第26話 調査と、見え始める影
街へ戻る道中。
足取りは重くないはずなのに、気持ちはどこか落ち着かなかった。
(……あれは、さすがに普通じゃない)
頭に浮かぶのは、あの“融合体”。
形の崩れた魔物。
無理やり繋ぎ合わされたような存在。
「ユウトさん」
「ん?」
「先ほどの件ですが」
リリアが静かに口を開く。
「私の知識の中にも、あのような存在はありません」
「やっぱりか」
頷く。
既存の魔物じゃない。
つまり――
(誰かが作ってる可能性が高い)
「一度、専門の方に話を聞いた方がいいかもしれません」
「専門?」
「はい。魔物やダンジョンを研究している方がいます」
少しだけ間を置く。
「ギルドと繋がりのある研究者です」
(研究者、か)
正直、あまり関わったことはない。
でも――
(こういう時は詳しいやつに聞くのが一番だな)
「……頼めるか?」
「はい」
リリアが頷く。
「紹介できます」
⸻
ギルドへ向かう。
中に入ると、いつものざわめき。
だが、昨日ほどの視線はない。
(少し落ち着いたか)
受付で用件を伝えると、奥へ案内される。
普段は入らないエリア。
静かだ。
「こちらです」
扉の前で止まる。
軽くノック。
「どうぞ」
中から声。
入る。
部屋の中は――
「……すごいな」
思わず呟く。
本、資料、紙。
山のように積まれている。
その中央に、一人の人物。
「おや」
顔を上げる。
「君たちが例の勇者か」
柔らかい口調。
だが、目は鋭い。
「リリアです。本日はお時間ありがとうございます」
「ユウトです」
軽く頭を下げる。
「うん、話は聞いているよ」
椅子にもたれながら言う。
「ダンジョンのボスを倒したそうだね」
「……まあ、なんとか」
曖昧に答える。
すると、その人物は少しだけ笑った。
「謙遜する必要はない。結果は事実だ」
それから、少しだけ身を乗り出す。
「で、今日は別件だろう?」
「はい」
リリアが頷く。
「新たに確認されたダンジョンについてです」
そして、説明する。
静かな内部。
集められた死体。
そして――
融合体の存在。
話を聞くうちに、その人物の表情が変わっていく。
最初の余裕が、少しずつ消えていく。
「……なるほど」
最後まで聞き終え、静かに呟く。
「それは、確かに異常だ」
「やはり、そうですか」
「うん」
頷く。
「少なくとも、自然発生ではありえない」
はっきりと言い切る。
(やっぱりな)
予想通りだが、確定すると重い。
「可能性としては二つ」
指を立てる。
「一つは、魔物同士の異常進化」
「もう一つは?」
思わず聞く。
「外部からの干渉」
その言葉に、空気が変わる。
「つまり……誰かが?」
「そういうことになるね」
軽く言うが、内容は軽くない。
「実はね」
少しだけ声を落とす。
「似たような報告が、いくつか上がっている」
「……他にも?」
リリアが目を細める。
「場所はバラバラだが、共通点がある」
机の上の資料を一枚取り出す。
「魔物の異常行動。そして、“集積”」
見せられた紙。
簡単な地図。
いくつか印がついている。
「全部、最近出現したダンジョンだ」
(……完全に繋がってるな)
点が線になる。
偶然じゃない。
「規模はまだ小さいが……」
その人物は静かに言う。
「放置すれば、確実に大きくなる」
「……どれくらい?」
聞く。
少しだけ迷ってから。
「最悪、街一つが飲まれる可能性もある」
軽い口調のまま。
でも、その内容は重い。
沈黙。
部屋の空気が止まる。
(……でかいな)
思っていたより、ずっと。
だが――
「だからといって」
その人物が続ける。
「無理に突っ込むのは愚策だ」
こちらを見る。
「君たちは、すでに一つ成果を出している」
「……はい」
「なら、そのやり方を崩す必要はない」
少しだけ笑う。
「慎重に進めばいい」
その言葉に、少しだけ安心する。
(……分かってる人だな)
「一つ、お願いがある」
姿勢を正す。
「可能な範囲で構わない。この件の情報を集めてほしい」
「情報、ですか」
「戦うだけじゃなく、観察することも重要だ」
頷く。
「できる範囲でなら」
「それで十分だ」
すぐに返ってくる。
⸻
部屋を出る。
廊下を歩きながら、少しだけ息を吐く。
「……思ったより、大きい話だったな」
「はい」
リリアも同じように感じているらしい。
「ですが」
こちらを見る。
「やることは変わりません」
「……だな」
自然に頷ける。
準備して。
考えて。
無理をしない。
それだけ。
「次はどうしますか?」
「……もう一回、あのダンジョン行くか」
少しだけ考えてから言う。
「今度は、調べる目的で」
「はい」
リリアが頷く。
迷いはない。
それだけで十分だ。
ギルドの外へ出る。
空は、少しだけ暗くなっていた。
風も、少し強い。
(……嵐の前、って感じだな)
そんなことを思う。
――最弱スキル“ログアウト”。
それは、逃げるための力。
でも。
“未知を解き明かすための時間”もくれる。
その使い方次第で――
この状況にも、対抗できるかもしれない。
そう信じて。
俺たちは、再び動き出した。




