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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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98:蒸気機関

 技術爆発。


 夜明け前。


 工業区。


 まだ空は暗い。


 それでも都市国家クルザードは止まっていなかった。


 鍛冶炉。


 蒸気。


 鉄槌。


 火花。


 轟音。


 職人街全体が呼吸しているようだった。


 巨大な煙突から白煙が噴き上がる。


 熱気。


 鉄。


 油。


 焼けた石炭。


 空気が工場になっていた。


 中央工房。


 ガルドが巨大な鉄筒を叩いている。


「固定しろ!」


「圧が逃げる!」


 ドワーフ達が叫ぶ。


 アランが金属魔法で鋼材を押さえ込む。


 さらに。


 ドロテアが蒸気魔法陣を展開。


 熱圧制御。


 魔力循環。


 巨大な鉄の塊が唸りを上げる。


 クルザードは図面を見ていた。


 目が異様だった。


 鑑定。


 構造。


 負荷。


 摩耗。


 圧力。


 全部が視えている。


 昔は情報が多すぎて吐きそうになっていた。


 今は違う。


 意味がある。


 繋がっている。


「圧力弁を変える」


「回転効率が落ちてる」


 ガルドが吹き出す。


「お前の頭どうなってんだ」


「こんな速度で改良する奴があるか」


 クルザードは平然としていた。


「まだ遅い」


 その一言で周囲が黙る。


 普通なら。


 ここまでで完成品だった。


 だが。


 この男は止まらない。


 蒸気機関。


 それは鉄道だけの話ではなかった。


 工場。


 水車。


 製粉。


 ポンプ。


 鉱山。


 輸送。


 全部が変わる。


 つまり。


 文明そのものだった。


 午前。


 試験棟。


 巨大な装置が並ぶ。


 回転軸。


 歯車。


 蒸気管。


 圧力計。


 職人達が息を呑んでいた。


 クルザードが言う。


「始動」


 ドロテアが魔法陣を展開。


 火属性。


 熱供給。


 次の瞬間。


 蒸気が爆発的に流れ込む。


 轟音。


 巨大な歯車が回転した。


 建物全体が揺れる。


「動いた!」


「回ったぞ!」


 歓声。


 ガルドが笑う。


「馬鹿だろお前!」


「何だこの力は!」


 今まで。


 人力だった。


 馬力だった。


 水流だった。


 でも違う。


 蒸気機関は。


 “止まらない力”だった。


 クルザードは回転数を見ている。


「出力不足」


「蒸気漏れもある」


「あと二割は伸ばせる」


 全員が頭を抱えた。


 これで不足。


 感覚がおかしい。


 マチルダが呆然と呟く。


「国家予算全部吹き飛ばすレベルの技術なのよこれ……」


「分かってる」


「だから独占する」


 静かだった。


 だが。


 その言葉は重い。


 技術独占。


 つまり覇権。


 昼。


 都市外周。


 新型蒸気輸送車。


 巨大。


 黒鉄。


 煙突。


 蒸気。


 車輪。


 まるで鋼鉄の怪物だった。


 村人達がざわつく。


「何だあれ……」


「ドラゴンより怖ぇ……」


 ティグリスが車体を叩く。


「硬ぇなぁ」


「これ戦車みたいなもんじゃないか?」


「装甲追加すれば可能」


 クルザードが即答する。


 全員が静止した。


「いや待て」


「今さらっと危ないこと言わなかった?」


 ヴァレリアが顔を引きつらせる。


 クルザードは真面目だった。


「兵站車両に武装搭載は合理的」


「輸送防衛できる」


「盗賊も減る」


「治安維持も兼ねられる」


 合理の塊だった。


 怖い。


 でも。


 正しい。


 試験走行。


 蒸気噴射。


 轟音。


 鉄車輪が回る。


 土煙。


 速度。


 速い。


 荷馬車を軽く超えていた。


 さらに。


 重い。


 大量輸送。


 積載量が桁違い。


 ヴァレリアが笑い始める。


「商人終わったわねこれ」


「今までの常識全部死ぬ」


 その通りだった。


 物流速度が変わる。


 つまり市場が変わる。


 食料価格。


 鮮度。


 輸送コスト。


 全部崩壊する。


 他国。


 王都。


 会議室。


 貴族達が怒鳴っていた。


「何なんだあの都市は!」


「鉄道だの蒸気だの!」


「意味が分からん!」


 情報官が震えながら報告する。


「既に商人の流出が始まっています」


「職人もです」


「高給」


「食事保証」


「住居保証」


「教育制度」


「医療完備」


「税率低下」


 沈黙。


 絶望的だった。


「……勝てる訳がない」


 誰かが呟く。


 軍事ではない。


 生活。


 そこが違いすぎる。


 夕方。


 都市国家クルザード。


 工業区。


 新工場建設。


 蒸気機関搭載製粉所。


 大量の小麦。


 高速回転。


 粉が滝のように出る。


 パン職人達が絶句していた。


「一日分が……」


「一時間で終わった……」


 さらに。


 水汲み。


 蒸気ポンプ。


 井戸。


 大量揚水。


 水路へ送水。


 農地。


 灌漑。


 全部繋がる。


 マチルダが震える。


「農業革命まで始まってる……」


「当然」


 クルザードは簡潔だった。


「水が安定すると収穫量が変わる」


「余剰が出る」


「余剰は人口を増やす」


「人口は国家を強くする」


 全部一本線だった。


 だから強い。


 夜。


 食堂。


 巨大鍋。


 湯気。


 肉。


 味噌。


 香り。


 焼きたてパン。


 酒。


 人で溢れている。


 獣人。


 エルフ。


 ドワーフ。


 人間。


 全員が笑っていた。


「仕事がある!」


「飯がある!」


「冬でも暖かい!」


「子供が死なねぇ!」


 そこだった。


 技術は。


 人を生かすためにある。


 クルザードは鍋を見ていた。


 デニーゼが隣に座る。


「また考え事?」


「次を考えてる」


「まだあるの?」


「ある」


 クルザードの視線。


 遠く。


 鉄道。


 工場。


 蒸気。


 都市。


「蒸気だけじゃ足りない」


 デニーゼが苦笑する。


「怖いわねぇ」


「普通の人なら人生かける技術を」


「通過点みたいに言うんだから」


 クルザードは少しだけ笑った。


「止まる理由がない」


 それだった。


 この都市国家が恐ろしい理由。


 勝って満足しない。


 快適を止めない。


 改善を止めない。


 だから加速する。


 深夜。


 工房。


 クルザード一人。


 図面。


 新型圧縮機。


 蒸気効率。


 高圧炉。


 魔導回転機。


 鑑定が高速で情報を流す。


 昔なら脳が焼けていた。


 今は違う。


 整理されている。


 意味がある。


 成長。


 理解。


 積み重ね。


「……見えてきた」


 呟く。


 次の技術。


 さらに先。


 蒸気だけでは終わらない。


 外。


 列車の音。


 蒸気の吐息。


 工場の灯り。


 夜なのに都市が動いている。


 老人が言った。


「この国は眠らんな」


 若い職人が笑う。


「眠ってたら置いてかれる」


 その通りだった。


 もう世界は変わった。


 食。


 物流。


 工業。


 教育。


 衛生。


 鉄道。


 蒸気。


 全部繋がっている。


 そして。


 中心にいるのは。


 相変わらず鍋を振る男だった。


「腹減ったな」


 工房帰りのクルザードが言う。


 ティグリスが笑う。


「お前ほんとブレねぇな!」


「飯食わないと効率落ちる」


 全員が笑った。


 革命の中心で。


 湯気だけは昔と変わらなかった。







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