表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/105

91:外交

 低姿勢。


 朝。


 港は既に動いていた。


 海上輸送船。


 物流ゴーレム。


 荷運びの掛け声。


 魚の匂い。


 焼きたてパンの香り。


 味噌を煮る湯気。


 都市国家となったこの街は、夜明け前から活動している。


 止まらない。


 だから強い。


 中央通り。


 石畳は濡れていない。


 下水が機能しているからだ。


 街灯はまだ消えていない。


 夜勤帰りの職人。


 朝市へ向かう商人。


 学校へ向かう子供。


 兵士より先に、街が動いている。


 その中央。


 巨大な迎賓館の前に、一台の馬車が止まった。


 紋章。


 青銀の鷲。


 北方商業国家レヴァンテル。


 周辺国家で唯一。


 この都市国家を“敵にしたくない”と判断した国だった。


 護衛が降りる。


 鎧は綺麗。


 でも。


 威圧感はない。


 次に。


 一人の男が降りた。


 三十代後半。


 細身。


 長い黒髪を後ろで結んでいる。


 灰色の外套。


 無駄がない。


 名を。


 レオハルト・ヴェイン。


 レヴァンテル外交官。


 商人上がり。


 つまり。


 現実を見る男だった。


 迎える側。


 クルザードはいつも通りの服装。


 豪華ではない。


 実務服。


 隣にはマチルダ。


 ヴァレリア。


 ティグリス。


 護衛は最低限。


 理由。


 本当に強い側は。


 見せびらかさない。


 レオハルトは一歩前へ出る。


 そして。


 深く頭を下げた。


「本日はお時間をいただき、感謝いたします」


 周囲の貴族達が息を呑む。


 普通。


 国家間。


 まず牽制。


 格。


 威圧。


 だが。


 彼は違った。


 理解していた。


 この都市国家。


 既に。


 普通の国ではない。


 クルザードも頭を下げる。


「歓迎する」


「食事は用意してある」


 それだけ。


 だが。


 レオハルトは少し笑った。


「助かります」


「ここ数日、まともな飯を食べていないので」


 冗談ではない。


 本当にそうだった。


 周辺国家は崩れている。


 物流停止。


 食料不足。


 盗賊化。


 飢餓。


 特に内陸国家は酷い。


 保存食技術がない。


 水路も未整備。


 つまり。


 冬を越えられない。


 迎賓館へ入る。


 木の香り。


 暖房。


 清潔。


 湯気。


 レオハルトは少し目を細めた。


「……暖かい」


 それだけで分かる。


 他国では。


 暖房すら贅沢。


 テーブルに料理が並ぶ。


 燻製肉。


 香草焼き。


 魚介鍋。


 焼きたてパン。


 発酵野菜。


 味噌スープ。


 果実酒。


 香りが広がる。


 護衛達の喉が鳴った。


 隠せない。


 クルザードは普通に言う。


「冷める前に食べてくれ」


 レオハルトは一礼した。


「……失礼する」


 一口。


 スープを飲む。


 止まった。


 完全に。


 周囲も静まる。


 彼はゆっくり息を吐いた。


「美味い」


 本音だった。


 誇張ではない。


 塩加減。


 出汁。


 発酵。


 全部違う。


 つまり。


 文化水準が違う。


 ティグリスが肉を切り分けながら聞く。


「レヴァンテルはどうだ?」


 レオハルトは隠さない。


「崩れ始めている」


「まだ耐えている方ですが」


「限界は近い」


 クルザードは黙って聞く。


「北部街道は盗賊化」


「農民流出」


「税収減」


「兵士逃亡」


「技術者不足」


「教師不足」


 止まらない。


 つまり。


 崩壊の兆候。


 マチルダが静かに言う。


「頭脳流出ですね」


「はい」


 レオハルトは苦笑した。


「優秀な人材ほど、こちらへ向かっています」


 当然だった。


 安全。


 飯。


 医療。


 教育。


 仕事。


 全部ある。


 人が流れる理由しかない。


 レオハルトはパンを見た。


