? あれれ?」
顔から血の気が引いた。
「俺のおにぎりが——ない!!!」
「カーカー!」
声の方を見上げると、フェンスにカラスが止まっていた。くちばしにご飯粒が付いている。
「……お前だな!」
一歩踏み出した瞬間、カラスはあっさり飛び去った。
「くっそ!何だよーもう……!」
「コールポ」
「あ?」
「僕、もう一個パンあるから食べなよ」
「え? いいの?」
「はい、カツサンド。コルポ好きでしょ」
「カツサンド! やった!!!」
俺は、大きな口でかぶりつく。
「……すっかり、コルポって呼び方に抵抗なくなってますね」
シェリーがぽつりと呟いた。
「単純な奴だ」
ダヴェンポートが呆れたように言う。ダニエルがふっと笑う。
「お弁当美味しかった!」
空になったお弁当箱の前で、タスカンが両手を合わせた。
「ごちそうさまでした!」




