第20話 現実で、整える、勝つための形
街へ戻る道中。
足は進んでいるのに、頭の中はさっきの“気配”でいっぱいだった。
(……強かったな)
正面からやって勝てる相手じゃない。
あれは、そういうレベルだった。
「ユウトさん」
「ん?」
「先ほどの存在ですが」
リリアが静かに切り出す。
「おそらく、このダンジョンの中核です」
「ボス、ってやつか」
「はい。その可能性が高いです」
やっぱり、そうなるか。
「今のままでは、厳しいかと」
「……だな」
素直に頷く。
変に意地を張る意味はない。
「だから、一回ちゃんと準備する」
「準備、ですか」
「情報も、道具も」
それから少しだけ言葉を選ぶ。
「やれること全部やって、それから行く」
リリアは一瞬だけこちらを見て――
「……はい」
小さく頷いた。
「その方が、確実です」
その言葉に、少しだけ安心する。
(やっぱり、このやり方でいい)
無理をしない。
でも、手は抜かない。
それが今のスタイルだ。
⸻
ギルドに戻る。
さっきの件を簡単に報告する。
ダンジョンの奥に“強い個体”がいること。
無理はしなかったこと。
受付の女性は真剣な表情で頷いた。
「調査継続の判断は、上と共有します」
「お願いします」
リリアが答える。
それで一旦区切り。
外に出る。
「今日はどうしますか?」
リリアが聞く。
「一回、解散でいいと思う」
「……はい」
少しだけ間を置いて、頷く。
「では、また明日」
「ああ」
短いやり取り。
でも、それが自然になっている。
リリアが去っていくのを見送る。
(……さて)
ここからが本番だ。
誰にも見られない場所へ移動する。
人気のない路地裏。
周囲を確認。
問題なし。
「……よし」
目を閉じる。
意識を集中させる。
⸻
――ログアウト。
⸻
自室。
見慣れた天井。
「……戻ってきた」
小さく呟く。
でも、今は休んでいる場合じゃない。
(やることは多い)
まずは整理。
紙とペンを取り出す。
思い出せる限り、書き出す。
ダンジョンの構造。
通路の幅。
敵の数。
強化個体の動き。
そして――
「……あの気配」
手が少し止まる。
思い出すだけで、緊張が走る。
(でも、逃げるわけじゃない)
深呼吸。
続ける。
「正面は無理」
書く。
「動きを制限する必要あり」
「複数対応前提」
次に、道具。
リュックを開く。
中身を全部出す。
水、食料、ライト。
そして、小道具。
「……足りないな」
正直な感想。
あの相手には、もう一工夫必要だ。
(環境を使うか)
ダンジョンの構造。
狭さ。
それを利用する。
「……誘導」
呟く。
位置をコントロールする。
それができれば、勝機はある。
いくつか追加で準備する。
すぐに用意できる範囲で。
無理はしない。
でも、手は抜かない。
「……こんなもんか」
全部をリュックにまとめる。
背負う。
重さを確認。
問題ない。
(あとは……)
少しだけ、考える。
ログアウトの使い方。
タイミング。
(使いどころを間違えるな)
あれは強い。
でも、万能じゃない。
判断が遅れれば、意味がない。
「……先に逃げる準備も、ありだな」
小さく呟く。
帰り道を意識する。
それだけで、生存率は上がる。
最後に、もう一度深呼吸。
(よし)
やれることはやった。
あとは――
やるだけだ。
⸻
――ログイン。
⸻
再び、路地裏。
時間はほとんど経っていない。
「……戻ったか」
小さく呟く。
体の感覚を確認。
問題なし。
そのまま、集合場所へ向かう。
⸻
翌朝。
ギルド前。
リリアがすでに待っていた。
「おはようございます」
「おはよう」
軽く手を挙げる。
「準備は?」
「はい」
短い返答。
でも、その目はしっかりしている。
「ユウトさんは?」
「一応、できるだけは」
リュックを軽く叩く。
「無理はしないけど、やれることはやる」
「……はい」
リリアが小さく微笑む。
「それが、一番だと思います」
その言葉に、少しだけ気が楽になる。
「行くか」
「はい」
並んで歩き出す。
ダンジョンへ。
あの奥へ。
昨日より、少しだけ足取りが重い。
でも。
(準備はした)
不安はある。
当然だ。
それでも――
(逃げずに、行ける)
それだけで十分だ。
ダンジョンの入口が見えてくる。
暗闇が、口を開けている。
――最弱スキル“ログアウト”。
それは、戻る力。
でも。
“勝つために整える時間”をくれる力でもある。
その強みを、全部使う。
そう決めて――
俺は、もう一度その中へ踏み込んだ。




