『リールの気持ち3』〜理由〜
〘あ~ぁ……
ついにガイルを怒らせたわね~〙
「…………え?」
フワフワと
ギンちゃんが目の前に現れた
「……怒らせた?」
〘そりゃ、そうでしょー?〙
ギンちゃんは呆れたように腕を組む
〘ここんとこ
ずーっと苦虫を潰したような顔して
ガイルを見て
ちょっと触られただけで逃げる
肩が当たっただけで押しのける
挙げ句の果てには悲鳴まで上げる
……アンタ、何様なのよ〙
「そ、そんなこと……」
思わず言い返して……
「…………」
言葉が止まった
頭の中に、ここ数日の自分が浮かぶ
ガイルが近づけば避けた
手が触れれば慌てた
抱きとめられた時なんて
まるで、触られること自体を
嫌がるような態度を取っていた
「…………」
確かに
ギンちゃんの言う通りなのかもしれない
でも……
「……だって……」
私は俯く
「ガイルとのことを……
ちゃんと考えてたから……」
好きだと言われて
キスをされて
今までと同じようには出来なくなって
どうしたらいいのか、分からなかった
「全部……
全部嫌だったわけじゃない……」
むしろ…
嬉しかった
でも
そんな自分の気持ちが、怖くて
どうしていいのか分からなくて
「…………」
黙り込んだ私の額に
ピンッ!
「いたっ!
デ、デコピン?」
「…………」
ギンちゃんが、じーっと私を見る
〘何、被害者みたいな顔してんの?〙
「…………」
〘アンタがガイルにしたこと
逆の立場だったら
どう思うの?〙
「…………え?」
〘好きな人に近づいたら避けられて
手を伸ばしたら嫌がられて
抱きとめただけで悲鳴を上げられて……〙
「…………」
胸が、ズキッと痛んだ
〘ガイルが、どれだけ傷ついたと思う?〙
「…………」
何も言えない
〘あーあ……
可哀想なガイル〙
「…………」
その言葉が
胸に、重く突き刺さった
「違う、違うよ……」
思わず首を振る
「傷つけたかったわけじゃない
ただ……」
言葉が続かない
〘ふんっ!今更遅いわよ!〙
ギンちゃんが腕を組む
〘ガイルは、アンタを諦めたみたいだし?
アンタは厄介ごとから解放されて
良かったじゃない!〙
「…………」
〘ま、これでガイルが他の誰かと結婚したら
ちゃんと『おめでとう』って言いなさいよ!?〙
「…………え?」
その言葉に、思考が止まった
「……結、婚?」
〘そりゃそうでしょー?〙
ギンちゃんは
何でもないことのように言う
〘今は無理かもしれないけど
いつまでもガイルだって一人じゃないわ
アンタを諦めたんだから
そのうち他の女を———〙
「…………」
ガイルが……
誰かと結婚する?
誰かの隣に立って
誰かを見つめて
誰かに笑いかけて
誰かに…好きだと言って…
そして………
私じゃない誰かに…キスも…する…?
「…………」
ズキッ……
「………つ…っ」
なんで……?
どうして……こんなに……
〘聞いてるの?!バカ女!!〙
「…………」
言葉が出ない
ただ、胸の奥が苦しくて
「……ギン」
低い声が響いた
「…………?」
ギンちゃんが振り返る
「……黙れ」
低く静かな、地鳴りのような声。
「…………っ」
その声に、身体が強張る
ゆっくり振り向く
「………ガ……イル……」
そこに、ガイルが立っていた
「…………」
いつもの無愛想な顔
その姿を見た瞬間
なぜだか………
涙が、溢れた
「…………っ」
〘……だって……ホントのことでしょ?
ガイルは……幸せになるべきなのよ!
こんな……!
甘ったれで、鈍すぎるバカ女なんか
諦めて正解よ!!〙
ズビシッ!
ギンちゃんが私を指差す
そして、そのまま
ガイルの隣へふわりと移動した
「………………ギン」
ガイルが低い声で名前を呼ぶ
「戻れ」
〘~~~~なによ!!
ガイルのために言ってんのよ!
こんな女、さっさと追い出しなさいよ!
ミリーのほうが、まだ———〙
「ギン!!」
ガイルの怒鳴り声が響いた
〘…………っ〙
ギンちゃんがビクッと身体を震わせる
しばらく
ガイルを見つめていたけれど
〘……だって……〙
声が、急に小さくなる
〘だって……ガイルのバカぁ……!!〙
そう叫ぶと
ギンちゃんは泣きそうな顔で
私たちから離れていった
「…………」
静かになった店内
私は、何も言えずに
ただ、ガイルを見つめていた
「…………」
ガイルも、しばらく黙っている
そして、小さく息を吐く
「……悪ぃな」
「…………え?」
「ギンの言ったことは、気にすんな」
「…………」
そう言われても
頭の中には、さっきの言葉が残っていた
『ガイルは幸せになるべき』
『諦めて正解』
『ミリーのほうが……』
そして………
『結婚』
「…………」
その言葉を考えるだけで
胸の奥が、またズキッと痛んだ。




