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第15話 間に合うための一手

地面を蹴る。


 視界の先では、勇者たちが押されていた。


「くっ……!」


「後ろ! もう一体来てる!」


 連携が崩れている。


 強化個体が二体。


 それぞれが暴れ、前衛が耐えきれていない。


(このままだと、まずい)


 リリアが先に動く。


 無駄のない踏み込み。


 剣が閃く。


 ――一体の横合いに入る。


「っ!?」


 不意を突かれたゴブリンが、体勢を崩す。


「今です!」


 声が飛ぶ。


 勇者の一人が、慌てて攻撃を合わせる。


 だが――浅い。


(焦ってるな)


 仕方ない。


 あの状況なら、誰でもそうなる。


 もう一体がこちらに気づく。


 棍棒を構える。


(こっち来るか)


 距離を測る。


 タイミングを読む。


 でも――


(今のままだと、押し切られる)


 人数はいる。


 なのに、まとまっていない。


(……一回、仕切り直すか)


 判断する。


 意識を集中させる。



 ――ログアウト。



「……よし」


 自室に戻る。


 息を整える。


 さっきの状況を頭の中で再生する。


(あのままじゃ、ジリ貧だ)


 個々は強い。


 でも、噛み合っていない。


「……一回、止める必要があるな」


 呟く。


 流れを切る。


 それだけで、立て直せる。


 そのために――


 リュックを開く。


 準備していたものを確認する。


「これと……これ」


 手に取る。


 シンプルな道具。


 でも、使い方次第で状況は変えられる。


(タイミングだけミスるな)


 深呼吸。


 頭の中で、動きを組み立てる。


 誰がどこにいるか。


 敵の位置。


 全部、整理する。


「……いける」


 小さく呟く。


 意識を切り替える。



 ――ログイン。



 戦場に戻る。


 ほんの一瞬のズレ。


 でも、状況はほぼ同じ。


「下がって!」


 声を張る。


 自分でも少し驚くくらい、大きな声だった。


「一回引いて! 固まって!」


 勇者たちが一瞬、戸惑う。


 その隙に――


 前に出る。


 リュックから取り出す。


 地面に、ばらまく。


 ――ガラガラッ。


 乾いた音。


 広がる金属片。


「足元、気をつけて!」


 叫ぶ。


 ゴブリンが踏み込む。


 ――バランスを崩す。


 完全じゃない。


 でも、動きが止まる。


(今だ)


「リリア!」


「はい!」


 すぐに反応。


 強化個体の一体へ、鋭く踏み込む。


 勇者たちも、動きを止めたことで余裕ができたのか――


「今なら……!」


 攻撃が重なる。


 さっきより、明らかに連携が取れている。


(いける)


 もう一体がこちらへ来る。


 棍棒を振り上げる。


(落ち着け)


 動きは見た。


 避ける。


 横へ。


 すれ違う。


 そのまま、背後へ回る。


 バットを振る。


 ――ゴッ。


 浅い。


 でもいい。


 意識をこっちに向ける。


「こっち!」


 叫ぶ。


 敵の注意が散る。


 その間に――


「はああっ!」


 リリアの一撃。


 深く入る。


 一体が崩れる。


「あと一体!」


 誰かが叫ぶ。


 流れが変わった。


(……よし)


 最後の一体。


 囲まれる形になる。


 だが、それでも暴れる。


 棍棒を振り回す。


「危ねえ!」


「距離取れ!」


 混乱しかける。


(……もう一回、止めるか)


 一瞬だけ迷う。


 でも。


(いや、いける)


 今は、流れがある。


 それを切らない方がいい。


「足元!」


 再び叫ぶ。


 さっき撒いた金属片。


 それを踏んで、わずかに体勢が崩れる。


 その一瞬。


「今だ!」


 誰かの声。


 攻撃が集中する。


 リリアの剣。


 他の勇者の一撃。


 重なる。


 ――倒れる。


 土煙が舞う。


 静寂。


 そして。


「……勝った、のか」


 誰かが呟く。


 遅れて、実感が広がる。


 その場にいた全員が、息を吐いた。


 俺も同じだ。


「……はあ」


 肩の力が抜ける。


 思った以上に、神経を使っていたらしい。


「ユウトさん」


 リリアが近づいてくる。


「大丈夫ですか?」


「ああ、なんとか」


 苦笑する。


「ちょっと、疲れた」


「……はい」


 リリアも小さく頷く。


 それから。


「今の、的確でした」


 静かに言う。


「助かりました」


「いや、俺だけじゃ無理だった」


 首を振る。


「みんなが動いてくれたからだよ」


 本心だ。


 あの人数がいなければ、成立しなかった。


 そのとき。


「おい」


 声がかかる。


 振り向く。


 さっきの勇者だ。


 少しだけ息を荒げながら、こちらを見ている。


「……助かった」


 短い言葉。


 でも、さっきとは明らかに違う。


「いや、たまたま上手くいっただけだよ」


 そう返す。


 すると、勇者は少しだけ笑った。


「それができるやつが少ねえんだよ」


 肩をすくめる。


「お前、ログアウトだっけ?」


「ああ」


「……正直、よく分かんねえけど」


 一度言葉を切る。


「さっきのは、普通にすげえ」


 まっすぐな評価。


 少しだけ、照れくさい。


「……ありがと」


 素直に受け取る。


 周囲の空気も、変わっていた。


 最初のような軽い見方じゃない。


 ちゃんと、“戦力”として見られている。


(……変わってきたな)


 実感する。


 でも。


(まだ途中だ)


 慢心するには、早い。


「一回、戻った方がいいな」


 誰かが言う。


「怪我人もいるし」


「だな」


 頷く。


 無理はしない。


 それが一番大事だ。


 帰路につく。


 さっきまで敵だった森が、少しだけ違って見えた。


 隣には、リリア。


 その距離が、前よりも自然に感じる。


 ――最弱スキル“ログアウト”。


 それは、戦闘力じゃない。


 でも。


 状況を変える力は、確かにある。


 そして――


 その価値は、少しずつ。


 周りにも、伝わり始めていた。


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