「……何故、ここまで整備できたのですか?」


「普通は途中で止まる」


「腐敗する」


「奪い合う」


「内輪揉めになる」


 クルザードは短く答えた。


「食わせた」


「……え?」


「空腹だと人は壊れる」


「満たされると働ける」


 静か。


 でも。


 本質だった。


 食料。


 物流。


 衛生。


 治療。


 教育。


 全部繋がっている。


 だから。


 崩れない。


 ヴァレリアが笑う。


「あと儲かるからよ」


「商人は正直だもの」


 レオハルトも笑った。


「確かに」


 実際。


 この国は利益率が高い。


 輸送損耗が少ない。


 盗賊被害が少ない。


 病気で人が減らない。


 つまり。


 異常に効率がいい。


 ガルドが酒を飲みながら言う。


「他所は見栄ばっかだ」


「鎧は立派」


「城も立派」


「中身が腐ってる」


 レオハルトは否定しない。


 できない。


 知っているから。


 王族の宴。


 貴族の浪費。


 民の飢餓。


 全部。


 見てきた。


 クルザードは聞く。


「今日は何を求めて来た?」


 レオハルトは即答しない。


 数秒。


 考える。


 そして。


 深く頭を下げた。


「敵対しないでいただきたい」


 空気が止まる。


 プライドを捨てた言葉。


 でも。


 正しい。


 レヴァンテルは理解している。


 この国。


 戦争になると勝てない。


 理由。


 兵ではない。


 経済。


 物流。


 食。


 つまり。


 国の根幹が強すぎる。


 クルザードは静かに答える。


「こちらから攻める気はない」


「安心した」


 レオハルトは本当に安堵した顔をした。


 マチルダが資料を開く。


「条件はあります」


「技術者保護」


「奴隷売買禁止」


「難民襲撃禁止」


「交易路共有」


「情報交換」


 レオハルトは全部頷いた。


 早い。


 つまり。


 理解している。


 ティグリスが少し笑う。


「まともだな」


「生き残りたいので」


 それも本音。


 夜。


 歓迎会。


 劇場通りは灯りに満ちていた。


 音楽。


 笑い声。


 酒。


 香辛料。


 焼き串。


 甘い菓子。


 レオハルトの護衛達が呆然としている。


「……夜なのに人がいる」


「女が普通に歩いてる」


「酔っ払いが暴れてない」


 警備。


 街灯。


 治安。


 全部ある。


 つまり。


 安心。


 それが都市を強くする。


 クルザードは屋台で串を買う。


 ティグリスに渡す。


 自然。


 夫婦みたいだった。


 マチルダが呆れた顔をする。


「会談中くらい緊張感を持ちなさい」


「腹減ってると判断鈍る」


「……正論なのが腹立つわね」


 レオハルトは少し笑った。


 理解した。


 この国。


 上が変に偉そうじゃない。


 だから。


 下が機能する。


 広場。


 楽団が演奏している。


 子供達が踊る。


 老人が笑う。


 兵士が見守る。


 争いがない。


 理由。


 余裕があるから。


 食えるから。


 クルザードは空を見る。


「そっちはまだ崩れる」


 レオハルトは否定しない。


「ええ」


「止められないでしょう」


「なら」


 クルザードは真っ直ぐ言った。


「人を逃がせ」


「使える人間も」


「家族も」


「子供も」


「全部だ」


 レオハルトは驚いた。


「受け入れるのですか?」


「働くなら歓迎する」


 それだけ。


 でも。


 その言葉が。


 今の世界で一番強かった。


 レオハルトは静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 本気だった。


 彼は知っている。


 もう。


 時代が変わった。


 剣だけの時代じゃない。


 城の高さでもない。


 民が。


 どこで生きたいと思うか。


 それが。


 本当の国力だった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